愛美は何かを察して二人にするために「飲み物買ってくるね」と稲坂の病室から出た
柚雪は愛美が病室から出ていくのを見て、稲坂と二人になったことに、ますます気まずい気持ちになった
「……」
「……」
何も話さないまま、二人はしばらくの間、黙り込んだままでいた。
「柚雪くん…」
沈黙が辛かったのか稲坂は急に口を開いた
「ど、どうしたんですか?」
柚雪は驚きながらも、稲坂に向き合った。
「……いや…思い出せなくて…ごめん、って言いたくて…」
向き合った柚雪を見ながらそう言った
「……」
柚雪はなんも言えなくて黙ったまま見つめる
「柚雪くん…?」
黙り込んでた柚雪に稲坂はそう言いながら首を傾げる
「……やっぱり思い出せないんですね…」
柚雪は悲しそうな表情でそう言って見つめる
「……え?」
悲しそうな表情で見つめられて稲坂は内心で焦ってた
「稲坂さんは…〝柚雪くん〟じゃなくて…〝輝春〟って呼んでた…。でも忘れてるんですもんね…」
柚雪は泣きそうな声でそう言うと
「……っ」
見れなくなった稲坂は思わず柚雪の手を引っ張って抱きつく
「……い、い、稲坂さん…?!ど、どうしたんですか…いきなり」
柚雪は驚いたように尋ねた
「やっぱり…俺は〝輝春〟が好きだ…。たとえ…君が俺の事が嫌いだとしても…俺は好きだよ…」
「……え…稲坂…さん…?」
驚きを隠しきれない表情を浮かべた。
「君らが来る前に…思い出せたんだ、輝春のこと…振られたことも…全部…」
稲坂は柚雪をまっすぐ目で見つめる
「……稲坂さん……良かった…稲坂さん…」
柚雪は、稲坂の表情を見てあまりにも安心して涙を流してしまう
「泣かないで…輝春…」
そう言いながら稲坂は柚雪の目元を優しく拭った。
「ほんとに…よかった…っ!」
柚雪はそう言った後、バッと抱きついた
「……よしよし」
稲坂は、柚雪を抱きしめ返して頭を撫でた
ーーー病室のそとにてーーー
「……思い出してるやん、稲坂さん」
愛美は病室の外で稲坂と柚雪のやり取りしてるのを聞いてた
「んじゃ、あとは任せたよ、柚雪〜♪♪」
そう言って愛美は病室に入らずに病院を出た
ーーー病室にてーーー
「稲坂さん…あの…」
柚雪は気まずそうに稲坂にそう言った
「ん?どうしたんだい?」
稲坂はそう言いながら首を傾げる
「……えっと…その…俺…稲坂さんに酷いこと…言った」
柚雪は謝罪の言葉を口にすると、少し涙ぐんだ。
「うん、でも、気にしないで。輝春」
稲坂は柚雪を見つめ、やさしく微笑んだ。
「でも…そのせいで…」
柚雪はそう言いかけたが
「それ以上言わないでくれ。な?輝春」
と柚雪の口に指を当てて稲坂はニコッと笑う
「………ごめんなさい。稲坂さん…」
「輝春、もう俺は大丈夫だから…な?」
稲坂はそう言ったあと柚雪のおでこにチュッとキスした
「……っ///」
柚雪はおでこにキスされ、恥ずかしそうにおでこを触った。
「どうしたの、照れてるのか?」
と稲坂は優しく微笑んで聞いた。
「い、いや……何でもないよ」
と柚雪は言ったが、顔は赤くなっていた。
「そうか……でも、君がそんな風に照れると、俺は思わずキスをしてしまうんだよ」
クスクスっと笑いながらそう言った
「……ばか…!もう帰る……っ!///」
柚雪は稲坂に背を向け、手で顔を覆いながら部屋を出ようとするが、稲坂に引き留められた。
「待って、まだ話が……」
「…な、なに…?」
振り向いてそう言うと
「やっぱり…俺たち終わり…?輝春」
そう言いながら見つめる
「………」
柚雪は手を振り払いたいと思ったが、できなかった。
「…輝春?」
「……わかんない。だって、玲哉の方が…」
柚雪は目を逸らしながらそう言った
「…ううん。ほんとになんもないんだ…。だから…もう一度やり直して…?」
「……」
稲坂にそう言われても柚雪は黙ってしまった
「ダメかい?もう好きじゃないから付き合えないってことかい?」
黙り込んだ柚雪にそう言いながら稲坂は首を傾げる
「……好きだよ」
柚雪は超小声でそう答えた
「……え?」
稲坂は、柚雪の答えに驚きながらも、嬉しそうな表情を浮かべた。
「…なんでもないです。忘れてください…」
柚雪は軽く稲坂の手を振り払い、距離を置く
「今、好きって言ったんだろう?輝春…」
稲坂は真剣な表情でそう言った。
「……言ってないです…俺はなんも…」
柚雪は、稲坂の表情と言葉に混乱していた
「ほんとにきらい、なら…俺の目見て…?」
稲坂は軽く柚雪の顔を自分の方に向かせた
「……ほんとに…き…らいです…っ!」
柚雪は震える声でそう言ったが
「……目逸らしてるよ。ちゃんと俺の目を見て?輝春」
稲坂は柚雪の頬を触りながらそう言った
「……ほんとに…ずるい…あなたっていう人は…」
柚雪は言いながら稲坂の目を見つめる
「どう、ずるいなの?俺はただ、君が好きなだけだよ?ダメかい?」
稲坂は笑みを浮かべながらそう言った。
「……そんなん…分かりませんよ…」
柚雪は稲坂の言葉に戸惑いながらも、稲坂に少し心を動かされる
「…もう一度、言うね。俺は輝春が好きなんだ。…だから…別れるなんて…言わないで」
稲坂は泣きそうな声でそうで必死に柚雪に訴えた。
「……稲坂さん…泣かないでくださいよ…」
柚雪は動揺した様子で稲坂を見つめた。
「…ほんとに嫌い?もう好きじゃない…?」
泣きそうな表情で見つめながら稲坂はそう言った
「……っ。…はぁ…そんな顔しないでよ…稲坂さん」
そう言ったあと柚雪は稲坂を抱きつく
「だって、嫌いなんだろう?俺の事」
稲坂はそう言って抱き締め返した
「……どう、思う?稲坂さんは…」
柚雪はそう言いながら稲坂の肩にうずめた
「俺は嫌いじゃないっておもうな、あとは嫌いだったらこんな風に俺を抱きついたりしないだろう?」
そう言いながら稲坂は自分の肩にうずめた柚雪の頭を撫でた
「…でも、俺は稲坂さんに酷いこと…」
柚雪は言いかけて、口を閉ざした。
「もう、そういうことは言わなくていいんだよ。君が嫌いじゃないだけで十分だ」
稲坂は柚雪の心を汲み取り、優しく微笑んだ。
「……ごめんなさい…」
と柚雪は小さな声で謝った。
「…じゃあ、ヨリ戻そ?輝春」
稲坂は、柚雪の手を優しく握りしめた。
「……」
柚雪は黙ったまま小さく頷く
「ありがと。輝春」
稲坂は優しく微笑み、柚雪の唇にキスをした。
「んっ…ダメだよ…。ここ病院…///」
柚雪は赤面しながら言った。
「じゃ、退院したら…たっぷりしよ?輝春」
「………ばか…///」
二人は、互いの気持ちを確かめ合った後、再びヨリを戻した。それからは、柚雪は稲坂が退院するまで一緒に過ごす時間が増え、更に深い絆で結ばれていった。