No pain,No gain 6-1 | 風の痛み  Another Tale Of Minako
第6章、勝ち負けは俺達で決める

1.

多々良のおやじは、やっぱり本物だ。
その日の夕方、俺の足は、何事も無かったかのように動いた。
痛みもない。
美咲ちゃんの豪華な手料理を食べて、俺は大満足だ。
全国大会ってやつは、やっぱいいもんだ。
なんだか知らないが、夏樹までやって来たし。

ただ、昨日の夜は、美咲ちゃんは帰った。
俺の期待は大きく外れたが、そのほうがよかった。
その直後に真美さんがやってきたからだ。
おかげで、もう一回夕食を食うハメに陥ったが、2食くらいは問題ない。
自慢じゃないが、俺とラグビー部の先輩2人で、蓬莱軒のメニューを全部食ったこともある。
知っているとは思うが、蓬莱軒っていうのは、学校の近所にある安くてボリュームたっぷりのラーメン屋だ。

結局、一日遅れで俺は、チームに合流した。
俺だけは、大事をとって軽めの練習だったが、問題なかった。
夜、ミーティングのときに対戦相手のプロフィールが配られた。

1回戦の相手はここ数年低迷していた東北の名門だ。
3年ぶり18回目の出場、フォワードの平均体重は86kg。
うちは、74kg。
しかも、大嘘だ。
ちなみに俺は、“身長180cm、体重72kg”
プロフィールにはそう書いた。
実際は、179cm、64kgだ。
まぁ、水増ししてるのは俺だけじゃないんだが、8kgも水増しして、それでも72kgでしかない。
得意技は、“炎のタックル”。
書いたのは俺じゃない。
ロックの永沢だ。
先輩のすることに口は出せない。

むこうも水増ししてるんだろうが、平均で14kg違う。
フォワード8人の合計で112kgだ。
うちは、後3人加わらないと同じにならない。
“そんなんじゃ全国で通用しないぞ”
べるげんから、耳にタコができるほど聞かされた言葉だが、プレー以前の問題だ。

「相手も同じ高校生だ」
同じ高校生でもバカもいれば天才もいる。
190cmを越える高校生も、100kgを越える高校生もいる。
「重けりゃいいっていうもんじゃない」
ただの肥満が花園に来てるはずもない。
「俺達は、今まで自分たちよりも重い相手と戦ってきた」
重いと言っても、14kgもの差は無かった。
「いいか。気合だ。とにかく、みんなの心をひとつにして…」
で、最後は、策がないときの決まり文句。
“気合だ、精神力だ、とにかくがんばれ”
それで勝てるなら、気合の練習をする。

「サイド、止めてくれ」
永沢が俺にポツンと言った。
俺はうなずいた。
スクラムは当然押される。
相手がサイドを突いてくるのは明らかだ。
それを止めるのが俺の仕事だ。
「押しましょ。そのほうが…かっこいいでしょ」
小さな声で永沢に言ったのだが、全員の目が俺に注がれた。
「だな。押すか?」
永沢は、複雑な思考回路は持っていない。
やつの判断基準は、常にかっこいいか悪いかの2択だ。
永沢が俺に拳を突き出した。
その拳に俺が拳をあわすと、他の連中もつぎつぎに俺に拳を突き出してきた。

(おい、ちょっと待て、なんで俺なんだ?)