『私にはあの人と山都がいれば良いの!』
『貴方には、立花さえ居ればいいのよ!』
実の息子である事を、母に、根底から拒絶された───。
両親の「愛」は弟に。
白侶の「愛」は“みつ”という、前世の自分に奪われた。
ならば私は、誰に「愛」を、求めたらいいのだろう・・・
───子供の頃。
両親から得られなかった「愛」を、私は自分の付き人である白侶に求めた。
彼が求めているのは、私の前世。
“みつ”という少女の愛だと知っていて。
知った上で、彼を利用した。
《この身に》向けられる「愛」を、《自分に》向けられる「愛」だと錯覚することで───
一時でも良い、
誰かに「愛」されたかった...
───これまで、何度も何度も話し合いを試みて、その度に失敗してきた母との親子関係は、帰省してからずっと、面白いくらい泥沼だった。
今回の帰省は、もう実家には帰らない覚悟で挑んだものだった。
3日間に渡り、母の運転手も使用人も、白侶も抜きで、母と私の二人だけで過ごしてみた。
母を誘って外に連れ出してみたり、小さな旅行を計画したりと。
そりゃあ、1日目と2日目は苦労した。
母の戸惑う態度がありありと表情に見て取れたし、二人とも、お互いへの接し方を何一つ知らないのだから。
全部が全部、一からの手探り状態。
唯一、母に口出しの出来る白侶が頼めば、母も嫌々ではあるが、私とそれなりに「親子に見える程度」の付き合いをしてくれたかも知れない。
「白侶さんの言う事だから聞いてあげるのよ?」、と。
けれど、それでは本当の解決には成らない。
それが解っているから、白侶はいつも、この問題には口を挟んでこない。
ただ、今回だけは・・・
たった一つの助言と、私の背中をトンッと叩いた軽い指先に、彼の思いが、全て凝縮されていたように思う。
───話し合いの3日目は、1日目2日目と違って、随分と濃い内容の話をした。
それは、互いの「確信」に、一番迫ったものだったと思う。
これまで避けられてきた母との親子関係を、まるで一変に凝縮したような。
密度の濃い話し合いが出来たと、確信した。
それが功を奏したのか───
丸一日を使った静かな山寺での散策後以降・・・
屋敷に帰ってから、母の雰囲気が、ガラリと変わったように思う。
『・・・・水都、』
母に頭を撫でられて、「名前」なんて呼ばれたのは───
私の記憶にある限り、
あれが初めてだったと思う。
今さら、もう何か子供扱いも気恥ずかしかったが、初めて、母が「母」として接してくれた瞬間だった。
───私と母で挑んだ、親子としての最終ラインの、3日間。
話し合いには、色々な人々、神々の協力があった。
私が和歌山を後にする日には、「母」の方から、二回目のアプローチが。
『・・・・・今まで、ゴメンね..』
息が出来なくなるほど強く抱き締められて、静かな離れに、母の嗚咽だけが小さく響いた。
細い、細い腕だった。
初めて知った、母の力強さと暖かさ。
ずっと、それは弟だけのものだと思っていた、「母」の温もり。
“ああ、これでやっと・・・”
解り合えたんだと思った。
“やっと、《親子》になれたんだ” と。
───あれ以来、
母からは頻繁にLINEに連絡が届くようになった。
話の内容は、他愛もないことだ。
けれど、今まではそんな他愛のない話も出来ない程の関係だったことを思えば・・・
「今は」なんて、「素晴らしい」のだろう。
暖かさ実感せずにいられない、幸せな毎日だ。
これまで、私の中で「母」との関係は、一番扱いにくい問題だった。
出来れば、触れずにいこうかとも思っていた問題だ。
理由は、母との関係を、これ以上悪化させたくなかったから。
なので今回のことは、自分の中で一つの区切りだった。
母の返答次第で、私は二度と実家に帰ることはないと決めていた。
私がいない方が、母の為には良い。
それも一つの、親孝行の仕方だろう、と。
今回、母との関係を修繕するに至った理由は、きっと、私たちが「同じ境遇」に立たされたからだと思う。
おそらく、互いに転機だったのだろう。
あれ以来、母は本当に、随分と雰囲気が変わった。
迷いが全て晴れたような、そんな、スッキリとした顔をしている。
つい先日も、母が連絡をくれた。
私に『ごめんね』と伝えて以降、「まるで生まれ変わったようだ」と...
母の人生は、まだまだ長く、今やっと、人生の半分だ。
「生まれ変わった」と言ってくれた母に───
どうか今後とも、良い縁、良い転機が、訪れますように..
※長々とした内容にも関わらず、最後まで読んで下さった皆様。
誠に有り難う御座いました。
ここに、深い感謝の意を示します。
出来れば私も母のように、今後この転機に上手く乗っかって、人生をより充実したものにしていけたらなと思います。