ーーー数日後練習所にて(side柚雪)ーーー
「はぁ…気が重たい…」
そう言いながら柚雪はレッスン室のドアノブに手をかけた瞬間、レッスン室の中から話し声が聞こえた
「…ねぇ、聞いた?稲坂さんが…このビルの屋上から…飛び降りた…言う話」
愛美は重たい話をし始めた
「……え?」
玲哉は驚きを隠せなかった
「え?!…なんで?!」
椅子に座ってた柊翔も驚いた様子で立ち上がった。
「いや、詳しくねぇけど…見たんだよ、稲坂さんが屋上に行くところを…それで、声掛けたけど…大丈夫しか言わなかったから…それに稲坂さんだから…」
「…大丈夫やったら放っといたん?なんで止めんかったんや…!」
響葉は愛美に詰め寄るように言った
「…燐道、やめな。ほんとに稲坂さんなら大丈夫って思ったんだろ、な?愛美」
「…う、うん…稲坂さんは飛び降りるとかそういうことする人じゃないって思ってた…ごめん」
柚雪はレッスン室の外でその話を聞いてた
「…稲坂さんが…飛び降り…た?え、な、なんで…え…?」
驚きと混乱にあふれた感情になって柚雪は唖然してた
「…と、とりあえず…この話、柚雪には…内緒で…。いいね?みんな」
柚雪はハっと我に戻ってその同時にレッスン室のドアが開ける
「……どうしたの?みんなして暗い顔になってさ」
柚雪はなんもなかったようにみんなと接する
「………」
愛美は柚雪の顔を見てなんかを察した
「…あ、柚雪…おはよ。ううん。なんも無いよ?ね?みんな」
柊翔はそう言いながら焦っていた
「…いや、うん。柚雪が来る前にちょっとな?練習してたんや」
他のメンバーたちもそれぞれ口々に言った。
「……そう」
「さあ!練習を始めよう。」
そして、柚雪は練習を始めた。柚雪達は、それぞれの役割を果たし、連携を取りながら、最高のパフォーマンスを目指して練習に取り組んでいった
「はぁはぁ……ふぅ…」
時間が経ち、柚雪たちは、稲坂のこと気にしながらも最後まで頑張った
「みんな、今日もおつかれさま!」
柊翔はみんなに声掛けた
「……」
でも柚雪は稲坂の事で頭がいっぱいだった
「柚雪?大丈夫?」
後ろから柚雪の肩を叩いて愛美はそう言った
「……あいみん」
振り向いて柚雪は愛美を見た
「…なぁ、さっきの話、聞いてた?」
真っ直ぐな目で愛美は柚雪を見つめ返した
「………」
そう言われて素直に柚雪は小さく頷く
「…やっぱりか…柚雪、稲坂さんとなんかあったの?」
「…別になんもないよ…なんも」
ニコッと笑いながら柚雪は答えた。しかし、その表情は少し動揺していた
「……ふーん?」
「…じゃあ、練習終わったから俺は帰るよ。あいみんも仲良くしなよ?俊と」
そう言いながら柚雪は愛美の肩に手をポンっと叩いて帰った
「……はぁ」
柚雪にさっきの話が聞かれてた愛美はため息ついた
「あいみん…、柚雪のやつに聞かれたん?稲坂さんの」
玲哉は愛美に近づいてそう言った
「あー…聞かれちゃってたみたいだよ?」
「え…そうなん…なんで飛び降りなんかしたんかな」
玲哉はそう言いながら首を傾げる
「……どうせ、柚雪カンケーなんだろ」
そう言って愛美は前髪をかきあげた
「……まさか…」
「……それに、今日ここに来て薄塚の顔見て、分かった」
そう言いながら愛美は玲哉の顔を指す
「……」
「ハロウィンパーティーの日、稲坂さん来たでしょ、薄塚」
「……」
玲哉は、愛美を見つめつづけながら黙り込んでしまった。
「んで?稲坂さんは心配で泊まったんだろ?また」
黙り込んでた玲哉に愛美は話を続けた
「…でも、俺は帰ってって…柚雪のとこに行ってって何回も……」
愛美が言ってること当たってた玲哉は、少しだけ驚いた。
「それでも帰らなかった、と?」
「そや…っ!…俺は何回も言うたけど…稲坂さん聞かんかった」
「……」
愛美と玲哉はそんな会話をしていた。そして、愛美たちが話し終えると、皆はレッスン室を出た。
ーーー病院にてーーー
「ここが…稲坂さんがいる病院…」
柚雪は呟きながら、病院の前で足を止めた
「…行くか…あの…稲坂賢久の病室はどこですか?」
中に入って病院の受付で、柚雪は看護師に稲坂がいる病室の番号を聞くと、看護師は親切に答えてくれた。
「稲坂賢久さんですね……ちょっと待ってくださいね……。病室の番号は、501号室ですよ。お見舞いの方ですか?」
と看護師は優しく尋ねた
「…え、は、はい。お見舞いです…」
「わかりました。ではあちらのエレベーターに乗って5階にお上がりいただき、稲坂さんの病室がございます」
と看護師が案内した。
「ありがとうございます」
と柚雪は、看護師に礼を言って、5階に向かった。
「…えっと……稲坂さんの病室は…っと…。あ、ここか…」
柚雪は稲坂の病室を見つけて病室の前に立って、扉を開けようとしたが、
「…でも…俺が来てよかった…?俺が振ったのに…」
手が震えて開けることができなかった
「……でも、せっかくここまで…来たんだから…」
勇気を出して病室のドアを開けた
「……」
稲坂はベッドに横たわって眠っていた
「……っ」
柚雪は点滴やら様々な機械に繋がれている稲坂の姿を見て、不安が込み上がる
「……なんで、こんなことに…」
近くにあった椅子に座ってそう言いながら稲坂を見つめる
「……」
だが、昏睡状態の稲坂に言っても無反応だった
「俺が…別れを切り出した…から?」
「……」
「ねぇ…起きてよ…稲坂さん…」
そう言いながら柚雪は稲坂の手を握って涙を流す
「……」
柚雪が起きるように稲坂の手を強くぎゅっと握った。稲坂は起きないまま
「……稲坂さん…ごめん…なさい……」
柚雪は稲坂に別れを切り出したのを後悔した
「……」
「…おれ、まだ…稲坂さんが好きなんだよ…。だから…起きてよ…」
小声で言いながら柚雪は稲坂の手を自分の頬を当てる
「……」
稲坂の手がピクッと動いた。
「……い、稲坂さん…?」
柚雪は稲坂の手が動いたことに気づいて稲坂に声掛けた
「……ん」
稲坂は昏睡状態から目を覚めた
「……稲坂さん…っ」
柚雪は驚き、同時に安堵の表情を浮かべた。
「……」
稲坂は柚雪をじーっと見つめる
「だ、大丈夫…?」
「…俺、生きてるのか…」
稲坂は感慨深げにつぶやいた。
「…良かった…ほんとに…」
柚雪は昏睡状態から目を覚めた稲坂に目をこすりながらそう言った
「…えっと、君、誰?」
稲坂は柚雪に言ったあと首を傾げた
「……っ?!」
柚雪はその言葉に耳を疑ったように驚き、驚きの表情を浮かべた。
「……大丈夫かい?君」
そう言いながら稲坂は柚雪の顔を触る
「……と、とりあえず…医者呼びますね…」
すぐに医者を呼ぶことにした。しばらくして、医者がやってきて稲坂を診察した。
「はい、自分の名前言えますか?」
「…はい。稲坂賢久です。」
稲坂は頭を抱えながら考え込んで稲坂は自分の名前を思い出すことができた
「稲坂さん、その前の記憶は思い出せますか?」
と医者は尋ねた。
「前の記憶は、何も思い出せません…」
稲坂は、しばらく考え込んだ後に、答えた
「……はぁ」
医者は、稲坂の答えを聞いて、深くため息をついた。そして、書類に何かを書き込んだ
「…先生、稲坂さんは…」
柚雪は医者に真面目な目でそう言った
「稲坂さんは…一時的な記憶喪失…だと思います」
医者は、深刻そうな表情で柚雪を見つめる
「えっ…一時的な記憶喪失とは、どういうことですか?」
柚雪は震える声で医者に言うと
「稲坂さんは、ビルから飛び降りた影響で、一時的に記憶を失ったのだと思います。しかし、時間が経てば、記憶が戻ることを期待しています。」
「……」
柚雪はなんも言えなくなって黙り込んだ
「…もしも記憶が戻らない場合は、専門的な治療が必要になるかもしれません。」
医者は追い討ちかけるように柚雪に言った
「そんなことになったら、どうしよう…」
そう言われた柚雪は、心配そうに眉をひそめながらと呟いた
「あ、そういえばここ(病院)に来た時に…稲坂さんが持ってたものです…。あなたに渡しますね」
と医者からとある物を渡してきた
「……ありがとう、ございます」
「では…」
医者は病室から出ると
「…これ…俺が渡したネックレス…なんで…」
ベッドに横たわってる稲坂を見る
「……いつもつけてないのに…。とりあえず稲坂さんに……」
と言って稲坂のところに近づいた
「…あれ、帰ってなかったの?」
無表情でそう言って稲坂は柚雪を見る
「…ごめんなさい。僕もう帰りますね、あ、これここに置きますね。」
柚雪は泣くのを我慢してテーブルにネックレスを置き、ペコッとお辞儀してその場を去った。
「……っ」
病室を出てドアにもたれかかって泣きそうになってた
「俺の…俺のせいだ…俺が嫌いって言ったから…稲坂さんが…」
「…大丈夫?柚雪」 
出た瞬間、そこには愛美の姿があった
「…あ、あいみん…」
柚雪は愛美を見上げて泣いてるのを見られた
「…泣いてんな、柚雪…。ほら、ここやと迷惑だから出るよ」
と言いながら泣いてる柚雪の手を引っ張ってどっかに連れてかれる