第14章 「Sさんからの直接交渉」





娘もいなくなり 家で1人の生活が3ヶ月過ぎたあたりですかね


この頃は 正直「極貧」生活 ド真ん中でしたね


ここでは書きませんが 番外編 「返済中の食生活」 ? そんなタイトルで書きます


とにかく「悲惨」ではありましたが 今思えば いい経験でもありますね




職場の内線電話を取ったパートさんが 私を呼びました


「交換から電話です」


「ありがとう ・・・ もしもし」


「どうも お久しぶりです お元気でしたか?」


忘れかけた頃にやってくる 精神上この上ない悪い人! Sさんです


「どうも ・・・ 何か?」


「実はですね 奥様 ・・・イヤ元奥様が2度に渡って 裁判所の調停をすっぽかしたんですよ」


「・・・ なるほど ・・・ それで?」


「奥様の返済について お話をしたいと思って電話した次第なんですよ」


Sさん 何がやっかいって この方一度も声を荒げる事も無く


常に冷静に話す様が まさにやっかいなんですよ


要するに 「取れるまではおとなしく」を貫くスタイルが当初から鼻についてました


「他の業者さんからは連絡がありませんが それは事実ですか?」


「ウチ以外は みんな「飛ぶ」と思ってるんでしょうね」



*「飛ぶ」 自己破産などで支払いを放棄する事(ザックリ解説でスイマセン!)



「じゃあSさんは?」


「元ダンナさんも債務整理しているから 業者はこれ以上の支払いは不可能だと思うでしょう」


「これ以上は 無理だな」


「でも このアシ(借金)はまだ夫婦の時に出来たアシです ならば請求は可能ですよね?」



初めてSさんが「牙」を出した 「アシ(借金)」という言葉


裏の世界でしか使わない言葉だ  逆を返せば 「ウチはそういう業種ですよ」という


意思表示でもあったのだろう


「明日はお休みですか?」  一瞬 ナゼ?その質問で ナゼ知ってる?


同時に2つの疑問だったが 交換台の女性に業者を名乗れば 喋る者もいるだろう


「休みだけど ・・・ 直接交渉にでも来るって話ですか?」


「いつもながら 察しが早いので助かります」


この冷静さが イチバン嫌だ


「何処で話します?」


「・・・交渉成立ですか!やっぱりアナタには興味がある」


「俺は男には興味は無いよ」


「そういう意味じゃありませんよ」


「当たり前だ わかってる それで場所は?」


「・・・ 自宅でどうですか?」


「麦茶しかないが それでいいなら」


「結構です 明日 お伺いします 」


電話を切ってから 正直軽い吐き気がしたのを今思い出した ・・・




翌日 目覚ましが鳴る前に目が覚めた  カーテンを開けてマンションの下を見ると


車はまだ無かった


2時間後 インターホンが鳴った 出ると やはり「予定の来客」だった


玄関のドアを開けて 「どうぞ」 と言ったら


「この商売始めて 初めてですよ「どうぞ」って迎えられたのは」


自分のペースを作りたがってる ・・・


リビングに座って 麦茶を出すと


「氷まで入れてくれるとは ウレシイですね」


「氷は俺が作ったんじゃなくて 冷蔵庫が作っただけだから」


「やっぱり オモシロイ人だ」



そこから どちらが切り出すことも無くタバコ1本分の時間が過ぎた


Sさんがタバコを消して切り出した


「先日もお伝えしましたが 元奥様が調停を欠席してまして 今後の話をしたいのですが」


「それは 本当ですね」


「・・・・・?  何がですか?」


「Sさんの言葉が本当かウソかって意味ですよ」


「本当ですが ・・・ 何を観察してるんです?」


「アナタがウソのカマをかけるかどうか?観察してるんですよ」


「・・・・ どういう意味ですか?」


「簡単に言うと ウソは表情でバレます 言葉は信用してませんから」


「・・・・何の事です?」


「いくら冷静に話しても ウソは表情でバレるって事ですよ だから電話じゃなく


直接会う段取りを組んだんです」


「それは ・・・ 特殊な技術?ですか?」


「心理学で言うところの 微表情 です 0.2秒の真実を語る表情です」


ここでSさんの表情に「困惑」が表れた


「電話で話した 買い取った債権の履歴を見せてもらえますか」


Sさんは無言で 差し出した


ここで私はちょっとイタズラをした


「無言でいても 表情には出ますから 楽にした方がいいんじゃないんですか」


Sさんも 半ばあきらめた表情で 「そうですね ・・・」 と言って苦笑いをしていた


書類のコピーは正直な利息で記載されていた (昨日の電話でお願いした通りだった)


「Sさんの所以外はジャンプが多いですね」



* ジャンプ 元金を返済出来ないため利息のみ返済し次の返済まで延ばす事



「そのようですね」 明らかに口数が減った


ここで私はカバンから電卓を取り出し 計算を始めた


要するに 「10日で3割」の利息と法定利息の差額を計算したのだ


その結果


「Sさんの所以外は正直 法定利息で引き直すと支払いは無いですね せいぜいあっても


このA社に700円前後ですかね」


「やっぱり アナタはサラリーマンにしておくのがもったいない人だ」


「本音ですね ナゼ?」


「この短時間で 我々業者に計算して伝えた人を初めて見たからですよ」


「これも本当ですね」


「その ・・・ 能力は ・・・ ちょっとやっかいかもしれませんね」


「今 初めて「怒り」の表情が出ましたね」


「ちょっと 待って下さい  そう次から次へと読まれたんじゃ仕事になりません


「じゃあ Sさんの所だけでいいですね 交渉は」


「仕方ありません 」


「じゃあ ザックリ○○万でどうです?」


Sさんの顔に 「驚愕」 → 「怒り」 → 「落胆」 が見えた


ここで意外な言葉が出た


「正直 ・・・ いくらならウチで働きます?」


「それって ・・・ スカウト?」


「そうです  その提示した金額の交渉度合いは我々より上ですよ」


表情に「納得」が出た


「せっかくですが 今の仕事で満足してますので お断りします」


「やっぱりね  そう言うと思ってましたけど ウチもそこまでは引けませんね」


そこから 押し引きで金額がやっとまとまった


「では 支払いは どのようにしますか?」


「ちょっと お待ち下さい」


そう言って 席を立ち 寝室のタンスから封筒を持ってきた


2度数えて 「○○です ご確認下さい」 


Sさんは手慣れた手つきで数えると 「確かに」


自分のシステム手帳に挟んでカバンに収めた


それを見て 私が口を開いた


「これは 往復の高速代金とガソリン代ということで納めて下さい」


諭吉を1枚差し出した


「これが ・・・ 利息分ですか?」


「そう思って いただければ」


「わかりました 領収書は?」


「もちろん 完済の文字付きでお願いします」


「ウチらから領収書を取った素人さんなんて 記憶に無いな わかりました書きますよ」


「領収書持ってるんですか? 冗談で言ったのに」


「ありますよ」



これが支払いを始めて 最初の「完済」でしたね


「極貧」生活にもかかわらず どうして払えたのかって?


Sさんはいつか来ると思っていたので 車を手放しました


今となれば 懐かしい話ですね!








次回  最終章 「Sさんからの電話の内容」 です









それでは  また  m(_ _ )m