日本独自の美を発見し、世界に伝えた人物に、ブルーノ・タウトがいます。

 

『日本の心世界の声』 (7)

■日本美の原点を発見したB・タウト

 


 
タウトは、ドイツを代表する世界的な建築家でした。20世紀の初頭、彼は新しい素材を駆使した前衛的な作品を次々に発表して、センセーションを巻き起こしていました。

 

しかし、ドイツでナチスが台頭すると、ユダヤ人であった彼は亡命して、この日本にやってきました。

 昭和8年(1933)5月4日、タウトは、京都郊外にある桂離宮を訪れました。

 

桂離宮とは、江戸時代初期に建てられた木造建築で、後陽成天皇の弟・八条宮智仁(としひと)親王がつくったものです。

 


 
桂離宮を見たタウトは、「実に涙ぐましいまでに美しい」と驚きと感動を語りました。そして、古代アテネのアクアポリスにたとえました。
 
その20日後には、栃木県の日光東照宮を訪れました。

ここではタウトはさほど感銘を受けませんでした。

 

タウトは、二つの建物を比較して、次のように書いています。

 

「日光の大がかりな社寺の如きものなら世界にも沢山ある……それが桂離宮となるとまるで違ってくる。それは世界にも類例なきものである」(1)
 
 東照宮のような建築物は他の国でも珍しくないが、桂離宮は比類のない傑作だというのです。

 

また、桂離宮を「天皇趣味」と呼び、東照宮を「将軍趣味」と呼んで対比しました。そして、桂離宮を高く評価しました。
 
タウトが発見したものは、それにとどまりません。彼は、桂離宮の独創的な美しさの奥にあるものにたどり着いたのです。

 

伊勢神宮でした。

 

 

「桂離宮は、施工のみならずその精神から見ても、最も日本的な建築であり、従ってまた伊勢神宮の伝統を相承するものである。

 

この国の最も高貴な国民的な聖所である伊勢神宮の形は、まだシナの影響を蒙らなかった悠遠の時代に由来する。
 
構造、材料および構成は、この上なく簡素明澄である。一切は清純であり、それ故にまた限りなく美しい」(2)
 
これは彼の没後、昭和14年に刊行された『日本美の再発見』の一節です。


タウトはまた次のように述べています。

「純真な形式、

清新な材料、

簡素の極致に達した明朗開豁な構造

 

 

――これこそ伊勢神宮が日本人に対し、またわれわれに対して顕示するところのものである」
 
 「原始日本の文化は、伊勢神宮においてその極地に達した。

 

……まことに伊勢神宮は絶対に日本的なものであり、日本においてさえこれ以上日本的なものはどこにもない。

 

……ここに在るところのものは、真正の建築であって、たんなる工学技師の手になる建造物ではない」

タウトは、伊勢神宮に日本的なものの原点を発見したのです。

彼は断然と主張しています。

 

「日本がこれまで世界に与えた一切のものの源泉、あくまで独自な日本文化を開く鍵、完成した形ゆえに全世界の賛美する日本の根源――それは外宮内宮および荒祭宮をもつ伊勢神宮である」
 
 タウトは、伊勢神宮に、日本文化の特徴を表す「簡素」「清明」を見ました。そして、伊勢神宮から桂離宮につながる「天皇精神」に、日本固有の伝統を見出し、それに心酔しました。
 
西洋ともシナとも世界のどことも違う日本独自の文化の根源が、日本古来の神道と天皇制度にあることを認めたのです。(3)

 

タウトは、日本伝統の絵画や陶器等にも強い関心を示しました。そして数々の名品と接し、多くの文化人や芸術家と出会いました。 

 

また、群馬県高崎市では工芸運動の指導に携わり、竹などの伝統的な素材と技法を活かした工芸作品を発表しました。
 
そして約3年半ほどの滞在の間に数冊の日本文化論を著し、その著作は昭和前期のベストセラーともなりました。

 

その後、タウトは日本を離れ、トルコに旅立ち、その地で生涯を閉じました。

 

ICH LIEVE DIE JAPANISCHE KULTUR 

 

高崎市少林山の石碑には、「われ日本文化を愛す」というタフトの言葉が残されています。

 

日本文化を愛したブルーノ・タウトは、桂離宮の美の発見者としてだけではなく、日本美の根源にあるものを発見し、世界に伝えた人物として、歴史に名を留めているのです。
 

(1)ブルーノ・タウト著『ニッポン』(講談社学術文庫)
(2)同上『日本美の再発見』(岩波新書)
(3)伊勢神宮に感動した外国人には、他にトインビー、マルロー、アインシュタイン等がいます。次の拙稿をご参照下さい。
「20世紀の知の巨人達が神道に感動」

 

2002/12/20 細川一彦 著

2012/10/15 拙Yブログ掲載

 

ブルーノ・タウト設計家屋

 

(画像)

桂離宮

http://furukawa-d.jugem.jp/?eid=54

伊勢神宮

https://www.iseshima-kanko.jp/about/10min/ise-jingu_shrine

https://www.nikkei.com/article/DGXNASDG04012_U3A900C1CC0000/

ブルーノ・タウト石碑

http://www.newsdigest.de/newsde/features/1510-bruno-taut/

ブルーノ・タウト設計家屋

https://www.ataminews.gr.jp/spot/116/

 

(参考記事)

ブルーノ・タウトと桂離宮

http://tautism.lifenet.me/archives/923