2.血と硝煙の街3 | 風の痛み  Another Tale Of Minako


(お姉ちゃん…)

(…どうしよう…どうしよう…)

サーニャは、両親の寝室をぐるっと見渡した。
(隠れるの、サーニャ?エヴァを見殺しにするの…)
エヴァを助けたいと思いながらも隠れ場所を探す自分を、もう一人の自分がとがめる。
(そうだ…確か…クローゼットの中よ)
サーニャは、音を立てないように這ってクローゼットの前まで行き、慎重に扉を開けた。
小さなひきだし…音を立てないように、少し持ち上げながら引く
(あった)
サーニャの父は、かつて連邦軍に所属し、今はカルディア共和国軍の予備役として、銃の携帯を許可されていた。
それが知れれば、必ず、捕まえられて殺される。
リクアニアに独立の気運が高まり始めてから、ときどき父親はそう口にした。
おそらく、それが今、現実になったに違いない。

ベレッタM951
軍用に世界中で使用されているベストセラー、ベレッタM92の前身。
M92よりもいくぶん小さい。
サーニャは、何度もこの銃を目にしてきて、小さい頃は、撃ちたい、撃ちたいと父にねだったが、母親がそれを許さなかった。
しかし、つい先日、わざわざ父親が撃ち方を教えてくれた。
こういう状況で、そのときは母親も何も言わなかった。

(落ち着いて…思い出すのよ…そう、弾よ、弾が入ってるかどうか?)
サーニャは、グリップ下のロックを引いて、カートリッジを抜いた。
(大丈夫、入ってる)
危険を感じていたのだろう。
弾入りのカートリージを装てんしたまま保管してあった。
サーニャは、ゆっくり、音を立てないようにカートリッジを戻すと、ドアのほうに、また這って移動した。
(そうだ…弾を送らなきゃ)
サーニャは、スライドに手を掛け、それを後ろに引いた。
カートリッジの中の弾をチェンバー(燃焼室:弾を発射するところ)に送るためだ。
(えっ、何?…)
父親は、よっぽどの危機を感じていたのだろう。
すでに弾は送られていた。
サーニャがスライドを引いたので、発射した後、空になった薬きょうが排出されるように、その弾が、外に排出された。
(ああ…だめぇ)
弾は、大きく弧を描き、床に落ちた。
カタン…

サーニャの心臓が凍りついた。
階下から聞こえていただみ声が、ぴたっとやんだ。
かわりに、靴音が近づいてくる。

カツ…カツ…カツ
階段を上がっている。
(来る…どうしよう…)
手も足も口も…いっせいに震えだした。