交際している恋人の承諾を得て性行為の様子を撮影するぶんには、そもそも「盗撮」にはあたりません。したがって、撮影自体が犯罪となることは通常ありません(ただし、前述のとおり、相手が18歳未満であれば児童ポルノ禁止法違反となります)。
一方で、恋人の了承を得ずに性行為などを撮影した場合、たとえ恋人同士であっても犯罪に問われる可能性があります。
ここでは、恋人を盗撮した場合に成立しうる主な罪について解説します。
- ① 撮影罪
- ② 迷惑防止条例違反
- ③ 軽犯罪法
- ④ 住居侵入罪・建造物侵入罪
恋人との関係であっても、これらの行為は「合意のない撮影」として処罰の対象になります。
以下で、それぞれの罪について詳しく見ていきましょう。
①撮影罪
2023年7月13日に施行された性的姿態撮影等処罰法によって、他人の性的姿態等をひそかに撮影した場合には、「撮影罪」として処罰の対象となりました。
この性的姿態等とは、性的な部位や身に着けている下着、わいせつな行為または性交等がされている間における人の姿のことを指します。
したがって、恋人との性的な行為を盗撮すると撮影罪に問われる可能性があります。撮影罪の刑罰は3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金となります。
撮影罪とは?該当する行為や条例違反との違いをわかりやすく解説
②迷惑防止条例違反
撮影罪が施行された2023年7月13日より前の盗撮事件には、迷惑防止条例が適用されます。
迷惑防止条例は、47都道府県や一部の市町村で制定されており、この条例の中に盗撮に関する規定があります。
各都道府県によって条例に書かれている文言は多少異なりますが、書かれている内容は共通する点も多いため、東京都迷惑防止条例の盗撮に関する規定を例として解説します。
まず、条例違反に該当する行為は、撮影するだけではなく、撮影機器を相手に向けたり、設置することも含まれます。つまり、撮影自体は未遂に終わっても同法違反となります。
そのため、恋人との性行為等を撮影することはもちろん、行為中にこっそり撮影しようとスマホのカメラをベッドに向けたり、部屋に隠しカメラを設置しただけでもこの法律に抵触します。
次に、条例違反に該当する場所は、「住居」や「人が通常衣服の全部または一部を着けない状態でいるような場所」となります。具体的には、自宅、ラブホテル、ビジネスホテルなどで上記行為を行うと、条例違反に問われる可能性があります。
東京都迷惑防止条例に違反すると1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金に処せられます。
③軽犯罪法
第一条 左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
二十三 正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者
軽犯罪法
前述の通り、自宅やホテルは「人が通常衣服をつけないでいるような場所」に該当します。そして、"ひそかにのぞき見た"とは、スマホや隠しカメラなどで盗撮することも含まれると解釈されているため、自宅やホテルでの恋人との性行為の隠し撮りは「窃視の罪」に当たる可能性があります。窃視罪の刑罰は「拘留」として1日以上30日未満の身柄拘束、または1000円以上1万円未満の「科料」に処せられます。
とはいえ、軽犯罪法で通常逮捕するためには、被疑者が「定まった住居がないか、任意出頭に応じない」場合に限られますので、身柄拘束される可能性は低いでしょう。
④住居侵入罪・建造物侵入罪
第百三十条 正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の拘禁刑又は十万円以下の罰金に処する。
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盗撮目的で彼女の自宅やホテルに立ち入った場合には、「正当な理由」がないことは明白なため、住居侵入罪(自宅への侵入)または建造物侵入罪(ホテルへの侵入)が成立し、警察に逮捕される可能性もあります。
ただし、ホテルについては被害者はホテル所有者であり、カップル間のトラブルでわざわざ被害届を出すことは通常ありませんので、事件化することはほぼないでしょう。しかし、彼女の自宅については居住している彼女が被害者であることから、彼女が被害申告をすれば警察が事件として立件する可能性があります。
住居侵入罪の刑罰は「3年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金」に処せられます。
①リベンジポルノ防止法違反 リベンジポルノ防止法とは、嫌がらせや復讐目的で元交際相手や思いを寄せた人などの性的な写真や動画をインターネットに公開する行為などを罰する法律です。 リベンジポルノ防止法上の「私事性的画像記録」に該当するのは以下のような行為ですので(同法第2条参照)、ハメ撮り動画・画像はこれに該当する可能性が高いでしょう。 性交または性交類似行為の様子をとらえた姿態 他人が人の性器などに触る行為や人が他人の性器等を触る行為をとらえた姿態 衣服の全部/一部を身につけない人の姿態 ハメ撮り動画・画像を提供等する行為は以下のように犯罪として刑罰が科されています(同法第3条各号参照)。 第三者が撮影対象者を特定できる方法で、インターネットを通じて不特定・多数のものに提供した場合:「3年以下の拘禁刑」または「50万円以下の罰金」が科されます。 第三者が撮影対象者を特定できる方法で不特定・多数の者に提供したり、公然と陳列した場合:「3年以下の拘禁刑」または「50万円以下の罰金」が科されます。 したがって、相手の顔が分かるように性行為・性交類似行為の様子を収めた動画像をインターネット上にアップロードするような行為が犯罪として禁じられていることになります。 リベンジポルノ防止法とはどんな法律?構成要件と成立犯罪を解説 ②名誉棄損罪 「公然と事実を適示」して、人の名誉を毀損した場合には、その事実の有無にかかわらず名誉棄損罪が成立することになります。名誉棄損罪の法定刑は3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です(刑法第230条1項参照)。 名誉棄損とは相手方の社会的評価を低下させる行為のことをいい、相手方を特定できる方法で性行為の様子を収めた動画・画像を不特定多数者に対して公表した場合には名誉棄損罪が成立する可能性があります。 名誉毀損罪はどこから成立する?構成要件を解説 ③わいせつ物頒布罪 わいせつな動画像をアダルトサイトに投稿したり、DVDやビデオとして販売・頒布した場合、または公然と陳列した場合にはわいせつ物頒布罪が成立します(刑法第175条1項参照)。 わいせつ物頒布罪の場合にはリベンジポルノ防止法とは異なり、相手方の同意があったとしても成立します。 わいせつ物頒布罪が成立した場合には、2年以下の拘禁刑もしくは250万円以下の罰金・科料が科され、または両方が併科されることになります。 また有償で頒布する目的でわいせつ物を所持し、データを保管した場合にも同様の法定刑が科されます(同条2項参照)。 なにをもって「わいせつ物」となるのか、どのような行為が「頒布」や「陳列」にあたるのか、詳しく知りたい方は、わいせつ物頒布等罪とは?どこから成立?逮捕された場合の対処法も合わせて読んでください。
①リベンジポルノ防止法違反 リベンジポルノ防止法とは、嫌がらせや復讐目的で元交際相手や思いを寄せた人などの性的な写真や動画をインターネットに公開する行為などを罰する法律です。 リベンジポルノ防止法上の「私事性的画像記録」に該当するのは以下のような行為ですので(同法第2条参照)、ハメ撮り動画・画像はこれに該当する可能性が高いでしょう。 性交または性交類似行為の様子をとらえた姿態 他人が人の性器などに触る行為や人が他人の性器等を触る行為をとらえた姿態 衣服の全部/一部を身につけない人の姿態 ハメ撮り動画・画像を提供等する行為は以下のように犯罪として刑罰が科されています(同法第3条各号参照)。 第三者が撮影対象者を特定できる方法で、インターネットを通じて不特定・多数のものに提供した場合:「3年以下の拘禁刑」または「50万円以下の罰金」が科されます。 第三者が撮影対象者を特定できる方法で不特定・多数の者に提供したり、公然と陳列した場合:「3年以下の拘禁刑」または「50万円以下の罰金」が科されます。 したがって、相手の顔が分かるように性行為・性交類似行為の様子を収めた動画像をインターネット上にアップロードするような行為が犯罪として禁じられていることになります。 リベンジポルノ防止法とはどんな法律?構成要件と成立犯罪を解説 ②名誉棄損罪 「公然と事実を適示」して、人の名誉を毀損した場合には、その事実の有無にかかわらず名誉棄損罪が成立することになります。名誉棄損罪の法定刑は3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です(刑法第230条1項参照)。 名誉棄損とは相手方の社会的評価を低下させる行為のことをいい、相手方を特定できる方法で性行為の様子を収めた動画・画像を不特定多数者に対して公表した場合には名誉棄損罪が成立する可能性があります。 名誉毀損罪はどこから成立する?構成要件を解説 ③わいせつ物頒布罪 わいせつな動画像をアダルトサイトに投稿したり、DVDやビデオとして販売・頒布した場合、または公然と陳列した場合にはわいせつ物頒布罪が成立します(刑法第175条1項参照)。 わいせつ物頒布罪の場合にはリベンジポルノ防止法とは異なり、相手方の同意があったとしても成立します。 わいせつ物頒布罪が成立した場合には、2年以下の拘禁刑もしくは250万円以下の罰金・科料が科され、または両方が併科されることになります。 また有償で頒布する目的でわいせつ物を所持し、データを保管した場合にも同様の法定刑が科されます(同条2項参照)。