「…ほら、これ」
病院の外のベンチに柚雪を座らせてハンカチを渡す
「……グスッ」
柚雪は愛美からハンカチを差し出されたが、それを受け取らなかった。柚雪は自分の感情を抑えきれずに泣き続けていた。
「…はぁ。泣いてばっかりじゃ、わかんないよ?柚雪」
愛美はそう言いながら柚雪の隣に座る
「でも、俺には…どうしたら……いいかわからないんだよ…」
柚雪は、涙を流しながら、愛美に話しかけた
「……稲坂さんのこと?」
「…俺、稲坂さんに別れを…告げて…俺のせいで、稲坂さんが…っ」
柚雪は肘を膝について顔に手を当てながらそう言った
「…なるほどな。だからあの時の稲坂さんおかしかったのか…。それで、稲坂さんの状態はどうなってるの?」
愛美はため息をしてそう言った
「……記憶喪失に、なった」
そう言われた柚雪は震える声でそう言った
「……え、記憶喪失…?!」
柚雪の言ったことに愛美は驚きを隠せなかった
「…飛び降りた影響で、一時的な記憶喪失…らしい」
柚雪はそう言いながら自分の震える手を握った
「…だから、お前泣いてたのか…。」
柚雪のこと見ながら愛美はそう言いながら頭を撫でた
「……俺のせいで…稲坂さんが…」
「お前はどうしたい?」
柚雪の頭を撫でながら愛美はそう言った
「稲坂さんを助けたい…でも、どうすればいいのか分からない…」
そう言いながら柚雪は愛美を見つめる
「大丈夫、俺と一緒に考えよう。稲坂さんの記憶が思い出せるように方法を見つけよ?」
と、愛美は優しく柚雪に微笑んだ。
「…でも、稲坂さん、俺の事…忘れてるっぽいなんだよ……」
柚雪はまた泣きそうな声でそう言う
「忘れてる?そんなことないよ。柚雪と過ごした時間は、稲坂さんにとってかけがえのないものだから、きっかけで思い出すよ…」
そう言って愛美は、柚雪の肩をポンっと叩いてニコッと笑った
「……」
だが、柚雪は自信がなくした様子で黙ってしまった
「…柚雪?大丈夫?」
「…俺、自信ないんだよ、あいみん」
柚雪は自信なさげに小声でそう言った
「大丈夫だから。もしかして、稲坂さんへの気持ちはそんな程度だったの?」
愛美は柚雪に意地悪な言い方をしてしまう
「…元々、人を愛せる自信ない…。」
「…そう。ならそのままでいいじゃない?お前がいいなら…ね?」
そういった後立ち上がって、愛美は柚雪から去ってしまう
「……」
柚雪は、悲しげな表情で愛美が去るのを見送った。
ーーー稲坂の病室にてーーー
「稲坂さーん。」
愛美は病室のドア開けながら稲坂の名前を呼ぶ
「……響…か?すまない…こんなことになってしまって…」
稲坂さんは弱々しい声で言った。
「ううん。あの時、俺が引き止めていれば…話を聞けば良かったって後悔してる」
稲坂謝られた愛美はそう言いながら椅子に座った
「…いや…いいよ。別に」
そう言われて稲坂はそう言いながら愛美の頭を撫でた
「…ん?これは?」
愛美はテーブルに置いてあったネックレスを見る
「…あ、分からない…。さっき来てた人が置いて行ったな…」
「....これ、柚雪からもらったネックレスじゃない?」
愛美はネックレスを手に取りながら、そう呟いた
「……ゆずき?誰だい…?」
稲坂は首をかしげながら尋ねた。
「…俺の…仲間?…あとは…稲坂さんの」
愛美は少し驚いたような表情を浮かべながらそう言った
「…俺の…?」
「…柚雪のこと覚えてないの?稲坂さん」
「すまない、響。柚雪という人のことは、まったく覚えていない…」
稲坂は柚雪という名前を聞いても、全く思い出せなかった。稲坂は頭を掻きながら、過去の記憶を辿っていった、が思い出せなかった
「……困ったな…」
「…ごめん…響」
稲坂はそう言いながら頭を下げた
「……このネックレスを見ても、何も思い出せないの?」
愛美は稲坂に問いかけた。だが、稲坂は首を横に振り、何も答えなかった。
「……はぁぁ…。」
愛美は深いため息をつきながら、ネックレスを手に取った。
「このネックレスはね、稲坂さんの誕生日の日にあいつが稲坂さんに渡してたものだよ」
と愛美は優しく語りかけた。
稲坂は目を閉じ、思い出そうと必死になった。しかし、何も思い出せなかった。
「ごめん、響。本当に、ごめんなさい」
と稲坂は再び愛美に頭を下げた。
「それでも思い出せない…か、きっとまた思い出すことができるよ」
と愛美はそう言って優しく微笑んだ。
「……ごめん…」
「ううん、大丈夫。少しづつ思い出せるように俺らも頑張るよ。」
「じゃ、俺は帰るよ!明日も来るからね!稲坂さん」
そう言いながら愛美は立ち上がってネックレスを稲坂の手を置いてドアのところに行きながら手をひらひらと振る
「あ…ありがと、響」
「……柚雪のやつ、これからどうするんだろ」
そう呟きながら愛美は病院から出た
「……はぁ」
ため息つきながら髪をかきあげる
「……」
「…ん?柚雪」
愛美は街を歩いていると、柚雪の後ろ姿が見えた。
「…これでいいのかな…俺の事忘れたままで」
それを知らず柚雪は、歩きながらブツブツと小声で呟いた
「…ほっとくか…。」
ーーー翌日(稲坂の病室)にてーーー
「…思い出せないな…ゆずきって誰だったけかな……」
稲坂は昨日からがんばって記憶を思い出そうとするが
「ネックレス…」
稲坂は手に持ってたネックレスを見つめた。その瞬間、彼の脳裏に何かが走った。
「……?」
彼の頭の中には柚雪の顔がぼやけながら浮かび上がってきた。
「……ゆずき…てるはる……」
稲坂はゆっくりと稲坂は柚雪の名前を呟きながら、柚雪のこと思い出そうとした
「………あ」
柚雪の顔がぼやけることはなくなり、明確に浮かび上がってきた。
「そうだ、輝春…」
すると病室のドアを開ける音をする
「稲坂さ〜ん!来たよ〜」
「……」
そう言いながら愛美は柚雪と入ってきた
「あ、大丈夫だよ。いらっしゃい。響」
稲坂は2人の顔みてニコッと笑う
「ほら、柚雪!隠れないで」
言うと、愛美の後ろに隠れていた柚雪を自分の前に引っ張ってきた
「ちょっ…あいみん…やめてよ。俺は行かない……って言ったじゃん…」
と柚雪は嫌がったが愛美に無理やりに連れ出された
「……」
2人のやり取りを見守る稲坂
「……お前、バカ?お見舞いだから!抵抗しても無駄♡♡」
愛美は柚雪にニコッと笑う
「……さすが、ばか力だな…」
柚雪は苦笑しながらそう言って呆れた表情を浮かべた。
「とりあえず二人とも椅子に座ったら?」
稲坂は2人を椅子に座るように言うと
「あ、ごめんねぇ、こいつ駄々こねてて…」
柚雪の首根っこ掴んで稲坂のところまで連れて椅子に座らせる
「……っ」
柚雪は気まずそうに沈黙する。
「稲坂さん、記憶の方は思い出せた?」
愛美は稲坂にそう言った
「うーん…ネックレスみても…思い出せなかった…えっと、柚雪くん…だっけ、ごめんね」
何故か稲坂は思い出したことを隠してそう言った
「あ、いえ…それはもう…大丈夫…です」
思い出せてないって言われて柚雪は無理やりに笑ってそう言った
「……あ、俺、飲み物買ってくるね!ちょっと待っててね?柚雪」
愛美は二人っきりになるために病室から出る
「あっ……」
柚雪は愛美が病室から出ていくのを見て、ますます気まずい気持ちになった。