弁護士の武井です。

 モバゲーの利用規約の一部が消費者契約法に違反しているとして差止請求がなされていた事案につき、東京高裁が原告勝訴の判決をし、原告のウェブサイト(http://saitama-higainakusukai.or.jp/topics/201202_02.html)の情報によれば当該判決(以下「本件判決」といいます。)が確定したようです。                  

 消費者側に一方的に不利な条項を消費者との契約で定めても、当該条項は無効とする旨の一連の規定が消費者契約法に設けられているところ、本件ではこの点が問題となりました。本件判決のインパクトはポータルサイトを運営している事業者だけでなく、同様の規定を定めている事業者一般に及ぶということです。今回は本件判決の概要を説明します。

 

1.事案の概要

(1)問題となった利用規約の規定

 まず前提として、事業者の債務不履行又は不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項は無効です(消費者契約法(以下「法」といいます。)8条1項1号後段及び同項3号後段。以下これらを「本件法条」と総称します。)。

 本件で主として問題となったのは利用規約の7条3項(以下「本件条項」といいます。)が本件法条に該当し無効となるか否かです。実際の規定は以下のとおりです。

 

第7条(モバゲー会員規約の違反等について)

3.当社の措置によりモバゲー会員に損害が生じても、当社は、一切損害を賠償しません。

 

(2)本件条項を無効とする解釈

 利用規約では一定の場合(他のモバゲー会員に不当に迷惑をかけたと当社が判断した場合等)に被告(株式会社ディー・エヌ・エー)が会員資格取消等の措置(以下「会員資格取消措置等」といいます。)をとることができる旨が定められていました。しかし、被告が故意又は過失による誤った判断により会員資格取消措置等をとる場合も考えられます。被告に故意又は過失が認められる場合、当該会員資格取消措置等は債務不履行又は不法行為に該当しうるところ、このような場合にまで事業者が免責される旨を定める本件条項は、本件法条に該当し無効とも考えられます。

 

(3)本件条項を有効とする解釈

 これに対し、以下のような解釈も成り立ち得ます。すなわち、「当社が判断した」というのは、恣意的な判断を許容したものではなく、合理的な根拠に基づく合理的な判断として会員資格取消措置等がなしうることを定めているに過ぎないと解釈します。当該解釈を前提にすると、事後的に「合理的な根拠」「合理的な判断」と認められないと判断された場合、そもそも会員資格取消措置等を行うことはできなかったことになります。本件条項は「措置」の存在を前提としているため、本件条項は適用されないと解釈するわけです。

 このような解釈に立つと。被告が誤って会員資格取消措置等を行ったことは被告の債務不履行であり、被告が損害賠償責任を負う場合について定める利用規約12条4項又は5項に従って、被告は損害賠償責任を負うという結論が導かれます。

 

2.本件判決の内容

 本件判決(第二審)も原審判決(第一審)も基本的な内容は共通しているので、ここでは本件判決の内容を簡単に説明します。本件条項は解釈によって有効にも無効にもなりうることを1.(2)及び(3)で確認しました。要するに、本件条項は複数の読み方ができてしまう不明確な条項だったということです。

 問題は、本件条項を解釈によって有効にするという操作を加えることの適否です。本件判決はこのような操作(「限定解釈」と呼ばれる手法です)は極力控えるのが相当としました。その理由として挙げられているのは、事業者は消費者契約の内容がその解釈について疑義が生じない明確なもので、かつ、消費者にとって平易なものになるよう配慮すべき努力義務を負っている(法3条1項1号)ことです。努力義務を怠った事業者を限定解釈という操作で救済することは同項の趣旨に反するだろうということです。結論的には原審判決同様、本件条項を無効としました。

 

3.本件判決のインパクト

 本件判決が限定解釈による事業者の救済は極力控えるのが相当とした点は大きなインパクトを有しています。利用規約その他のB to C契約を締結する事業者としては、限定解釈に頼ることなく、明確な利用規約を定めておく必要があります。自社の利用規約に問題がないかどうか確認しておきたい事業者様はぜひ当事務所までご相談ください。

 

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