成功者の条件~自分の潜在能力を最大限に発揮するために~⑦

 

 第五に、ウェイトリーは、『大胆な自己期待を持つ』ことを挙げています。勝者の本質は、『楽観、熱中、希望』であり、『今日はうまく行った。明日はもっとうまく行くだろう。』とつぶやくのに対して、敗者の本質は、『悲観、冷笑、絶望』であり、『私は運が悪いから、きっと失敗する』とつぶやくのだと言います。そして、『あなたが恐れること、あるいは期待することは、必ず現実になる。』『あなたの自己イメージは、人生の障害にもなるし、成功への自動航行装置にも、どちらにもなる』と言うのです。

 

 ウェイトリーは、『勝利を期待しない者は勝者にはなれない』、それ故『勝者は勝利を期待する』とし、成功する人間に共通に見られる顕著な特徴は、『大胆な自己期待を持つこと』、いわゆる“楽観主義”であると言います。そして、勝者が勝利を期待するのは、3つの裏付けがあるからだとし、第一に『願望』、勝ちたいという強い欲求を持っていること、第二に、『自己コントロール』、権利を実現させるのは自分自身であるという自覚を持っていること、第三に、『準備』、勝つ準備ができていること、喜んで勝とうとすること、つまり、勝つことが習慣となっていることを挙げています。それ故、勝者は疑うことを知らず、自分が予測し期待している良い結果を信じて、常に向上しようと努力するため、いつかきっと実現されるのです。期待が勝利を導くのです。

 

 そして、困難な問題に出くわしたときは、それを一段と飛躍するためのチャンスだと考えることをウェイトリーは、提言しています。

 

 逆に、否定的なことばかりを心に思い描いていると、その否定的なことが実現してしまう。また、疑心暗鬼の人間に勝利はないし、否定的な考えをしている限り、勝利への“自覚”と“準備”を欠いているため、目の前のチャンスにも気づかず、あるいは的確な対応ができず、運にも恵まれない結果となるのです。

 

 この点、松下幸之助は、本人自身の自己イメージというよりも、はるかに高い所から“人間”というもの自体の“本質”“使命”を捉え直し、独自の“人間観”を確立しました。それは、現実の世界の『不幸や悩み、争いや貧困に明け暮れるという人間の姿』を見て、人間というものはこんなものではないはずだとの強い思いから生まれました。

 

 松下幸之助は、過去の歴史を研究した上での結論として、宇宙や自然、社会は、限りなく生成発展していくものである(“生成発展の原理”)と考え、その“生成発展を実現していく主体”は、万物の霊長と言われる“人間”をおいて他にないとし、“宇宙や自然、社会の限りない生成発展を実現していく”という“使命”あるいは“責務”“人間”には与えられているのだと考えたのです。

 

 このような使命を与えられた“人間”は、「万物の王者ともいうべき偉大にして崇高な存在」(「実践経営哲学」p.32)であり、誰もが「磨けば光る無限の可能性を持つダイヤモンドの原石のようなもの」だと考えました。

 

 人間の“無限の可能性”というのは、必ずしも荒唐無稽の話ではありません。例えば、脳科学者の茂木健一郎氏は、人間の“無限の可能性”について、脳科学の立場から次のように述べています。曰く、「脳にはオープンエンドという性質がある。“自分はこうだ”と決めつけなければ、いつまでも発展し続けることができる。逆に“自分なんてこんなものだ”決めつけた瞬間に脳は発展することを止めてしまう。」(茂木健一郎著「脳が変わる生き方」p.158)

 

 こうして、松下幸之助は、“人類共通の自己イメージ”とも言える“人間観”を確立したのです。ここから経営者に向けられた松下幸之助の経営哲学においては、『ことごとく生成発展と考えること』『人間観を持つこと』『使命を正しく認識すること』『必ず成功すると考えること』がその極めて重要な柱となっているのです。

 

 『必ず成功すると考えること』については次の様に述べています。「経営というものは、正しい考え、正しいやり方をもってすれば必ず発展していくものと考えられる。それが原則なのである。」「基本的には企業経営はそのように外部の情勢に左右されて、うまくいったり、いかなかったりするものではなく、本来はいかなる時でも、うまくいく、いわば百戦して百勝というように考えなければならないと思う。」(「実践経営哲学」pp.54-55)つまり、勝って当たり前、ウェイトリーの言う『勝つことが習慣になっている』ということです。

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「7.補論②困難を乗り越える経営:禍転じて福となす⑪」です。現パナソニック株式会社の創業者である松下幸之助は、困難に直面してそれを克服してきただけでなく、むしろより大きく発展させてきました。この『禍転じて福となす』経営の考え方について解説します。