美幸 5 | 風の痛み  Another Tale Of Minako
5.知ってるんだ

高校を卒業して、大学には行かなかった。
わたしが家を出て働くって言ったら、お母さんに反対されたの。
大学行って、自分の会社に入れたかったみたいだけど、とんでもない。
それまで黙ってたこと、全部お母さんに言ったの。
わたしは知ってるのよって…。
お父さん、昔、お母さんのおばあちゃんの会社に勤めてたんだね。
お母さんに他に好きな人ができて離婚したんだよね。
わたしをお母さんに渡せば、偉くしてもらえるっておばあちゃんに言われたんでしょ。
離婚の原因がお父さんにあるみたいにしようとしたって西村のおばちゃんから聞いたわ。
わたし、それ以来、おばあちゃんとは口をきかなかった。
去年、亡くなったけど、葬儀にも出なかった。
お父さん、会社を辞めてわたしを連れて出て行ったのよね。

ばか
無理して
死んじゃったらどうにもならないじゃないか。
わたしなんかほっといて楽すればよかったのに。
ばか。


お父さんと住んでたアパート、マンションになってて、わたし今そこに住んでる。
家を飛び出したから、ちゃんとした就職はできなかったけど…。
でも、昨日、二十歳になったわ。
でね、昨日、やっと苗字を元の寺島に戻せたの。
お父さんの苗字。
イチゴショートを買って一人で食べた。
お父さんお作ってくれたハンバーグ、思い出しながら作ったけど、わたしのはおいしくなかった。
お母さんから電話があったけど出なかった。
嫌いじゃないけど…

わたしは、お父さんのお葬式に出たかった。
お父さんに聞こえなくても、「ありがとう」と「さよなら」が言いたかった。
お父さんの横で死んじゃうほど泣きたかった。



2月18日
美幸の父、茂樹が亡くなって9年になるそうだ。
わたしもお参りさせてもらっている。