成功する企業から学ぶ~時代を超えて不変かつ普遍の松下幸之助の経営哲学~30

(4)経営者の意識を持たせる:“社員稼業”②-アイリスオーヤマ

 

 松下幸之助は、どうすれば社員たちが嬉々として仕事に打ち込んでくれるだろうかということに悩み、考えた結果、“事業の目的”や“会社の存在意義”に着目し、「貧乏の克服」という 会社の使命を感得するに至り、事業を通して「社会の発展の原動力となる」ことを宣言して、社員に“使命感”を持つことを求めました。松下幸之助は、人は他の人のために役に立つことに喜びを感じるという、人間の“利他的な本質”を見抜いており、使命感が力を生むのだと強調します。「お金が儲かるさかいにやるというのでは本当に力は出ない。それだけでは、どこかに弱さがあると思う。お国のため、自分のため、自分の使命のためになると命をかけようというように感じたときに非常な力が出るんであります。」そして、このような観点から、企業を“社会の公器”と捉えて、社員たちに“社会的責任感”を持つことを求めました。この“責任感”は、自分たちの都合を優先した事業や商品を許しません。この“使命感”と“責任感”は、社員たちを目指す方向に強く引っ張って行きます。

 

 その意味で、最近注目されている社会問題の解決を目的として収益事業に取り組む事業体であるソーシャルビジネスは、このような社会的使命感をエネルギー源としていると言えるのではないでしょうか。例えば、バングラデシュにあるグラミン銀行は、いわゆるマイクロファイナンス機関で、マイクロクレジットと呼ばれる貧困層を対象にした比較的低金利の無担保融資を主に農村部で行っています。それ以外にも多くの事例が報告されています。以下のURLをご覧下さい。

[保存版] 国内・海外ソーシャルビジネス(社会的企業)事例まとめhttps://matome.naver.jp/odai/2137913267078170801

ソーシャルビジネス55選 - 経済産業省

http://www.meti.go.jp/policy/local_economy/sbcb/sb55sen.html

 

 他方、松下幸之助は、自分自身が“仕事三昧”「仕事が楽しくて仕方がない」というほど仕事に没頭していたことを社員にも提案し、次のように述べています。「自分として今一番に深く考えていることは、大勢の従業員諸君が、毎日を愉快に働いておられるかどうかという点である。願わくは一人残らず、その日その日を愉快に働いてもらいたい。そのときに真に会社の発展も各人の向上も望みうるのである。」(1939年4月13日朝会にて)

 

 さらに、松下幸之助は、いち早く“事業部制”を導入し、事業部長に開発・製造・販売のすべての権限を与えて、一つの独立企業のような形で経営を委ねる仕組みを採りました。この事業部制は、経営者を育成する機能を持ちましたが、社員の全員が事業部長になれるわけではありません。そこで、松下幸之助は、社員に対して、与えられた仕事を一つの“事業”と捉えて、自分をその経営者とみなすことによって、“経営者の意識”を持ってもらいたいと考え、“社員稼業”という考え方を提案しました。曰く、「諸君は、各自受け持った仕事を、忠実にやるというだけでは充分ではない。必ずその仕事の上に、経営意識を働かせなければ駄目である。いかなる仕事も一つの経営と観念するところに、適切な工夫もできれば新発見も生れるものであり、それが本所業務上効果大なるのみならず、もって諸君各自の向上に大いに役立つことを考えられたい。」(昭和9年1月所主一日一話)

 

 例えば、単に生活に必要なお金を得るためだけに仕事をしているという人たちは、仕事というものは、報酬を得るために義務として“やらされること”と捉えて、決められた必要最小限のことだけしかやりません。それ故、仕事から“学び”を得たり、仕事を通じて自ら“成長”したりすることもありません。これに対して、松下幸之助の言う“社員稼業”の考え方に立つと、自分に与えられた仕事を“一つの事業”と捉え、前工程は“仕入先”、後工程は“お客様”と捉えて、自分がその事業の経営者だと考えますから、その言われた仕事をただ“義務”としてこなすだけではなく、“経営者の意識と視点”から、その仕事をもっと効率的にする方法はないか、また、その成果物も改善の余地がないか、さらには、そもそもその仕事よりももっと付加価値の高い別の仕事があるのではないかなど、様々な知恵と工夫が生まれてくるのです。それらの知恵と工夫は、やらされ感で仕事をしている人たちには、“削除”されて見えない部分なのです。“社員稼業”という“心の持ち方”に変えることによって、経営者の意識を持って経営者の視点から物事が見えるようになり、関連する情報が地引網のように集まってくるわけです。(“焦点化”)社員の“心の持ち方”を変えることによって“意識”を変えることで、“経営者としての意識”を持つことができないかと考えたのです。これは、まさに「人生も仕事も心の持ち方次第だ」と喝破した松下幸之助の本領発揮と言えるのではないでしょうか。これを「経営のコツ此処なりと気付いた価値は百万両という言葉とともに提案し、次のように述べています。「みなさんが松下電器の社員ということについて、“これは自分の稼業なのだ”“私は松下電器の社員稼業の主人公なのだ。これは、言わば自分個人の事業なのだ”そういうふうな考えに徹しられたならば、みなさんの頭からは想像もできない、偉大な力が生まれてくると思うのであります。」(1963年度経営方針発表会にて)

 

 そして、この“自分に与えられた仕事”を“一つの事業”とみなし、自分はその事業の社長とみなす“社員稼業”という考え方をさらに発展させれば、“自分の属する会社の事業”そのものを前提として、社長と同じレベルの経営者の意識を社員に持たせるということが考えられます。ただ、現代の企業、特に大企業では、仕事が細かく分業化しており、全体のごく一部だけしか担当していないため、社長と同レベルの経営者の意識を持つということは必ずしも容易ではありません。また、仮に持てても、上司や同僚などから、“自分が一社員にすぎないこと”を思い知らされる場面に直面することも少なくありません。例えば、会社のためにこうすべきではないかと考えて、上司に提案しても、「それは君の仕事ではない。」とか「そんなことを考えている暇があったら、自分の仕事の成果を上げなさい。」と言われてしまうのです。それ故、社員が経営者の意識を持って考え行動することができるよう、会社が“後押し”するような具体的な仕組みが必要でしょう。

 

 それを実現したのが、アイリスオーヤマ株式会社の大山健太郎社長です。アイリスオーヤマでは、従業員の誰もが、自分の上司を飛ばして社長に直接新製品の提案をすることができる機会を定期的に持ち、社長がその提案を承認すれば、その社員に全権を任せるという仕組みを作りました。このような仕組みがなければ、従業員の提案を部課長などの中間管理職が握り潰すことがあるので、それをさせないためだと言います。しかも、社長が直接承認を与えることで、その後も提案した従業員自身が主体的にまさに“経営者”としての権限を与えられて、製品化し、事業として運営して行くことができるというものです。この仕組みによって、特に若手従業員のモチベーションが上がり、起業家、つまり経営者の意識を以て考えるようになり、次々と多くの提案が出され、また、実行されています。

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ホームぺージ「経営の神様松下幸之助の経営哲学-すべては心の持ち方次第-

http://www.minamotoyori305konosuke-shintou.com/

の方もぜひご覧下さい。最新の記事は、「7)お客様大事の心に徹する(3)“商いの原点”③です。松下幸之助は、“商いの原点”たる“心の持ち方”として、次のように述べています。「商いの原点は、どうしたら売れるか儲かるかではなく、どうしたら人々に心から喜んでもらえるかである。」