亭主Mは元大阪のローカル銀行勤務。

当時33歳。


ある日の夕方、60歳前後の中小企業のN元社長との三人で居酒屋に入りました。

いつの間にか、話題は彼Mの奥さんの事。
元社長Nが、盛んに褒め称えます。
調子に乗って彼Mも奥さんの家系図を解説。

奥さんの出自はお公家さん。

彼M 「よっしゃ!わしとこで飲みなおそう!」

という事で、三人で彼の自宅に行きました。

 

奥さんを我等に見せるというのです。

夜の11時半頃でしたね。

それからどうなったと思います?

 

彼の家の灯は既に消えている。

亭主は、「シィー、シィー」と言う。

 

そろりそろりと上がる。

抜き足差し足忍び足でキッチンへ。

 

リビングで唯一点灯しているのが、キッチンの豆電球一個。
せめて灯篭流しのろうそく程の光が欲しいもの。

 

奥さんは既にご就寝。

彼は言った手前、無理やり奥さんを起こす。

 

暫(しば)し後、ほんの一瞬、御尊顔を見せただけ。

 

「源氏物語図屏風 若菜上」
外では蹴鞠、中では源氏の妻女三の宮が立って見物。猫が走りだして、御簾が翻ってしまい、柏木は女三の宮を垣間見る。

 

「明日、仕事があるのよ。」

と言って直ぐにお床(とこ)におつきあそばせる。

 

 

何しろ、豆電球からほど遠いから、見目麗しきだろう奥方は、当に御簾(みす)にお隠れになったまゝでお消えになったのだから、まともにご拝謁かなわず。

 

ただ、髪は長めでウエーブがついており、キャリアウーマンという雰囲気であることだけは分かる。

亭主より、遥(はる)かに仕事が出来るオーラを感じる。

 

さてさて、
暗闇に近いその豆球のたった一個の灯りの下の食卓で我等三人は、ウイスキーの水道水での水割り。


缶ビールは、開けるときプシュッと音がするので禁止。

 

氷は冷蔵庫から取り出すには音が出るから禁止。

それにカラカラと音も出る。


まともに声を出すのも禁止。

ひそひそ話し。


無論、早々に退散しました。

ありゃ、今か朝に、しっぽりと亭主が高貴な奥方に叱られるぞ!


外に出てから元社長Nと二人で大笑いしました。

 

1975年(昭和50年)の事です。

 

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(前回記事)

『ほっこり京都人(19) 京都の女性を妻にした男』
2020-07-22 

https://ameblo.jp/minaseyori/entry-12612557336.html

 

(画像)

豆電球

https://sleep-lighting.com/bedtime_brightness

(画像)

源氏物語

https://1000ya.isis.ne.jp/1570.html