慕情・すみれ色 | 伽想詩

伽想詩

愛するものは猫と本と花......そしてantique

父がまだまだ元気だった頃

しきりと自分の気に入った服や小物を私に持って帰れと

実家に行く度に手渡そうとしていた時期が有った

その行為はまるで形見分けの様で何度も押し返して帰って来たが

追いかけて自転車の籠にねじ込まれたりして仕方無く持って帰った物も有り

今となってはそんなやりとりも全て懐かしくて愛おしい


父は何処へ行ったのだろう   


呼んでも呼んでも目を開けず、小さな息を2回して

冷たくなった手の感触だけを残して静かに逝ってしまった


最後の数日は鎮静剤を投与されていたので結局は何も会話出来なかったから

ちゃんと今までのお礼も言えなかったし

父を愛していた事も伝えられなかった


最後のお別れさえ言えなかった



何処へ行っても何を見ても父との想い出ばかり浮かんで来て辛い

良く一緒に行った店や並んで歩いた道

いつからか私より歩くのが遅くなって、悟られないように歩調を合わせていたっけ

周りの景色は何も変わっていないし誰も悪くないのに

悔しくて寂しくて被っていた帽子の鍔をもう一度ぐっと下げる

そう遠くない先、父が居なくなるのは分かっていたのに

こんなにも厳しい現実が待っていたなんて

名も無い一人の老人がひっそりと亡くなっただけの事なのに

何も世の中とは関係の無い事なのに

そして私と同じ思いを持つ人が他にもたくさん居る事も分かっているけれど............



葬儀後の事務的な手続きでの書類にも死亡や除籍と言う文字が必ず有って

父がもうこの世に存在しない事を思い知らされたり................


秋が来て冬が来て父が楽しみにしていたお正月がやがて訪れるけれど

いつもと同じようにみんなで集まろうと思う


$I will see again・また逢おうね