ある日 僕は 彼女の 瞳の前
心の 戸口を ノックする
寒いよ 外は 冷たいよ僕

だのに返事は もう以前から 聞こえてくるのに
扉は まだ 開かない
僕は 寂しくなる

どこから 聞こえてくるの
何時から 聞こえるの

歩く音 扉に 手を掛ける
クス クス 笑ってるの
意地悪だな

トン トン
僕は もう一度 扉をノックする
繰り返し、繰り返し

枯葉舞う 寒空の下
真鍮に輝く朝の太陽
この青い空において
ただ一つの偉大なる風

風色の光りが冷え切ってしまった
この空と砂浜を照らしている
もう幾分の水分もない落ち葉に
水滴を降ろしたのもこの光りなら
僕の瞳の中に音一つ立てずに
やってきたのもこの光りなのだ

何処へ行ってしまった
愛しいあの人は
いつ?

この空の上にも夜が隠れている
太陽の他に何もないと思ったって
夜がそこに隠れている

目を凝らしてごらん
そこにもあそこにも
ビルの隙間にも
夜があることが分かるだろう

隠れてるなんて
ただ見えなかっただけ
空に太陽しかないから

空をもう
ほとんど見る事もなくなって
ふと見る時は太陽だけを見ていた

だから空に夜が隠れていたなんて事に
気が付かなかったんだ

だから

ああ生地の薄そうな灰色のマフラーをして
黒いカバンをかかえた君が通り過ぎてゆく

ああ君が笑いかける
それはまるでおどけている僕を
笑ってるかのようだ

君が笑いかけている
僕に
信じてよいのかしらん

僕に
ああ君は
僕が最も好きな人であったのだ

君はこちらが望まなくとも
初めからそうである人だったのだ

君が笑いかけている
君が笑いかけてくる
僕に

君は後に母となる人
僕に
君が笑いかけてくる

(1/24)
人には時々涙したい時があります

涙流して
自分も泣くことが出来る人間なんだと
自分も人間なんだと確かめたい時が
あるのです

この顔を伝わって行くものを想うのに
涙は流れてこない
これはどんなに悲しい事か
それでもやっぱり涙は流れはしない

君への想いを涙で伝えたいのに
頬を伝わって行くものは何もない
その時に僕はどんなにこの胸の内を
爆発させてしまいたいか
涙と供にすべてを語れたなら

この僕の目に映るすべてに
涙を流せたなら
すべてを語った事になるんだ

それなのにこの瞳からは
何の水滴も落ちては来ない
君の目の前で
もし僕の瞳から落ちて来たならば
そうなったならば
僕達はその口から何かを語る涙を持つだろう
あんなに
君を求めていた僕は
いつの間にか一人で苦しんでいる

その冷たい蒲団の中で
寂しい思いに駆られる者は
いつも一人で苦しむ

どこの誰もこの苦しみを
分からない

いつも何も知らない奴らが
詰まらない事だけを言う

あなたでさえ
この苦しみを知らないのだ

だから僕の目の前から
その廊下を君が歩いていなくても
僕は一人きりで苦しんでいる

君を一目見る事に
何の意味がある

僕はいつも一人で苦しんでいる
何を迷うか
さあいっちまえよ

そんなことは誰も言わない
君と今日
一度も会わなかった

君は今日
どんな一日を過ごしたのか

今日一日見たものは
何だったのだろう

少なくとも僕は
その一部さえ知ってはいない

これではまるで他人じゃないか
だから僕はいつも一人で苦しむのだ

(1/22)
誰かがこう言う
僕らの船出の時だって
どこへ行く
どこへ飛ぶ
僕に何の別れも告げずに
君は行ってしまうのか

君は自分の足で
もう歩いて行くのか
青空の下を

同じ大地と人は言うけれど
そのことに何の意味があるのか
あいつは目配せもせずに
行ってしまった

僕が気付いた時に
奴はもうここにいない
消えてしまったのだ
わかるか

彼は何も言わずに
行こうと言うのだ
僕は会わずに
奴は行ってしまったのだ

(1/22)
その笑顔が
いつの間にか長くなった髪が
いつの間にか遠く離れて行く

僕の腕の中
瞳の外へと去ってゆく

ああどこへ行く
君を引き止めるのに
何の重力もないのか
この思いは

どこへ歩いて行く
どこを歩いてる
君のその瞳が
今、何を見つめてる

雪の降りそうな青空の下
見つめるものは何

この木、この校舎
僕の姿はもうその中にはどこにも
ないというのか

どこへ行く
どこへ行った
僕の僕の
目の前へ
もう一度

(1/22)
11月だって
11月だって
今日は何時だ

もう一月も中旬だ
なんということ
もう半年も経ってしまってる

この学校で
あの廊下で
そしてあの教室で

既に半年もの月日が経ったのか

(1/22)
いつの間にか時が過ぎてしまった
人がどんなに頭を働かしたって
時間を捕まえることなんて出来やしない

僕が考えるのに
哲学なんていらない
人を動かすのに
暖かな秋の陽射しと
初冬の寒風さえあればいい

自殺をした少年がいた
彼も生きていた
されど僕も生きている
もし彼に恋する人がいたならば

僕はもう待つことが出来ない
時間の中で痛くて堪らない
僕の脳が化学結合をしたり
しなかったり
そんなのは嫌だ

例え僕の体が分子のみの
集合だとしても
僕は生きてゆく

もっと熱く自分を鍛えよ
もっと血を熱く
誤魔化しであったとしても
僕は彼女と結ばれたい

(11/21)
隣にレースのカーテンを引いた
窓が見える
僕と同い年の女の子が住んでいる
背は高いようだ

風呂上がりの僕は
髪から水滴を落としながら
本を読む

レースのカーテン越しに
人影がする
セーターを着ているようだ

僕は今までどのような映画からも
受けられなかった実在の空間へ
入ってしまった

この窓越しにいた人は
まさしく生きているのだ
僕は顔も見た事のない
その全く知らない生活というのを
彼女が部屋の内で歩くことによって
僕に示したのだ。

僕は人が生きているということは
感じることが出来ないと思っている
しかしこのとき彼女が示したのは
生きてるという心ではない

生活というものだ
僕の全く知らない人のその生活を
僕は見てしまったのだ
しかも女の子であったとは

僕は彼女の示した
その動作から
彼女の生活というもの
そして
彼女が一つの意志をもった
人間であるということを
あらためて知ってしまったのだ


(11/11)