<第14回> 台湾の幼稚園入園 | Dr. ミナシュランの台湾グルメと「ママ、ときどきドクター」

Dr. ミナシュランの台湾グルメと「ママ、ときどきドクター」

美味しいものが大好きで、本名の「みな」とグルメの「ミシュラン」をかけて、「ミナシュラン」と呼ばれています。台湾でぽかぽか子育てしつつ、ときどき日本に帰ってお医者さんする「ママ、ときどきドクター」な暮らしの子育てエッセイと美味しいもののブログです。

 娘2歳1ヶ月。
 早くも台湾のローカル幼稚園に通うことになった。

 見学に行った娘が熱中してモンテッソーリの作業をしていたこと、先生の笑顔が肝っ玉母ちゃんみたいで素敵だったこと、何より家から近い事が理由で選んだ幼稚園で、私の出産も1ヶ月後と迫っていたので、背水の陣で娘を送り出す事になったのだが……。

 登園初日、娘を幼稚園に送っていくと、肝っ玉母ちゃん老師に、こう言われた。
 「あ、午前中は英語だから、別の教室よ」
 知らなかった! 
 この幼稚園は英語と中国語のバイリンガル教育で、午前中は英語の授業、午後は中国語でモンテッソーリ作業だったのだ。
 「英語ですって!? まだ2歳なのに? 中国語も分からないのに?!」

 しかし、背水の陣なのだ。(しかも、妊娠9ヶ月で、背水どころかお腹も羊水でタポタポだ。なんのこっちゃ。)
 
 私は、言われるがままに娘を英語の教室に送り届けて、一人トボトボと家に帰った。
 娘が散らかしたままの部屋に戻って、思わず、涙が出た。
 
 娘が喋るのは99%日本語のみだが、幼稚園には日本語が分かる人は一人もいない。そんな環境で娘はやっていけるのだろうか?
 「子供はすぐに慣れる」とは聞くが、心配だ。
 しかし、私の涙は、心配で流した訳ではなかった。
 寂しいのである! 娘とべったりつきっきりでこれまで2年間過ごして来て、(日本では仕事の間保育園に預けたが、その間私は仕事だったので、それほど寂しさを感じなかった)、自分に何も用事ないのに娘がいない、そのことが、ただただぽっかりと寂しかった。
 不思議だった。私は「魔の二歳児」に疲れて果ててもいたのだ。数日前まで、「1日1時間でもいいから、自分の時間が欲しい」と願っていたはずなのだった。なのに、いざ1日8時間、「自分だけの時間」ができてみると、こんなに寂しいものだとは思わなかった。
 でも、娘を連れ戻す訳にはいかない。これからの出産・二人目育児のことを考えると、娘はこの新しい幼稚園に、今から慣れておかなければいけないのだ。

 私はソファに座って、昨日幼稚園を見学した時の事を思い出していた。

 6人ぐらいの園児が輪になって、先生と「キラキラ星」を中国語で歌っていた。娘はもちろん中国語の歌詞など知らないから、そこに立ち尽くしていた。(日本語のキラキラ星だったら、完璧に歌えるのに!)と、親としては見ていられない気持ちだったが、ここを耐えてこそバイリンガルに育って行くのだろう。むしろ、試練は早い方がいいのだろう、と、(自分の)心を落ち着けたが、一人で考えているとやっぱり娘が不憫に思えて、涙が出てしまう。
 「これは、いかん!」
 そう思って、私は、DVDの棚に手を伸ばした。時間ができたら見たいと思っていたDVDが山のように溜まっているのである! これで気を紛らわすか……と手に取ったのは、アメリカのドラマ「LOST」(孤島に飛行機が墜落し生存者が……という話)。シーズン6まである長編ドラマである。この後、「出産までにこのドラマを見終えよう!」と、せっかくできた「自分の時間」は、ことごとく「LOST」されていったのであった……。(幸せ!)

 さて、家から徒歩1分という至近距離の幼稚園を選んで一番良かった点は、幼稚園の先生との距離が近いことである! 幼稚園が終わって、居ても立ってもいられず迎えに行くと、先生がその日の娘の様子を事細かに教えてくれた。
 「とってもいい子にしてましたよ、普通は初日は泣くものなのに、お昼寝前にちょっと泣いただけで、すぐ泣き止みました。それに、他の園児達に、すごく可愛がられています」
 (これには前科(?)がある。日本の保育園で、なぜか他の園児にモテた我が娘。連絡帳によると、「思い通りにならない事があると、○○くん(娘を好きな子)に助けてもらおうと、困ったフリして女優さんになってます」だったらしい。一歳にして早くも女の武器を使っていた娘、恐ろしや!笑)

 その、数日後のこと。私は、先生に聞いてみた。
 「娘、中国語ほとんどできないけど、大丈夫でしょうか?」
 「大丈夫大丈夫、娘さんがみんなに、日本語を教えてくれてますよ~!
 驚いた。中国語が分からなくても、娘は堂々と日本語で振る舞うコミュニケーション能力を持ち、そして、受け入れられていたのだった。まるで小さな親善大使……(親バカ)! また、涙が出そうだった。(「LOST」の見過ぎでドライアイ気味だというのに)

 そして、入園から4ヶ月経った現在、私が幼稚園に迎えに行くと、先生達は目を丸くして驚く。「娘さん、お母さんとは日本語で話してるんですね」と。
 そう、娘は、すでに幼稚園では完全に中国語を話し、家では私と日本語で話すという、完全なバイリンガルになっていたのであった。

 親がのんびりドラマを見ている間にも、娘は毎日着実に成長している。とっても嬉しくて、ちょっとだけ寂しい日々である。