“憎まれっ子世に憚る”③

 

 人間の心が豊かにならない第二の理由は、中東のシリアなどから欧州への難民の流入やメキシコから米国への不法移民の流入などの難民不法移民の問題です。

 

 これらの難民や不法移民は安い賃金でも喜んで働くために、流入した国の一般市民(白人労働者たち)の職を奪い、あるいは賃金の引き下げ圧力となって、その国の市民の貧困化を促進するとともに、職を得られない難民や不法移民たちの一部は、犯罪に走り、あるいは、過激派組織IS(イスラム国)に入ったりして、先進国の治安の悪化を招いています。その反動として、流入された国の市民による難民への“差別”が現れ、難民の排斥を主張する右派政党が勢いを増しつつあり、互いに露骨な敵意をもはや隠さなくなりつつあります。このように“憎悪”と“報復”が繰り返される“負の連鎖”の中で、人々は、互いに不信感をつのらせています。たまたま発生した難民による犯罪などから、難民をすべてまとめて“悪”だと“一般化”してしまう傾向も生じてきており、米国の政治学者サミュエル・P・ハンティントンの警告した“キリスト教文明”と“イスラム教文明”との“文明の衝突”という事態をも招きかねない状況となっています。このような中で、難民はもちろん、受け入れる国の一般市民の双方とも、“豊かな心”を持つことは難しいのではないでしょうか。

 

 これらの世界の貧困化の問題と難民問題は、現代の人類に与えられた“最大の試練”ではないかとさえ思えます。これらの問題の解決は容易ではありません。マイクロソフトのビルゲイツ氏やフェイスブックのザッカーバーグ氏など米国の富裕層は、多額の寄付をしていますが、個人の力には限界があります。それ故、これらの問題の根本的な解決のためには、“政治の力”による他ないでしょう。その意味で、現代ほど、“政治の力”に期待される時代はないと言えるのではないでしょうか。

 

 そこで、現代の世界の政治情勢と見てみますと、中東やアフリカなどの新興国では、独裁体制が多い傾向があります。シリアのバッシャール・アル=アサド大統領を始め、アフリカ諸国でもジンバブエのロバート・ガブリエル・ムガベ大統領(最近辞任しましたが)やエリトリアのイサイアス・アフェウェルキ大統領、スーダンのバシル大統領などがその例です。また、社会主義国の生き残りである中国の習近平国家主席や北朝鮮の金正恩労働党委員長もその例と言えるでしょう。また、欧米など民主主義体制を採る先進国においても、世論の操作やプロパガンダ、最近の言葉で言えば、フェイクニュースの横行によって、民主主義体制が機能不全に陥り、力で相手をねじ伏せようとする“独裁的なリーダー”が増えつつあります。アメリカのドナルド・トランプ大統領を始めとして、フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領、“管理された民主主義国”とも言われるロシアのプーチン大統領など形式的には民主主義体制を採っていてもそのリーダーが独裁的に振る舞う国が増えています。

 

 もちろん、独裁的リーダーと言っても、優れたリーダーの下にその国の発展に向かって正しい政策を推進するという場合には、一般的に、議論ばかりで何も決められないか、あるいはスピードの遅い民主主義の国に比較して、むしろ“正しい方向”に向けてスピーディに決断することができ、うまく行く場合はあります。かつてのシンガポールのリー・クワンユー首相やマレーシアのマハティール首相などがその例でしょう。

 

 しかしながら、多くの独裁的リーダーは、国内にあっては、その国や国民の利益よりも自分自身やその家族の利益を優先し、対抗する勢力を“力”で相手をねじ伏せようとします。また、対外的には、力で他国を侵略あるいは威嚇しようとします。ロシアのクリミア併合や中国のチベット民族の弾圧や東シナ海や南シナ海への強引な海洋進出、中東で繰り返される地域紛争、北朝鮮による核実験やICBMの発射実験などがその例です。歴史が明確に示していることは、昔から国と国との外交の世界は、力と力とのぶつかり合い、パワーゲームだということです。誤解を恐れずに言えば、主義主張や論理は“大義名分”として後から付いてくるものなのです。そのようなパワーゲームに打ち勝って行くためには、外国から様々な攻撃を受けても、何も言えない弱いリーダーや何も言わない謙虚で控え目なリーダーではなく、やられたらやり返す強い“独裁的リーダー”が求められる傾向があるように思われます。

 

 しかし、このような“力”に依存しようとする“独裁的リーダー”が増えた今の世界は、あちこちで互いに衝突する恐れが高まり、いつ武力衝突や戦争が勃発してもおかしくないという一触触発の危機的な状況を生み出しつつあります。その結果、それらの地域に住む人々は、戦々恐々として、自分の命と身の安全を守ることで精一杯となり、とても“豊かな心”を育むことなどできる余裕はありません。

 

 従って、“人間の心”の発展を妨げている第三の理由は、この“独裁的リーダー”の登場とそれが生み出す治安の乱れや政治外交的危機だと考えます。

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