合同ライブが終わって数日経って、今日は久しぶりの休日…。玲哉は合同グループでの練習ばっかりで、家の事や自分の事は手付かずだった。まして、姫宮との関係はあの(柊翔に『区切りつけたほうがいい』と言った日の後)時から変わらずだった。玲哉は少しずつだが、柊翔の事は〝いい仲間〟〝好きな人だった〟と思い始めて、前に進んでいた。と玲哉はそう思っていた
「あー…やっと…休みや…」
(て言うても…これ片付けせな…はぁ…)
昼過ぎまで寝ていた玲哉はリビングに行って見渡すと呆れるほど汚くなっていた
(後でええや…明日も休みやし)
「今日はゆっくりにしよ…」
リモコンを手に取ってテレビをつけ、ソファに沈み込みながら玲哉は大きくあくびをして、ぼんやりとテレビを見る
「動く気、まじで起きひんな…」
(練習ばっかやったから…こういう日、ゆっくりするの久々すぎる)
ソファに座り直して、腕を組みながら軽くうつむく。そのまま視線を落としたまま、ぼーっと時間が過ぎていったすると…ピロン♪とテーブルの端に置いてあるスマホが震える。
「……んー」
通知音が来て反応が少し遅れてから手を伸ばす玲哉は、だるそうに画面を覗き込む
「…ひめちゃん?」
(なんで今…?なんか用事なんかな)
表示された名前を見て、指が止まってわずかに眉を寄せた。LINEを開くとそこには《今って家に居ます?》が来ていた
「……それ聞いてどうすんねん、まぁ…」
(家におるけど…今は相手する気ないんよな…)
ため息混じりに呟きながら《家やで?どしたん?》と打ち込んで送信をし、スマホをテーブルに戻す。すると、すぐに既読がつくのを見て少しだけ目を細める。
「……反応だけは早いな」
と、そう言って少し笑い、肘を膝につきながらスマホを見続ける。だが、そこから何も返ってこない。
「……それで終わりなんかい」
(用件くらい言えっての…!)
少し呆れたように玲哉はソファの背もたれにだらっと寄りかかる。次の瞬間…ピンポーンと鳴るチャイムの音が鳴った
「ふぇっ…?!」
背もたれに寄りかかったまま玲哉は玄関の方へ視線を見た
「いや今の流れはさすがに俺でも…わかる」
(姫ちゃん…やろな、これ)
そう言いながらじっと玄関の方を見つめ続ける
「……よりによって今日か」
(……最悪のタイミングやん)
立ち上がり、苦笑い混じりにそう言いながら玄関に向かう。
「なんか言われそうやな、これ…」
歩きながら、無意識に部屋の散らかり具合を一瞬だけ見た。そしてそのまま玄関へ向かって歩き出した
「……タイミング的に、もう分かるわ」
(こういう時に限って当たるんよな)
玄関の前で立ち止まって、小さく息を吐きながらドアを開けた
「こんにちは、薄塚さん」
帽子を深くかぶっていた姫宮はそう言いながらにこっと笑って軽く手を振る
「ほんまにおったし…何してんのや」
姫宮が手を振りながら見つめていたことに玲哉は半ば呆れたように言う
「え?来ちゃいました♡」
首を傾げて悪びれずにそう言った
「いやいやいや、来ちゃいました♡やあらへんやろ」
と、思わずツッコミを入れながら一歩後ずさる玲哉。
「ダメでした?」
〝えー〟と言った後、少しだけ上目遣いで覗き込む
「ダメとかの前に連絡あるやろ普通」
額に手を当てながらため息をついて苦笑いした
「ちゃんと聞きましたよ?家にいるか」
当然のように言いながら一歩踏み出した
「いやそれ確認やろ、訪問確定のやつちゃうねん」
と、思わず苦笑いしながら道を少しだけ空けてしまう玲哉。
「お邪魔しまーす」
その隙を逃さず、姫宮はするりと中へ入って楽しそうに靴を脱ぎながら中へ上がる
「姫ちゃん…!ちょい待てってほんまに」
(あかん、止めるタイミング完全に逃した)
そう言いながら姫宮の後を追った。リビングへと進んでいく姫宮の背中を見てため息ついた
「……わぁ、すごいことになってますね」
リビング見た瞬間に少し目を丸くするが、すぐに笑って玲哉の方に振り返る
「いや、あの、その……」
言い訳を探すように視線を泳がせながら背中で扉に寄りかかる
「忙しかったんですもんね、玲哉さん」
そう言いながら姫宮は楽しそうにリビングを見回す
「それは姫ちゃんもやろ?…でも流石に放置しすぎたな」
頭を掻ぎながら苦笑いしてそう言った
「まぁ、自分も忙しかったんですけど…少しは片付けてますよ」
クスッと笑いながら口元に手を当ててそう言った
「おい、それ嫌味か?姫ちゃん」
ムッとしながら姫宮の肩を軽くベシッと叩いた
「いやいやまさか~♡…でも、ちょっと安心しました」
そう言ってニコッと笑いながら玲哉の頭に手を添えて見つめる
「……何がやねん」
玲哉はそう言ってじっと姫宮の目を見つめる
「何がって…薄塚さん、ちゃんと“生活してる”って感じするので」
そう言いながら玲哉の頭をくしゃくしゃと撫でた
「意味分からんフォローやめぇや」
(まぁ……来てくれて嫌じゃない時点で、もう負けやな)
玲哉少し笑った後、軽く呆れながらも視線を逸らす
「いいじゃないですか、生活感あって」
ニコッと笑った後、姫宮は再びリビングを見回した
「…うっさいわ、片付けるつもりやったし…」
と玲哉はため息混じりに返した
「…今日と明日はなんも予定とかないっすよね?」
〝それより〟くるっと振り返り、玲哉の顔を見つめる
「…はぁ?いや…ない、けど…なんでや…?」
怪訝そうな表情でじっと見つめる
「……よかった」
と、小さく息を吐きながら表情を緩める
「……何がよかったん」
(なんか嫌な予感しかしないんやけど)
と、怪訝そうに眉をひそめるながら腕を組み直す
「今日と明日、予定ないんですよね?」
姫宮は改めて確認するように首を傾げた後、聞く
「……さっき言うたやろ、ないって」
少しだけ呆れたように返す玲哉。
「じゃあ、ちょうどいいです」
ふぅ…と息をつき、そう言った
「……何がちょうどええねん」
と、警戒するように目を細める玲哉。
「だって、薄塚さん…顏がタヒんでますし?」
「……」
図星を突かれてなんも言えなくなった
「だから、今日と明日は自分に任せてください」
テーブルに置かれたリモコンをひょいと持ち上げた後、姫宮はテレビの音量を下げて、リモコンをそのまま置く。
「……は?今なんて?」
(この流れ、ろくなことにならんやつや)
一瞬何のことかわからなかったが、心の中ではそう呟いた
「だから片付けも、ご飯も、全部やります」
姫宮はキッチンの方を軽く見てから、玲哉に視線を戻す。
「……別に、疲れてるけど、無理してへんよ?」
苦笑いしながら、手を振ってそう言った
(その言い方、嘘ついてる時のやつだな…分かりやすいんだよなこの人)
「無理してるの、分かりますよ?だって現に俺に嘘ついてるから」
姫宮はそのまま一歩だけ近づいて、玲哉の袖を軽く掴む。
「……分かった気になるなや」
一瞬、言葉が喉に詰まらせたが、少し低い声で返す玲哉。
「そう言うことじゃなくて、玲哉さんがちゃんと今はなんも考えずに休めるようにその間、自分がそばにいたいんです」
「……」
(分かってる、こいつが何言ってるか)
そう言われて玲哉は何も言えずに固まってしまった
「だから、泊まります」
姫宮はそっと手を離して、あっさり言い切る
「いや、勝手に決めんなって」
ハッと我に返った玲哉はすぐに言い返す
「ダメですか?」
ふぅ…と息をつき、少しだけ首を傾げる
「……」
なんも言わずに視線を逸らしてしまう
「いいから玲哉さんは、そこ座っててください」
姫宮はそう言ってソファの方へ顎で指した
「……別に、そこまでせんでも」
首を横に振ったあと、玲哉はそう言った瞬間…
「ったく、今回くらい…俺の言うこと聞いて?玲哉さん」
姫宮はそのまま玲哉の腕を掴んで、ソファまで引っ張る。〝ほら、座ってください〟と、ぐっと押して座らせた
「おい、ちょっ…」
(強引すぎるやろ)
姫宮に押されてバランス崩しながらソファに腰を落とす
「ちゃんと休んでほしいんです」
姫宮はその前にしゃがみ込んで、顔を近づけた後、真剣な目で言う
「……なんでそこまで優しくすんの…?姫ちゃん」
真剣な目で見つめられてドキッとしたが、言葉を探しながら理由を聞く
「好きな人が無理してるの、見たくないんで」
立ち上がりながらそう言ったあと、散らかっているリビングを片付けを始める
(…ペース完全に持ってかれてるやん、ほんまに勝手や…でも)
「…嫌じゃない自分がおるのが、一番厄介やな」
追い出す事すら出来なくなった玲哉はソファに座り直して、後頭部を掻きながら姫宮に気づかれないように呟いた
リビングの散らかりは、姫宮の手にかかると驚くほど早く片付いていった。
「……ほんまに手際ええな」
玲哉はソファに座ったまま、呆れ半分、感心半分でその背中を見ていた
「えぇ?慣れてるだけですよ」
軽く笑いながら姫宮はゴミをまとめ、テーブルを拭き、床の物を片付けていく。
「慣れてる、ね…」
玲哉は視線を逸らして、小さく息を吐いた。しばらくして…
「よし……こんな感じでいいかな」
奇麗になったリビングを見回した後、頷いた
「なんか…ごめんな、姫ちゃんも疲れてんのに…」
「いいですよ、俺はやりたいからやってるだけですから」
ニコッと笑ったあと、キッチンの方へ向かう。冷蔵庫を開けて、中をみて〝…最低限はあるな〟と呟いた
「ねぇ、そこまでせんでも…ええって」
申し訳なさそうに姫宮を見ながらそう言った
「言ったでしょ?俺はやりたいからやってるだけって。それに…一緒に食べたいです、玲哉さんと」
姫宮は食材を取り出して、料理を始める
「…そう言われると、なんも言えんわ…あほ」
嬉しそうな表情で目を逸らしながらそう言った
「だからちょっと待ってくださいね」
姫宮はそう言った瞬間、その時、ピンポーンとチャイムが鳴った
「…?ちょっと出てくるわ」
玲哉はゆっくりと顔を上げ、立ち上がって玄関へ向かう
「はーい」
と、玄関のドアを開けながらそう言った
「……玲哉」
そこに立っていたのは柊翔だった。心配そうな表情で玲哉を見つめる
「柊翔…なんで?」
玲哉は一瞬、驚いたあとドアを少し開けたまま体を寄せながら落ち着いて言う
「最近、連絡も返ってこなかったから……ちょっと気になって」
「まぁ……合同とか練習詰めでな。スマホ見る余裕なかっただけや」
玲哉は軽く肩をすくめながら苦笑いして頭を掻く
「……そっか。また無理してるんじゃないかって思ってさ」
柊翔は少しだけ安心したように言いながら一歩だけ玄関に近づく
「無理はしてへん。まぁ、ちょい疲れてるくらいや」
近づいてきた柊翔に玲哉は目を逸らしながらそう言った
「ほんとに大丈夫?無理してない?」
目を逸らした玲哉を見て柊翔は少し眉を下げて言う
「してへんって。ほんまに平気や」
玲哉は軽く笑って腕を組んで言い返す
「……そっか」
柊翔はそう言ったあと、少しだけ間を空けたあと玲哉の頭に手を伸ばして、くしゃ、と優しく髪を撫でた
「……っ」
(なんで……こんな時に、優しくすんのや……柊翔……)
玲哉は体を固まってしまう。撫でられたまま動けずに拳を軽く握る
「無理しないでね?玲哉。僕、相談乗るし」
柊翔はそう言いながら手をゆっくり離してニコッと笑った瞬間…姫宮が玲哉のところに来て
「そんなに心配しなくても…大丈夫ですよ?瀬良さん?」
玲哉が反応する前に姫宮は後ろから玲哉の視界をふっと塞いで、低音で柊翔を見つめながらそう言った
「……っ!?」
玲哉は肩をびくっと小さく震わせたあと、息を呑む
「……え?」
柊翔は戸惑いながら玲哉と姫宮を交互に見る
「どうも、瀬良さん。お久しぶりです、来てたんですね」
姫宮は玲哉の目を隠したまま、少しだけ自分の方に寄せながらニコッと笑った
「あ…うん、最近、LINEしても来なかったから気になって来た…んだけど」
柊翔はそう言いながら、玲哉の方を見る。玲哉は何も言えないまま固まっている。視界を塞がれているせいもあって、余計に状況を処理しきれていない。
「そうですか…。まぁこの人確かに〝なんか〟あると連絡返さないし、何言っても大丈夫しか言わないですもんね」
クスッと笑いながら姫宮は軽く肩をすくめるようにして、視線だけを柊翔に向けたまま続ける。
「そうだね…。だから玲哉の様子を見にkっ…」
柊翔は苦笑いを浮かべながらそう言った瞬間
「今は、大丈夫ですよ?ちゃんと休ませてるところなんで」
その視線を遮るように、姫宮が言葉を重ねる。
「……そっか」
柊翔は少しだけ考えるように目を伏せる。
「だから、あんまり刺激しない方がいいかなと思いますけど…?」
姫宮は何でもないことみたいに続ける。
「……刺激?」
柊翔がわずかに眉を寄せる。
「はい、あなたなら…言わなくても分かりますよね?瀬良さん」
ニコッと笑いながらそう言った。姫宮の目は笑ってなかった
「……っ」
(な、なんの話…してんのや…この二人)
玲哉は目を隠されたまま、肩だけ小さく揺らす。
(……あ、なるほど、そういうことね。…良かった、ちゃんと見てくれる人が、いるんだ)
「姫宮くん、玲哉のこと……好きでしょ」
柊翔は一瞬だけ言葉を選ぶように間を置いてから、静かに言った。
「……どうでしょうね、あなたには関係のない事です」
クスッと笑った後、姫宮は目を細めてそう言った
「そうだね、僕には関係ないね。だけど、少し安心したよ、玲哉」
柊翔は、そのまま何も言わずに数秒くらい二人を見つめたあとに、口を開く
「…そんなんじゃ…ない…っ」
(いやこれ、ほんまに何なん……)
姫宮の手を外そうとするが、できなかった
「じゃあ、〝もう〟大丈夫そうだね。」
小さく息を吐いてから、柊翔はふっと笑った。
「…はい、もう心配しなくても俺がいるんで」
柊翔にそう言われて姫宮は目を細めてさらっと言う。
…そっか。なら、姫宮くん、玲哉の事を頼んだよ?ただし、玲哉は俺の大切な仲間だから、泣かせたら許さないからな?」
柊翔は少しだけ間を置いて、まっすぐ言う
「……別に、頼まれなくてもそうしますよ」
ふっと笑い、軽く肩をすくめながらそう言った
「そうみたいだね。じゃあ今日は帰るね」
〝また、連絡するね?玲哉〟と言って軽く手を上げながら、そのまま振り返らずにこの場から去った。足音が遠ざかって、姫宮は玄関のドアを閉めた後、手をゆっくりと放した。
「……さっきの、どういうつもりなん?!」
玲哉は玄関の方を一度振り返ってから、姫宮に視線を戻して声を荒げた
「どういうつもりって…また瀬良さんに、流されそうになってたじゃないですか」
〝だってあなた〟そこで一拍置いて、玲哉をまっすぐ見たまま続けた
「……流されるって何やねん」
そう言われて玲哉は表情を固まって声を震わせた。
「前、自分で言ったじゃないですか、『区切りつけた方がいい』って…それは?口任せですか?」
震わせていた玲哉を見て、姫宮はため息した
「……それは…っ」
「違うって言うんですか?瀬良さんには曖昧で、優しくされると揺れる。ずっとそれの繰り返しじゃないですか、あなたは」
話を遮って淡々と姫宮は言った
「…何でも分かったように言うなや」
玲哉は舌打ちして視線を逸らす。
「分かってるから言ってるんです」
「あ……っ…」
玲哉が言い返そうとした瞬間、姫宮はまっすぐ見て続けた。
「俺は貴方が好きだから言ってるんですよ?じゃなかったらここまでしてない」
悲しそうな声でそう言いながらニコッと笑った。その笑いはどこか歪んでいた
「……っ」
姫宮の顔をみた玲哉はなんも言えなくなってただただ見つめるしか出来なかった。
「ちゃんと見てるつもりですし、そばにもいる。言わなくても分かることも、ちゃんと言葉にしてるつもりですけどね…」
あははっと乾いた笑いをして、玲哉の顔を見つめ続けた
「……」
何か言おうとしても喉の奥で全部止まって出てこない。
「……それでも瀬良さんには、敵わないんですか?俺は…」
「あ…ひめ…ちゃ…」
玲哉が気まずそうに喋ろうとした姫宮はその様子をじっと見ていた。そして
「……そっか。それが答えですね?薄塚さん」
小さく息を吐いて、クスッと笑って姫宮は視線を落としたままそう言った
「……っ」
なんも言えなくなっている玲哉は目を逸らしてしまう
「……分かりました」
それだけ言って、姫宮は何事もなかったようにキッチンへ戻る。ガスの火をつけ直して、さっき中断した手順を淡々と再開する。
「…ぁっ…はぁ…」
玲哉は口を開きかけて、やめてしまった。…しばらくして。
「……できました」
姫宮は小さくそう言って、できた料理をテーブルに並べる
「……ありがと」
気まずそうに姫宮を見てそう言った。だが、姫宮は少しだけ笑って、でも目は合わせなかった。
「じゃあ、これここに置くんで、お腹すいたら食べてくださいね?」
エプロンを外して軽く畳んでテーブルに置いたあと、玲哉の方を見ないまま、玄関の方へ歩き出す。
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