あの伝説のタブーなき反権力ジャーナリズム月刊誌「噂の真相」の元副編集長が | 21世紀のケインジアンのブログ

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 タブーの正体!: マスコミが「あのこと」に触れない理由 (ちくま新書)/筑摩書房
を出版したので早速、読んでみた。2004年に休刊となった「噂の真相」はなんと言っても私にとっては忘れられない特別の雑誌である。雑誌の存在を知ってから約20年間、毎月、発売日には書店に行き、家に帰ってから夜遅くまで読むのが私の習慣でもあり楽しみでもあった。出版不況の中で、赤字続きで休刊に追い込まれる雑誌が相次ぐ中で、この「噂の真相」は、月刊誌として「文藝春秋」に次ぐ売上を誇り、黒字にもかかわらず休刊したという非常に珍しい終わり方をした。

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 「噂の真相」の魅力は、まさしくタブーなき反権力ジャーナリズム月刊誌らしく、他のメディアでは書けない記事をバンバン書くことである。本当に「骨のある」雑誌だった。実際に、「噂の真相」には他のメディア、新聞・テレビ・雑誌などで、ネタをつかみ取材をし、報道しようとしたが、社内で潰されてしまった記事、つまり、「上からストップがかかり、ウチでは報道できないからおたくで書いてくれ」というケースも少なからずあった。そこから、マスコミがなぜ「あのこと(タブー)」に触れないのかを実例を用いて説明している。


 「噂の真相」の元副編集長 川端幹人氏によれば、メディアにおける報道タブーの理由は大きく言って次の3つだという暴力の恐怖-皇室・宗教・同和タブーへの過剰対応権力の恐怖-政治家・官僚タブー経済の恐怖-特定の企業や芸能人がタブーとなるメカニズムがある、である。


 このようなタブーを前にするとマスコミは「あのこと(タブー)」に触れなくなると言う。簡単に分かりやすく言うと、①は右翼などの暴力報復行為を受ける、②は検察、警察、財務省(国税)などを怒らせるような報道をすると、仕返し(国税の調査、捜査、逮捕、起訴など)をされる。③は強く抗議され広告を止めると脅される(実際に、広告を減らされたり、止められることもある)。さらに、些細なことで名誉毀損で訴訟を起こされる。などを恐れてマスコミが報道を自主規制してしまうからだ。


 この本を、読むと、一体、マスコミはどこまで本当のことに切り込めるのだろうかと暗澹たる気持ちになってしまう。川端氏はタブーに切り込めた例も挙げている。から、3年前ほど前、「週刊現代」がJR東日本の経営体質や食肉利権の不正追及など、それまでタブーとされてきたテーマに次々と挑んだ時期があった。それは、当時の加藤編集長のキャラクターに追うところが大きかった。また、「噂の真相」にしても、そうだ。皇室記事に抗議した右翼に会社を襲撃され大けがを負ったり、数知れない名誉毀損の訴えの訴訟対応をし、また、幹部のスキャンダルを報じたところ検察の№2が辞任に追い込まれた後、東京地検特捜部による恣意的な起訴を受けても怯まなかった経営を無視してでも編集方針を貫く雑誌のオーナーでもある岡留編集長という存在なくしては「噂の真相」も成り立たなかったからである。


 タブーに切り込む報道を行うには、そのような属人的な要素が大きいというのである。しかし、結局、「週刊現代」の加藤編集長は70件を超える名誉毀損訴訟を起こされたあげくに、異動に追い込まれた。「噂の真相」も黒字なのに休刊するという事態になっている。


 岡留編集長は最初、「個人情報保護法」が施行されたら、休刊すると言っていたが、川端氏によれば、実際には、一番の脅威となったのは2001年に最高裁民事局が、損害賠償の金額をそれまでの、50万円~100万円からその10倍の500万円~1000万円に引き上げたのが一番大きかったという。損害賠償額が50万円~100万円なら、敗訴となってもその雑誌が話題になってよく売れればカバーできるが、500万円~1000万円となると発行会社にとって経営基盤を揺らがしかねない大きな損出となる。他の雑誌でも、それまでは「名誉毀損は勲章」という風潮があったが、高額訴訟判決が始まってからはデスクが「そのネタ、訴えられたりしないだろうな」と決まり文句のように言うようになり、少しでも訴訟リスクがある記事は避けようとするようになった。おまけに、名誉毀損の裁判では、報道した側が、それが事実であることを証明できなければ負けてしまう。情報源の秘匿などの必要性もあり、名誉毀損で訴えられるとマスコミ側が勝つのは難しいのだ。


 上記の損害賠償金額の高額化にも裏事情があるという。自民党は1998年の参院選の大敗の原因がメディアの報道にあると考え、メディア規制を本格化させた。そして、1999年から2000年にかけ、森政権が、「噂の真相」による森首相の売春検挙歴報道や「フォーカス」による中川官房長官の愛人告発など、雑誌メディアのスキャンダル報道によって崩壊に追い込まれると自民党は目の色を変えた。法務省・最高裁判所に強い圧力をかけ、名誉毀損判決における損害賠償金額の高額化を実現した。当時、裁判所は裁判員裁判の導入など司法制度改革をめぐって政界に裁判官の増員を陳情しており、それと引き換えに自民党からの要望を受け入れて高額化を推進した可能性が高いという。


 このように、マスコミがタブーに切り込むことは非常に難しい状況になっている。しかし、昨年7月に訴訟リスクに怯まずオリンパスの不正経理問題をスクープした月刊「ファクタ」など(他のメディアは訴訟リスクが恐くて会社側が公表するまで3ヶ月間傍観していた)、これから期待させてくれるメディアも出てきている。「ファクタ」の阿部編集長も雑誌のオーナーである。圧力に負けず自らの編集方針を貫いた岡留編集長の後継者が後に続くことを願っている。