海の声がきこえる。『宝島』 | Minahei

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ライター戸塚美奈のブログです。

話題の直木賞作品。もっと話題になってもいいのにと思う。タイミングが絶妙すぎて、マスコミが扱いにくいのだろう。

導入は面白く、思わず引き込まれるが、前半途中が長い。それで昼寝枕にしてしまう人も多いのかも。

米軍基地から物をブン取る、沖縄の義賊「戦火アギヤー」のかしら、オンちゃん。オンちゃんの恋人のヤマコ。オンちゃんの舎弟のレイ、オンちゃんを慕うグスク。嘉手納基地襲撃のあと、忽然と姿を消したオンちゃんの影を追いつづける、ヤマコ、レイ、グスクが、「アメリカ―」に凌辱され続ける戦後の沖縄を舞台に懸命に生きる物語。

小学校に米軍機が落ち、子どもたちが火だるまになって亡くなった宮森小学校米軍機墜落事故など、物語の中に描かれる事件が、現実に起きたことだという事実に愕然とする。アメリカ世への抵抗運動をした実在の人物である瀬長亀次郎も登場する。私たちが知らない、あるいは忘れてしまった沖縄の苦しみを、真藤さんはこれでもかと物語の中に焼き付けた。あったことをない、と平気でいうような風潮の中で、物語として描き、決して風化させないようにしてくれた。若い書き手で、沖縄出身でないということに驚いたが、そうでなければできなかった仕事なのかもしれない。

ところどころで「語り」が入る。いくつか目にした書評では、この語りが軽すぎていかんとあった。そうなのかな? 私は、この「語り」がまんま沖縄に感じられた。NHK朝ドラ「ちゅらさん」のゆがふの店長役で、沖縄ことば指導をした藤木勇人さん。漂流したオジイの物語など、彼のひとり芝居に何度も笑わせられた私にすれば、この「宝島」のウチナーグチは、まるで藤木さんの語りそのもので。

 

不思議なもので、これまで沖縄の物語を読むと、喜納昌吉の歌や沖縄民謡、さとうきびの歌が脳内をめぐったものだが、なぜか、今回はそれが一切なし。ずっと、BIGINの「海の声」が聞こえていた。これだけの重い内容でありながら、主人公たちの青春群像とも読める小説で、ヤマコをめぐる三角関係も色どりをそえ、全編にさわやかさがあったからかも。勝手ながら、背の高いねーねー、ヤマコは長澤まさみサン、レイは森山未來サン、グスクは山田孝之サン、そして語りは藤木勇人さんと配役させてもらって、おかげで、長い舞台を観るように、この長い小説を楽しむことができた。

 

「えーと、あのBIGINがつくった、浦島太郎が歌ってる歌、なんていう歌だっけ?」と息子に聞いた私。

「『海の声』」

そうか、「海の声」か。