「直感」鍛えて生き残れ | 21世紀のケインジアンのブログ

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ビッグデータ、人工知能時代の到来が叫ばれるが、現場は直感を大事にすべきだ。ビッグデータ、人工知能時代の盲点は、数値化できない直感に重きが置かれなくなっていること。略)おかしいと思ったりしたときの直感は案外正しいと脳科学者の茂木健一郎さんは言う。また、「受験エリートのような頭の良さや計算力は、いずれ人工知能に置き換えられてしまう」からだ。「偏差値を指標にした優秀さはこの先、求められなくなるとも。

やがて訪れる人工知能時代に備え、直感を磨くに越したことはなさそうだ。

 

 

毎日新聞 20151013日 東京夕刊

鋭い「メタ認知」機能で人工知能に勝つ/幅広い経験、異分野の友人大切に

 「直感」。実生活ではそれに頼ることも多いが、論理や統計を重んじる分野では「思い込み」「感覚的」などと軽く見られがちだ。だが最近、人工知能やビッグデータ(事業などに役立つ膨大な蓄積情報)に絡んで、この言葉が取り上げられるようになった。重要性が見直されているというのだが、そのこころは--。【藤原章生】

 脳科学者の茂木健一郎さん(52)は9月末、東芝の不正会計問題について朝日新聞でこう論評した。

 <トップの指示を忠実に実行するやり方が浸透し、逆に問題が起こりやすくなった気もする。(略)現場は直感を大事にすべきだ。ビッグデータ、人工知能時代の盲点は、数値化できない直感に重きが置かれなくなっていること。(略)おかしいと思ったりしたときの直感は案外正しい>

 「直感」を重視するわけを知るため、茂木さんを訪ねた。脳科学者は、絵画の鑑定士が贋作(がんさく)を瞬時に見抜く例などを紹介した米国のベストセラー「第1感 『最初の2秒』の『なんとなく』が正しい」(マルコム・グラッドウェル著)を示しながら、こう説いた。「鋭い鑑定力で知られた随筆家の故白洲正子さんは、寺院などを回る際、データやガイドブックを見ず、まず向き合って良しあしを感じた。直感を使ったんです。振り込め詐欺の声に『おかしい』と感じたり、学生が内定式で『会社の雰囲気が何か違うな』と感じたりするのも直感で、下手に引っかからずに済むこともあります」

 直感とは、外からの刺激が無意識に収まる膨大な情報・記憶とつながり、うまく関連づけられて意識に上ってくるもの-。「意識は傍観者である」(2011年)が英米でベストセラーとなった米国の神経科学者、デイビッド・イーグルマン氏はイタリア紙のインタビューで、そう定義した。彼の比喩によれば「意識」は大海原を渡る蒸気船に乗った密航者、「無意識」は巨大なエンジン。実際に「意識」を動かしているのは「無意識」だというのだ。

 茂木さんが説明する。「直感は『メタ認知』と呼ばれる脳の機能の一つです。直感のほか、自分をもう一人の自分が外から見つめる、自分と対話する、無意識から発想の種を拾い上げる--などもメタ認知に含まれます。この機能には個人差があって、鋭い人と鈍い人がいます」

 メタ認知が鈍いと、どうなるのか。「直感に気づかないだけでなく、自分を客観視できなくなる。政治家の失言、例えば菅義偉官房長官の『ママさんたちは子供を産んで国家に貢献を』発言も、そこからもたらされる気がします。精神に余裕がないとメタ認知が働かず、判断を誤ったり、うつになったりすることもあります」

 茂木さんが直感に重きを置くのは「受験エリートのような頭の良さや計算力は、いずれ人工知能に置き換えられてしまう」からだ。「偏差値を指標にした優秀さはこの先、求められなくなる。中途半端な事務処理能力を人工知能が補うようになれば、突き抜けた感性の人しか食べていけなくなるでしょう」

 実際、日本の大学入試は、穴埋め式や択一式など記憶量を競う問題が多く「人工知能によって一番簡単に解ける類いのもの」。「でも僕が知る範囲だと、英ケンブリッジ大の入試は1時間半くらいの面接で、『冬の湖にいる鳥の脚はなぜ凍らないのか』と、準備できず、その場で模索するしかない一問が出される例が多い。直感力が問われるのです」

 では、人工知能は、どこまで進んでいるのか。

 米エール大で脳神経科学の博士号を取得し、現在はヤフー株式会社のCSO(最高戦略責任者)を務める安宅(あたか)和人さん(47)はテキストや画像など情報の判別、仕分け、売り上げなどの定量的な予測では、既に人間を超えています。しかし質感の理解、意思、感情を持つことは当面考えられない。『人工知能が人間の能力を超える』という話を素で信じるのは映画やアニメの見過ぎで、人間同様の存在になる未来も全く見えていません」と語る。

 特に直感を得る、全体を見渡す、本質に気づくといったメタ認知は「人間の最も高度な知的能力の一つで、人工知能は手も足も出ない分野」だと言う。

 1枚の紙を前に、安宅さんはこう話す。「この紙を丸めたら筒になることは2歳児でも気づくことがありますが、人工知能は永遠に気づかない。同様に、犬や猫でも初めて目にした大トカゲに反応する、つまり漠然とでもその意味をつかみますが、人工知能は初見の脅威を解しません」

 人間はあいまいな情報からも刺激を受け、何らかの着想を得ることがある。脳の中では膨大な神経細胞が複雑に連結しており、ある情報が別の情報にパッとつながり得るからだ。「固有名詞やデータのない緩いおしゃべりでも、さまざまな記憶がつながるのが人間。だからこそ直感が生まれるのです」(安宅さん)

 この「情報のつながり」を備えさせようと、現在、グーグル社などが人工知能にビッグデータを植え込んでいるが「どこまで人間のように理解力が身につくかは不明」だという。「例えば、村上春樹に関する全データを入力しても『やっぱり初期3部作は違うねえ』とか、『ノルウェイの森』の彼女の言葉は何なんだ?といった雑な会話になると人工知能はついてこられない。何ページの何行目は取り出せても、込められた意味、哲学的なふわっとした概念を理解できないからです」

 直感や、それを支える「情報を即座につなげる能力」では、まだ人間には遠く及ばないということのようだ。

 安宅さんは、直感を得る力は「遺伝に左右される味覚など感覚に比べ、教育や訓練で鍛えやすい」と言う。どうしたら身につくのかを聞くと、「経験知として言えるのは、直感を得る能力の高い人と一緒にいたり、仕事をしたりすると、間違いなく伸びる」。さらに「異質な生の経験を増やす。素養のないバイオリンを覚えるとか、新しい視点を持つことでメタ認知力は上がります。ビジネスではハイテクなどの1業界だけでなく、転職などで重工業、商社も知っている方が知恵が浮かび、賢くなる。全く関係ない分野の友人を多く持つのもいいでしょう」。

 フランスの大数学者ポアンカレをはじめ、眠りや夢で直感を得た学者も少なくない。「熟睡で余計な記憶が掃除され、情報がうまくつながり整理されるため」とみられる。安宅さんも、起き抜けにハッと気づくことが多いそうだ。

 やがて訪れる人工知能時代に備え、直感を磨くに越したことはなさそうだ。

http://mainichi.jp/shimen/news/20151013dde012040002000c.html?fm=mnm