夜明けに目が覚める。
あまりにきっぱり目覚めてしまったので、観念して起き上がり、
茶の間に行って雨戸をあけた。
と、庭に靄(もや)が立ちこめている。
朝顔と露草の青が、時折見え隠れするだけで、
あとはただ真白いだけの、うやむやな朝である。
そういえば目覚める間際まで夢を見ていたような気がするが、
いったいどんな夢だったのか。
思い出せそうで、思い出せない。
どうやら頭の中にまで、靄が立ちこめているらしい。
頭を前後左右に振り、ついでに手足も動かして、
でたらめなラヂオ体操をしていると、いつのまにか足もとに獏がいた。
驚いて、揚げた足の下ろし場所に迷い、思わずよろけて文句を言う。
獏は少しも動ぜず、大きな欠伸をしながら庭を指さし、
「もや」と言う。
そう。靄だ。見れば分かる。
憤然とするあたしを指さし、獏は更に「ゆめ」と言う。
夢?
そうか。そうだ。そうだった。
これは夢。
朝靄がたちこめる庭を、漠とふたりで見ている夢。
ただ白いだけの、うやむやな夢。
そう思ったとたん、目が覚めた。
ぼんやりとしたまま茶の間に行き、雨戸をあけると、
夜が明けたところだった。
庭のそこかしこから、白いもやもやとしたものがのぼっていく。
薄灰色の空の彼方に、すうと吸いこまれていく。
豚の蚊遣りの中で寝ていた獏が薄目をあけ、大きな欠伸をひとつして、
また静かに目をとじた。
朝顔とつゆ草の青が濡れている。