風の痛み  Another Tale Of Minako -3ページ目



「何か見えたか?」
スアドのイヤホンにボヤンの声が入る。
「いや、何も……」
「位置についた」
「……窓に近づくな」
スアドは、わかりきっていることをあらためて伝えた。
「ああ、わかってる……」
ボヤンは、極力窓から離れ、正面のビルの三階に向けてRPG-7を構えた。
しかし、なにしろ狭いビルだ。
後ろに余裕がない。
RPG-7は、発射時、後方に大量のガスを噴出する。
ボヤンはケーノに、後ろの窓を開けさせた。
ボヤンの意識は正面の、南の窓だけに集中していた。
後ろの窓を開けたケーノのシルエットが、建物の横、東の窓に映った。
6.

「小隊長、三階に人影があります」
東隣のビルの三階にいる、ボシュコの声だ。
「狙えるか?」
「もちろん……」

窓ガラスが割れる音と同時に一六歳の少年の体が空中に舞った。
7.

「何……隣か!」
銃声が正面の東隣のビルから聞こえて、スアドは思わず、口走ってしまった。

「隣のビルなんだな」
イヤホンからボヤンの声が聞こえた。
「ボヤン、無事か……」
スアドはほっとして、声をかけた。
「ケーノがやられた」
「ケーノが……」
スアドの脳裏に、仲間内で最も若く、いつもにこにこしていたケーノの顔が浮かんだ。

(……だめだ……)
スアドは、一瞬、ケーノのことに気をとられ、ボヤンへの指示が遅れた。
今の狙撃は、東隣のビルからだが、最初のやつが移動したとは限らない。
別のやつかもしれない。
ひとりとは限らないのだ。
「ボヤン、やめろ。降りて来い。出直すぞ」
ボヤンの返事はない。
「ボヤン、やめろ」
遅れた時間を取り戻そうとするように、スアドは大声で叫んだ。