カテゴリだけは作りながら、書いていなかったバンパイアものです。
またもパラレルですので、嫌な方はブラウザバックでお願いします。
一度、だいぶ書き進めたのに消えてしまった曰く付き。
何話か続きますが、それ程長くならない予定。5話位?
あ、タイトル…
薄曇りの街 1
車から降り、大きな荷物を引っ張りだしたキョーコは空を見上げて溜息をついた。
曇天
昼日中だというのに、どんよりと曇った空は自然と気分を陰鬱とさせる。
しかし、その空にもだいぶ慣れてしまった。この街では晴れの日の方が稀なのだ。
仕事道具が入った鞄を肩によいしょとかけ、キョーコは訪問先のノッカーを鳴らす。ノッカーはどこかとぼけた鹿の頭の形をしていた。
程なくして現れたメイドに、来訪の意とすでにアポイントメントをとっている旨を告げると、メイドは承っていますと慇懃に頭を下げた。
キタ家
この街でも有数の貿易商だ。
海外から主に珍しい香辛料を仕入れて成功したという先代の財産を継いだ地元の名士である。
二代目もやり手と聞いているが、
優れた商人が、付き合いやすい相手とは、限らない。
窓の外に広がる薔薇園の見事さに目を奪われながらキョーコは思う。
覚悟した程待たされることなく現れたのは50歳程の小さな男性だった。キョーコと対して変わらない身長。
「お待ちしておりましたよ。いや、まさか。こんなに若い女性だとは思いませんでした。」
にこにこ笑いながら言う言葉に、しかし棘は感じられない。
やり手の商人の面の皮の厚さか、
女で、若いと侮られる事もしばしばあるのだが、さすがに今回は紹介元がよかったか。
「いや、こちらも原因がわからず困っておりましてな。オガタ署長に相談したらうってつけの方がいると。まさかあの人がこんな分野にも明るいとは知りませんでしたよ。」
「別件で、ご一緒した事があるんです。」
ニコリと笑って話を合わせると、当主の目が光った。
「ほう。お聞きしたいですな。貴女のようなご職業の方と知り合えるチャンスはそうありませんのでね。貴女のお話は面白そうだ。」
「機会がありましたら。けれど、今日は御宅の困りごとを解決にやってきました。現場と現状を教えていただけますか?」
********
変異が現れたのは一週間程前。
薔薇園を手入れしていた庭師だった。
この時期は薔薇が盛りの時期。幾つもの庭園を掛け持ちしている庭師は、キタ家の庭を手入れしていて、ふと、気づいた。
ーーー虫がいない
今が盛りと咲き誇る薔薇に立ち寄る蝶々もいない。害虫もいない。
はて、何か特別な事でもしただろうかと首を傾げるも思い当たらず、手入れを終えた庭師は間引いた薔薇をメイドに渡しながら世間話のようにそんな話をした。
メイドも心当たりがなく、首を傾げたが美しく咲く薔薇に目を奪われてその話はそれきりになってしまった。
3日後、メイドが気づいた。
ーーーネズミがいない
いつも餌をねだりにくる猫もいない…。
気づけば、囀る小鳥もいない。
「なるほど…『獲物』が徐々に大きくなっていったんですね…」
キョーコの発言に、当主はギクリと身を強張らせた。
「ええ…私は気のせいかと思ったのですが、使用人達が怯えまして。加えて、異音が…」
屋敷内のどこからともなく、女の物悲しい悲鳴のような声…
「…それは、今も聞こえますか?聞こえる時間に規則性などは?」
「夜…が多いようですが」
キョーコはふむ、と頷いて口を開こうとした時にある視線に気づいて部屋のドアの方に視線をやった。
少し開いたドア。その隙間に、少女がいた。
茶色の巻き毛に、茶色の瞳。まだ10にも満たない程の少女だ。
キョーコと目があって、少女があからさまに身を強張らせた。
キョーコの視線に気づき、当主も少女に気づいた。
「ああ…失礼。娘です。アリィ。そんな所にいないでこちらに来てご挨拶しなさい。こちら、退魔師の先生だよ」
「こんにちは」
タイマシ、なんて言った所で小さな子供にはわからないかもしれないのだが…
努めて優しい笑顔を浮かべたキョーコに、脅えた表情を向けてアリィ少女はさっと身を翻して走り去ってしまった。
「こらっ!アリィ!失礼だろう…!…ああ、申し訳ない。」
「いいえ」
人見知りで、と詫びる当主に、キョーコはニコリと笑って、
では、少し御宅の中を見せて頂けますかと依頼した。
******
あー。
あまり、桃にはならないかもですよ。
この素材で何故桃にならないのか、その方が理解に苦しみますが。
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