出張先で(たまにだけども)、一人いざ夕食を食べるというのは、かなりその日の大きな問題である。
時には、その日のメインイベント90分一本勝負という、リングに上がる前のドラゴン藤波の心境になるのだ。
仕事も終わり、深くためいきなどもひとつつきながら、ここで、この夕食で詰めを誤ると、一日が台無しになるのだ。
月に数度の出張も、意外と一人で食べることはマレなのだ。
だからこそもう、カバンを引きずりながらホテルに向かう道中で、いやいや、山手線の電車の中で、もうワシの今日のこの日のむずびの一番を勝利で飾らなくては!という横綱白鵬の支度部屋の精神統一の状態である。
あれれ、ドラゴン藤波ではなかったのか、お前。
なんだか、最近は白鵬の方が格好いいから、変更。
ぜひ、本日の最終の美を飾って、なんとか天皇賜杯だけはもらいたい。
ワシも幾多の「出張一人旅、愛と哀しみの一人ご飯・純情編」を経験してきたが、このお店のチョイスだけは、いまだ悟りの境地にはならないのだ。邪念と誘惑のレストランならびにコンビニならびに焼き鳥屋、そして居酒屋がワシを誘う。
「我 いまだ 木鶏(もっけい) たりえず」
昭和の大横綱・双葉山の気持ちがヨーわかる。
しかし、この3~4年は、ひとつの型が出来てきつつある。
うまいビール。
そして、ビールぐびぐびの一品料理。
すべては一杯のビールのためだ。
となると、やはり居酒屋になるのだ。
右手にビール、左手に昨日買っておいた文庫本などを持ってるときは、たまらない至福の時間となる。
席はワイワイ騒がしいテーブル席などを離れて、出来れば一人そっとカウンターなどがいい。 ビジネス関係の本などとなると、赤ペンまで持っているから忙しい。
そこまでして本をみるか、というぐらいにややこしい酒飲みと化す。
まず席につくなり、生ビールをいっぱい頼む。
その間に、メニューなど眺めながら、このお店の特徴をざっと分析するのだ。何が得意のパターンなのか、なにをレンジで誤魔化そうとしているのか、写真などあればそれも参考にしながら、一瞬にして分析する。ごまかしメニューは決して許してはならないのだ。
お通しをつまみながら、さてさてと買ったばかりの本の「はじめに」などをフムフムと入り込んで読んでいるうちに、「へい、おまちっ」と最初の「ほたるいかの沖漬け」などが運ばれる。
あいや、などと小さくつぶやきながら、さっさと目の前のスペースを空けるのだ。
その日のビールの最初のひと口は、その日最大にして最重要の行事。
すべては、この瞬間のためにある。
ジョッキがよく洗浄されてなくて、泡がすぐに消えたりすると、店主の首をしめてしまいたい心境になる。680円もするのにジョッキが小さかったりすると、手首を縛ってわき腹を3時間ぐらいマジメにくすぐり殺してやりたい殺意を覚える。
そうして、ワシはメニューにまた目をやりながら本日のビール天国作戦に頭をふたたびめぐらせるのであったのであったのであった。
(いつか続く)
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