タテ書きでいこう | Minahei

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ライター戸塚美奈のブログです。

文字を書くのがのろいのが、悩みだった。さらさらと書けない。文字がひとつひとつコマギレで、だから文字がへたくそ。ていねいに書けば読めることは読めるから、仕事に使うノートには、できるだけまじめに書きつけていた。でも、そうするとスピードが落ちる。急いで書くと、字が乱れる。あとで見て、書く気がうせる。

10歳のときにクラスメートのきれいでスピーディーな筆記を見て、ざんねんな気持ちになっていた。「だから自分はべんきょうができないんだ」と思っていた。そんな私が、その後40年たって、気づいた。「タテ」で書けばいいんだ、と。

 

あるときふと、「えいやっ!」とある日ノートを90度回転させて、えんぴつを持って書き出したら、さらさら、さらさら、止まらなくなってしまったのだ。おどろいた。ボールペンで横書きしていたときの、3倍くらいのスピードで書けた。それも気持ちよく。くずした漢字もひらがなも、タテ書きなら読めるのに驚いた。

「これだ」と思った。

この日から、いつも使っているキャンパスノートも、取材用のメモ書きも、90度回転してすべて「タテ書き」に変更。それもえんぴつを使う。筆圧が軽くていいから、さらさらとどれだけ書いても疲れない。というより、書けば書くほど気持ちよい。なんだこれは。

 

もともと、大女優であり優れたエッセイストでもあった高峰秀子さんの手書きのものが、すべてタテ書きだということは、養女である作家の斉藤明美さんの本で知っていた。「とんぼの本」などに掲載されている旅の日記帳はすべて横罫のものをタテに向きをかえて書いている。買い物メモもメモ用紙をヨコにして、タテ書き。いいナとは思っても、大正生まれの方のなさること、現代にやるような合理的なことではないように思っていた。自分で実際にやってみるまでは。

 

考えてみれば、書くにしろ、読むにしろ、漢字もひらがなも、横に続けるようにはできていないものなのだ。タテに書き始めて、なんと漢字は便利に省略しやすい文字なのかと驚いた。そしてそして何よりも、なんとひらがなを書くことは気持ち良いことなのか。さらさらとタテ書きでひらがなを連ねていると、息をするのも忘れ、ナントカ式部のように何十帖でもお話を書いてゆけそうな気がする。

 

この頃、若い人のペンの持ち方で多いのが、親指が人差し指と中指をつっきって、親指が空のほうをむいた持ち方。その持ち方でえんぴつをどう押さえるの?と心もとない気がするけれど、意外や筆圧の強い整った文字をお書きになる人が多い。あの持ち方は、横書き用だ。タテに流れるべきものを、ヨコに持って行くために、親指が力みすぎてそうなった……のではないだろうか。

 

今では私は、すべてタテ書き。おかげで、メモをとることが増えた。買い物も、やるべきことも、みんなメモに書き出す。

大昔のご先祖さんがずうっとやってきた上から下へと流れるその動きに、目も、手も、喜んでいるのを感じる。いくら書いても疲れないのはそのせいだと思う。