7年ぶりに、かつての愛馬オスカーリッチに跨った吉岡は何を思ったのだろう。


当然、昔のオスカーリッチとは馬の状態は違う。それは乗る前からわかっていたはずだ。
それでも、吉岡の気持ちの中では、どこかに何かを期待する気持ちが残っていたのだろう。
それは、本当に些細な気持ちかもしれない。
だが、たとえ些細な気持ちであれ、気持ちが残っていれば現実に裏切られたときにダメージは残るもの。

片思いは片思いで終わるから、良い思い出として残るものなのかもしれない。





2009年12月20日。


この日、吉岡がエクインホリックでオスカーリッチに跨った事で、彼の中では1つのキーワードが浮かんできた。

それは『馬の幸せ』というキーワード。

競馬場で競走馬としての使命を終えたサラブレッドは、殆どが『廃用』となる。
もちろん、表向きには『廃用』なんて言葉は使われない。競馬雑誌のGallopでも、表向きには『乗馬へ』という言葉が使われる。だが、馬に関わる人は、みんなそれが何を意味するのかよく知っている。


実際に、乗用馬として第2の馬生を生きる事が出来る馬たちはほんの一握り。

吉岡は、いつか会社を辞めて、そんな馬たちが幸せになれるように、そんな仕事をしようと心に決めたのだ。

ただし、それがどういうものかは、まだ本人も分かってはいない。
あるのは『馬の幸せ』という漠然としたキーワードのみ。

乗馬人口を増やし乗用馬への門戸を広げるのか、サラブレッドの社会的需要を新たに生み出すのか、それとも何かまったく新しいビジネスモデルを構築するのか。


その決意だけを胸に秘め、再びホースマンとして馬の世界に帰って来た吉岡大輔の2009年は終わっていくのであった。




続く

吉岡大輔物語~⑤サラブレッドよ、幸せであれ~   



※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等は関係ありません。


※当blogは吉岡大輔選手とオスカーリッツ号のオフィシャルサポーターです。