成功者の条件~自分の潜在能力を最大限に発揮するために~⑩

 

 この点、松下幸之助は、先に述べた通り、本人自身の自己イメージ自体ではなく、より大きく独自の“人間観”を確立し、限りない生成発展を続ける宇宙や自然、人間社会(“生成発展の原理”)において、人間には、その生成発展を実現していく主体としての“使命”が与えられ、それを実現すべく『無限の可能性』『人間を含めて万物を生かして行く能力』を与えられているというのが“人間の本質”であると考えました。いわば人類共通の極めて高い自己イメージを構築したのです。

 

 そして、この“生成発展の原理”を踏まえて、松下幸之助は、「何が起こっても、生成発展の一こまやと思うたら、恐れるものはありませんわ。」と断言し、「すべての事業を“生成発展”という心の窓を通してながめ、かつ、考えることは、私の人生観の中軸であり、我が社経営の根本理念の一つである。」(社史資料巻頭言より)と述べています。

 

 さらに、経営者に対しては、『必ず成功すると考えること』を求め、「経営というものは、正しい考え、正しいやり方をもってすれば必ず発展していくものと考えられる。それが原則なのである。」(「実践経営哲学」p.54)と断言し、「私は、基本的には企業経営はそのように外部の情勢に左右されて、うまくいったり、いかなかったりするものではなく、本来はいかなるときでもうまくいく、いわば百戦して百勝というように考えなければならないと思う。」(「実践経営哲学」p.55)と述べています。

 

 このように松下幸之助は、成功することが当然だと考えなければならないとし、その成功を信じて疑わない、まさにウェイトリーの言う成功者の自己イメージを予め描いていたのです。

 

 さらに、松下幸之助は「人生は一つの芝居のようなものだ」として次のように述べています。「考えてみますと、現実の社会というものも、一つの芝居と見れないこともありません。そこでは、われわれ一人ひとりが演出家であり、役者であり、また同時に観客でもある。そういうかたちにおいていろいろな生きたドラマが展開しているということができましょう。この生きたドラマは・・・演出するのも演技するのも自分です。やり方しだいで、いくらでもいい芝居ができる。しかもそれを自分で鑑賞するのですから、ひとしお味わい深いものがあります。」(「経営のコツここなりと気づいた価値は百万両」pp.112-113)

 

 「困難な情勢に直面すると、人間というものはともすれば、あれこれ不安を感じたり心配したりします。(嘆いたり、誰が悪いと憤慨しても)何も生まれてきません。心も委縮してしまい、困難に対処していくための知恵もでてきにくいでしょう。ですから、私は、今日のむずかしい世の中を一つの生きた芝居と見、自分はその中の主役であると考えたいのです。そうすれば、激動の今日の社会は、最も演技のしがいのある時代、いいかえれば、一番生きがいのある、おもしろい時代だということにもなってきます。」(「経営のコツここなりと気づいた価値は百万両」pp.114-115)

 

 自ら好きなように描いたシナリオに従って、“成功者としての自分”という主人公を演じます。それは『本当の自分』ではありません。しかし、その主人公の役を演じ続けていくうちに、その役に成り切っていくのです。その主人公が自己イメージとなっていくのです。ウェイトリーも指摘するように、人間の神経システムは、現実と仮想現実の区別ができません。『本当の自分』と『本当だと思い込んでいる役の上の自分』が一つになっていく。これは、まさにウェイトリーの言う『成功している自分に成り切る』ということでしょう。

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