2.血と硝煙の街7 | 風の痛み  Another Tale Of Minako


「どうして…おばさん…」
「何…勘違いしないでおくれよ。おばさん、取ったりしないよ。これは、みんなサーニャのもんだ。さぁ、持ってって…」
「おばさんが、密告したの?」
サーニャは、銃口をヴェロワに向けたままだ。
「何言ってるの、どうしておばさんが…そんなことを…」
ヴェロワの額に汗がにじむ。
「じゃ、それは何?腕につけてるブレスレットは、母のだわ。わたしのためにとっといてくれたんなら、どうしてそれを身につけてるの?おばさん」
「何を言ってるんだ。これはわたしのだよ。こんなブレスレットどこにだってあるじゃないか。言いがかりはやめとくれ」
「それは…高いのよ。どこにだってあるようなブレスレットじゃないの」
「わたしには買えないっていうのかい?どうだろうね、この子も…。親が親なら子も子だね。全く…。どうせ、こんな貧乏な未亡人には、手が出ないよ。だからどうしたっていうんだい。カルディア人で、政府の役人だ、そりゃ、贅沢な暮らしができるだろうよ。こっちだって好きで貧乏な暮らしをしてるんじゃないんだ。それを、人を何だと思ってやがんだ。乞食じゃないってんだ。ろくでもないもの持ってきちゃ、ああだこうだと自慢話をしやがって…」
サーニャが、銃を構えた。
「おい、…おい、およしよ…ねぇ、サーニャ…」
「いい話。…ありがとう、おばさん」
「サーニャ…違うんだよ」
「…もういい。よくわかった」
「何が…わかったんだい…何が…」
「わかったわ。密告したのは…、おばさん」
サーニャは引き金を引いた。

(ばか…ばか…こんなもののために…)
サーニャは、床に転がったヴェロワの腕から母のブレスレットを抜き取った
優しい…親切な…おばさんだった。
この家にもよく遊びに来た。
どうして…
涙が止まらない。

(どこかにいかなきゃ…ここにいたら…殺される)

「殺られるものか…」
サーニャは、それが自分が口にした声だとも気づかずに、思わず、周囲を見回した。

「殺られるものか…」
今度ははっきりとそれを口にした。

「殺ってやる…」
キッチンに行き、ガスの元栓を開くと、部屋中のカーテンに火をつけた。

サーニャは、外に飛び出していった。


第2編 血と硝煙の街  END



本作品は、フィクションであり、登場する人物・地名・その他固有名詞は、実在する人物・地名等となんら関係はありません。

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