(前回記事)

心の履歴(139)
当時の香港の夜の女性達
2009/04/27 著

https://ameblo.jp/minaseyori/entry-12744504266.html
 

(今回記事)
心の履歴(140) 

高層アパートに連れ込まれ
2009/04/29 著


1977年(S52)の香港の夜。
遠くの街の灯りが見えなくなり真っ暗な山道をタクシーは走る。

何処に向かっているのか? 

隣の座席の上であぐらをかく女性。
運転手と何の話をしているのか?

頭をよぎるのは香港マフィア。
我等三人があの店に行ったことなど、誰も知らない。

今ここで殺され、山の中に埋められて私の死骸は発見されないだろう。

やがてうす暗いながらも光が見えるところへ。ほっとすると同時に、これからどんな事が待ち受けているのか?

車はある建物の正面で停まりました。
タクシー代千円。

拠って残金五千円。

 



どんな建物か暗くて分かりません。
女性の後に従って中に入りました。

高い天井には裸電球。
薄暗い中をエレベーターへ。

降りてきたのは手動式エレベーター。
格子戸に折れ戸式柵。

女性が扉を横にスライドして中に入りました。
寸法は百貨店にあるエレベーター程。

十人は楽に乗れます。

エレベーターはどんどん上昇していきます。
降りたのは17階でしょうか。

エレベーターの扉を開けると、幅三間程の通路の両側にずらりと部屋のドア。通路の奥行きは30mはあったと思います。

女性は二十歩程進んでから左のドアを開けました。
どんな男が待ち受けているか? 

もう、ここまできたら逃げるのは不可能。

ドアを入ると右側にベッド。

1DKのようでした。
女性はベッドに座るなり「マネー!マネー!」と連呼。

「Why?  I paid already thirty thousand yen!」

(何故?私は既に三万円払っている!)
「No! No! 」

お互いの片言の英語では話が見えないので筆談を交えました。私が払った三万円はママの手数料で女性には支払われないとの事。

故に、この場所で私が改めて支払うお金が女性の取り分。
その額は五千円と言う。

どういう訳かそれは私の全財産の額。
右の靴下の中には五千円札が一枚だけ。

これを払ってしまったら一文無しとなる。
それに、ひょっとしてこの五千円だけで済むとは限らない。

お互い、大声で、払え!払わない!の言い合い。
「That's not ours agreement! I go back!」

(約束が違う! 私は帰る!)

そう怒鳴ってからドアを開けて通路に出ました。
背後では女性がわめき叫んでいます。

歩き始めますと、何処からともなく人が集まって来ました。
あっと言う間に囲まれ更に二重の人垣。

40人前後はいたでしょうか。

とうとう香港マフィアに囲まれた!これで一巻の終りか!と思いました。
走って階段を降りたとしても途中息切れして捕まるだろうし。何しろここは17階。

不思議に一瞬冷静になれました。
背が皆私より小さかったからですかね?
それと半袖の下着姿の人もいましたからか。
.
こうなったら、ヤケのヤンパチ。
握手をしたなら少しはリンチの手加減をしてくれるかも。
.
笑顔で「ニーハオ! ニーハオ!」
そう言いながら、片っ端から握手! 握手! 握手! 握手!

藁にもすがる思い。

僅か2~3分でほぼ全員と握手。
終わった時に、これで生きて帰れるかも!と思いました。

あっけにとられて人垣の中にいた件の女性は、私の腕をとりエレベーターへ。
輪の中にいた数名の男性も同乗してきましたから新たなピンチ。

このエレベーターの中の時間は長かったです。当時の香港の人達は、皆痩せていて目がぎょろぎょろしていました。

途中の階で止まって人が乗り込んでくる都度、皆、香港マフィアに見える。降りる人がいれば、ほっとしました。

 

つづく

心の履歴(141) 
ホテルでわめく夜の女達
2009/05/02 著

https://ameblo.jp/minaseyori/entry-12744636367.html

心の履歴30代①入社編:目次
2022-04-08

https://ameblo.jp/minaseyori/entry-12736672224.html