松下幸之助、パナソニックの惨状に現経営陣を叱る!②

 

 津賀新社長は、前経営体制が事実上中村邦夫会長のワンマン体制であり、同会長に異議を唱えようとする者などほとんどいない中で、同会長の肝いりで家電事業の柱であったプラズマテレビ事業の撤退を社内の会議で毅然と主張した“勇気ある次世代の経営者”として社内外で大いに期待されました。

 

 社長に就任した際の会見において、津賀氏が最も強調したことは、『原点に帰ること』、つまり、お客様にフォーカスし、『お客様価値を徹底追求すること』でした。そして、『お客様価値に繋がらない無駄は徹底して省く』、そのために『個々の事業を活性化』するとともに『本社機能を見直し』することを宣言したのです。

 

 津賀新社長は、当時のパナソニックの課題について、次の様な認識を示し、『当社は普通の会社ではない』と断じました。まず事業立地の劣化と内部イノベーションができないことから低成長・低収益が継続していること、また、投資判断の誤りと環境変化に対応できないことから、投資からリターンを生めなくなっていると。

 

 その中でも特に問題事業とされたのは、売上の1/4であるにも拘らず、業績下振れの原因の8割をも占めることとなった、テレビや携帯電話、半導体、民生用リチウム電池、ブルーレイ、デジタルカメラなどからなるデジタルコンシューマー関連事業でした。このデジタルコンシューマー関連事業のスリム化と構造転換に取り組む一方、それ以外の事業において、新たな成長分野を構築する取り組みを始めました。

 

 そのため、従来の事業ドメイン制の下に88あったBU(ビジネス・ユニット)を56BUに絞って、本社直結とし、BUを支える位置づけとして4つのカンパニーを作りました。これにより、従来事業ドメインの存在により経営責任が曖昧であったBUを製品の開発・製造・販売についてグローバルな経営責任を負う、かつての事業部と同じ位置づけとし、経営責任の明確な『BU基軸の経営』としたのです。

 

 また、併せて、本社機能の見直しによるサポート機能との切り分け(約7000名⇒約130名へ)、不動産の売却や報酬・処遇の見直し、企業スポーツの見直し等によるキャッシュフローの創出等の改革も進められました。

 

 このようにして2013年度から始まる新中期計画では、テレビ、半導体、携帯電話などの赤字事業の止血とキャッシュを生み出して危機を脱却し、先に述べたBU基軸の経営とし、『価値創出力を再生』すること、さらに『脱・自前主義による事業成長・効率化』で、『低収益で資金リスクのある普通でない会社』から『お客様価値を生む普通の会社』になることを目指しました。ここで、特に津賀氏は、『お客様からの逆算による成長戦略』として、『産業の「パートナー」とお客様の「いいくらし」を拡げる』ことを強調し、具体的には、『価値創出力を再生』するために、『商品軸(システム・サービスとデバイス、デジタルとアナログ)と顧客軸(住宅空間と非住宅空間、モビリティとパーソナル)と地域軸を掛け合わせて伸びしろを見出す』ことを提案しました。

 

 改革の成果は、早くも2013年度(2014年3月期)の決算で次の様に現れました。

 まず売上高は、前年比106%の7兆7365億円、営業利益は、前年比190%の3051億円で営業利益率は3.9%、純利益は1204億円(前年度は7543億円の赤字)、純利益率は1.6%と黒字転換を達成しました。

 

 さらに2014年度(2015年3月期)の決算では、売上高は77150億円で前年比98%とほぼ横ばいですが、営業利益は、3819億円で営業利益率5.0%を達成し、純利益は1795億円で2.3%でした。2013年度から始まる中期計画の2015年度の目標が営業利益3500億円以上、営業利益率5.0%以上でしたが、これらを1年前倒しで達成しました。

 

 さらに、翌年2015年度は、売上高は75537億円と横ばいでしたが、営業利益は4157億円で営業利益率5.5%、純利益は1933億円(純利益率:2.56%)でした。

 

 津賀新社長の経営改革は“まず血を止める”という点ではまずまずの滑り出しであったと言ってよいのではないでしょうか。

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