• 01 Dec
    • ばらの実(テスト投稿)

                  『よく利く薬とえらい薬』 宮沢賢治清夫は汗をポタポタこぼしながら、一生けん命とりました。いつまでたっても籠の底はかくれません。たうとうすっかりつかれてしまって、ぼんやりと立ちながら、一つぶのばらの実を唇くちびるにあてました。 するとどうでせう。唇がピリッとしてからだがブルブルッとふるひ、何かきれいな流れが頭から手から足まで、すっかり洗ってしまったやう、何とも云へずすがすがしい気分になりました。空まではっきり青くなり、草の下の小さな苔こけまではっきり見えるやうに思ひました。 それに今まで聞えなかったかすかな音もみんなはっきりわかり、いろいろの木のいろいろな匂にほひまで、実に一一手にとるやうです。おどろいて手にもったその一つぶのばらの実を見ましたら、それは雨の雫しづくのやうにきれいに光ってすきとほってゐるのでした。 清夫は飛びあがってよろこんで早速それを持って風のやうにおうちへ帰りました。そしてお母さんに上げました。お母さんはこはごはそれを水に入れて飲みましたら今までの病気ももうどこへやら急にからだがピンとなってよろこんで起きあがりました。それからもうすっかりたっしゃになってしまひました。昨今話題の「ローズヒップティー」は、「ノイバラ」の実なのだそう。漢方の「営実」もまた然り。バラの実に薬効があること、賢治はきっと知っていたんだろうなぁ。☆ブログリニューアル中につき、テスト投稿です。あしからず。

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  • 28 Nov
    • しばし。

      長年放置していたアメブロ。思い立って、ただいま改装中。しばしお待ち下さいますよう。

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  • 11 Jan
    • おいで下さった皆さまへ。

      2010年。明けましておめでとうございます。などと書いてみたけれど、もう11日。成人の日。そして鏡開きの日。で。通常モードに戻り、新たな気持ちで書きはじめるにあたり、こうしてネットのあちこちを点検(?)しているわけですが。このブログはもうずいぶん前に引っ越しているのだけれど、カキモノなどが置いてあるため、閉鎖せずにいたのでした。つまり保管庫のような存在。が、しかし。最近よくgoogleアラートが、我がプロフィールを拾ってくる。アクセスしてみれば、様々なサイトにあるブログ・リンク集。どうやらその作家カテゴリーに加えて下さっているようで。ありがたい。ありがたいのだけれども。いかんせん情報が古すぎて。どうやらネタ元はひとつらしく、どのリンク集にも、とうに凍結したブログがリンクされているのでした。ううむ。これではせっかく訪れて下さった方々に申し訳ない。といって、その都度、修正をお願いするのもどうかと思うし。(中にはどうやって連絡をとればいいのか分からないサイトもある)なので、あらためて、ここに新しいリンクを「書き置き」しておこうかと。田川未明OfficialWebsite mi:mediahttps://mimei-info.jimdo.com/メインで使っているブログは、トルニタリナイコト(通称・トルタリ)その他にも、多々ありますので、よろしかったら覗いてみてくださいね。Twitter@TagMimei http://twitter.com/TagMimeiというわけで。今年もどうぞご贔屓に。よろしくお願い致します。写真は正月7日、我が家から見た富士山。この冬は富士山がとてもきれいです。※注この記事の後、2013年に公式サイトを移転しましたので、本文中のリンクなど修正致しました。ブログ「トルニタリナイコト」は今も更新していますので、よろしければいらしてくださいませね。

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  • 24 Oct
    • 「Twitter」やら「アメーバなう」やら

      カキモノ置き場となってから長い月日の経つアメブロですが。他の場所ではあれこれ書き続けております(更新情報はofficialWebsiteにて)が、最近はついったーで呟くことのほうが多いような。ということで、よろしければ。Twitter アカウント @TagMimeihttp://twitter.com/TagMimeiで、そろそろここを削除するか、あるいは一新するかしよう、と考えていたら、12月に「アメーバーなう」とかいうものができるというニュースが。むむむ。今現在、ライブドアブログは更新情報が自動的にTwitterに送られるようになっていて、ライブドアの管理頁にはそのログが表示されている。で、Twitterの呟きはmixiのボイスに自動的に送ることが可能。そんな中「アメーバーなう」は独自の路線をいくんでしょうか。もし「アメーバーなう」の呟きをTwitterに送れる(あるいはその反対)ようになるのなら、ここは又別の活用もできるかも、と思ったり。でもそうなると、最初にどこで呟けばいいのだか、なんだかもう訳がわからなくなるような。ま、とにかく12月まで、しばしこのまま、ということにいたします

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  • 11 Sep
    • 花火

      縁側で、花火を見た。夏を送る花火である。こいびとが来ると、いつもは姿を現わさない獏が、――といって隠れているわけではなく、どこかの物陰(豚の蚊遣りの中とか、文箱の後ろとか、竹ぼうきの透き間とか)でひっそりと眠っているだけなのだが――珍しく、今夜は縁側の端に腰掛けている。こいびとは、その獏の姿を注視するでもなく無視するわけでもなく、ごく自然に並んで腰をおろしている。いったいいつのまに、ふたりは互いを受け入れたのか。訊きたいような気もしたが、それは野暮というものです、と、こいびとに言われそうだったので、やめておいた。こいびととあたしは顎を高くあげて夜空を眺め、獏はうつむいて、睡蓮鉢を見おろしている。どうやら獏は、水面に映る花火を楽しんでいるらしい。夜色の水の中では、赤い金魚がひらりと尾を揺らしながら、さかんに顎(どこが顎なのかさだかではないが)をあげている。金魚が見ているのは、夜空に咲く花火なのか。それとも水面に揺れる花火なのか。水の中から眺める花火は、いったいどんなものだろう。ちょっと見てみたいような気がして、わずかばかり金魚を羨む。いよいよ最後の2尺玉。今か今かと息をとめて待っていると、ふいに火の玉が天に向かって飛び立った。あ、と、こいびととあたしが思わず声をあげるそばで、獏が、えっ、と、声にならぬ声をあげる。え? そう思いつつも火の玉を追う目の端に、ちらりと赤い金魚が見えた。火の玉を追うかのように、まっすぐに天にのぼっていく。高く高くのぼりつめ、どこまでのぼるつもりなのかと案じたとたん、玉は弾けて花になり、夜空いっぱいに広がった。あんぐりと口をあけるこいびととあたしと獏の顔が、夕焼けのような色に染まっている。どーん、と、遅れて音がやってくる。音と共に、大輪の菊の花びらが、しゅわしゅわと夜空に溶けていく。花火の消えた夜空に、ひとつふたつと星が戻り、庭の草むらには虫の声が戻ったが、赤い金魚は戻らなかった。夏の終りの花火は、さみしい。

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  • 10 Sep
    • 連載スタート「おとなのコラム」

      【おとなのコラム】http://www.otona-column.com/ 『恋愛ショートストーリーから社会派コラムまで、【おとな】が書いた【おとな】の読み物を金曜日更新。《ほっと一息》《くつろぎの時間》にご覧ください。』 という上記サイトにて、連載が始まりました。 9月7日から、隔週金曜日の連載。 が、書けるときはその間の週にも書くかも。 内容は、エッセイ。テーマは「ノスタルジア」。 が、そのうち、なんてことのない超掌編も。 と、かなりアバウトですが、 でも中身はけっこう真面目に書いていますので、 時々のぞいてみてくださいね。どうぞよろしく。

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  • 12 Aug
    • 金魚

      獏が、睡蓮鉢をのぞいている。睡蓮鉢といっても、睡蓮は数年前に枯れ絶えてしまったので、ただの水を張った鉢である。いい具合に水藻が繁っているので、そこに先日の金魚を放ったところ、獏は日がな一日、その縁に腰掛けて、水面をのぞいているのだった。どうやら、惚れてしまったらしい。獏の思いを知ってか知らずか、金魚は青い藻のあいだを、すんすんと泳いでいる。時には長く沈み込み、時には水面にぽかりと口を出したりもする。獏は、なにもせず、なにも言わず、ただただその様を見つめている。獏と金魚の恋は、成就しうるのか否か。明日こいびとが来たら、聞いてみようと思う。午後遅く、文机に向かうと、立てかけてあった温度計が、真っ赤な顔をして倒れていた。あまりの暑さに、へたばってしまったようである。気の毒に思って冷凍庫に横たえると、今度はかたかた震え出す。温度計にとっての適温とは、と、しばし思い悩む。日暮れても、空が蒼い。

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  • 29 Jul
    • 長靴

      七月三十日  はれ のち かみなり午後遅く、盛大な夕立がやってくる。 ざあざあと降る雨の音に、昼寝する獏のいびきも聞こえぬほど。 雷神さまに何かあったのだろうか。 何かよほど、気持がくさくさとするようなことがあったのか。 それにしても、このままではいたるところ洪水、ということになりかねない。 にわかに不安になり、うろたえたとたん、雨はやんだ。 蛇口をきゅっと締めたように、ぴたりとやんだのだった。 呆気にとられ、玄関の引き戸をあけて、空を見あげると、 もう気が済んだとばかりに、悠々と引き上げていく黒雲が見えた。 くさくさとした想いは晴れたのだろうか。 雲の透き間から、薄青い空が、困惑気味に広がっていく。 ふと、家の前に並べた植木の影に見慣れぬものを見たような気がして、 思わず目を懲らす。 と、黒いゴム長靴が一足。 しまった、と思う。 今朝の薄日に油断して、日だまりに干しておいたのである。 長靴はこいびとが置いていったものなので、日頃長靴など履かないあたしは、 その存在をつい失念してしまったのだった。 ゴム草履をつっかけて駆け寄ると、長靴の中にはたっぷりと雨水が溜まっていた。 青空を映すその水たまりの中に、金魚が一匹泳いでいる。 赤くすらりとした金魚である。 はて。いつのまに。 雨と共に降ってきたのだろうか。 雷神さまからの贈り物であろうか。 ふくらはぎに跳ね返った雨水が、ぽつんと冷たい。  

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  • 22 Jul
    • 靄(もや)

      夜明けに目が覚める。あまりにきっぱり目覚めてしまったので、観念して起き上がり、茶の間に行って雨戸をあけた。と、庭に靄(もや)が立ちこめている。朝顔と露草の青が、時折見え隠れするだけで、あとはただ真白いだけの、うやむやな朝である。そういえば目覚める間際まで夢を見ていたような気がするが、いったいどんな夢だったのか。思い出せそうで、思い出せない。どうやら頭の中にまで、靄が立ちこめているらしい。頭を前後左右に振り、ついでに手足も動かして、でたらめなラヂオ体操をしていると、いつのまにか足もとに獏がいた。驚いて、揚げた足の下ろし場所に迷い、思わずよろけて文句を言う。獏は少しも動ぜず、大きな欠伸をしながら庭を指さし、「もや」と言う。そう。靄だ。見れば分かる。憤然とするあたしを指さし、獏は更に「ゆめ」と言う。夢?そうか。そうだ。そうだった。これは夢。朝靄がたちこめる庭を、漠とふたりで見ている夢。ただ白いだけの、うやむやな夢。そう思ったとたん、目が覚めた。ぼんやりとしたまま茶の間に行き、雨戸をあけると、夜が明けたところだった。庭のそこかしこから、白いもやもやとしたものがのぼっていく。薄灰色の空の彼方に、すうと吸いこまれていく。豚の蚊遣りの中で寝ていた獏が薄目をあけ、大きな欠伸をひとつして、また静かに目をとじた。朝顔とつゆ草の青が濡れている。 

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  • 19 Jul
    • 相合い傘

      七月十八日 曇り、ときどき、内緒 こいびとと、買い物に行く。 傘は1本しかないので、相合い傘である。 しばらくして、傘が濡れていないことに気づき、 やんだのかと思ってたたんで歩きはじめると、やはり肌に雨の気配がする。 目を懲らしても、しずくのようなものは見えないのだが、 髪やうなじや腕や頬が、しっとりと冷たい。 雨はぴちゃぴちゃともしとしととも言わぬまま、少しずつからだを濡らしていくのである。 降っているのか、やんでいるのか、いったいどっちなんだ、え、はっきりしろぃ、 と、空を見あげながら胸の中で毒づくと、こいびとが再び傘をひらいて、そっと言う。 内緒。 え? 内緒で降っているんですよ、この雨は。 そういえば時折、耳の奥がこそばゆいような感じがある。 どうやら雨は、ひそひそと内緒話をするように、こっそり降っているらしい。 得心して、それ以上雨を責めるのはやめにした。 煙ったような一本道を歩きながら、買うべきものを復唱する。 ひそやかな雨に遠慮して、こそこそと小声で言ってみる。 ほたるいかの一夜干し、ニッキ飴、三色そうめん、四川風麻婆茄子の素、 五色豆、六花亭バターサンド、七色唐辛子。 ニッキ飴は、獏の好物である。 ひとつ復唱するたびに、相合い傘の中にかすかに霧がたちこめる。 こいびとの顔が、もやもやと揺らいで見える。 どこからかフルートの音色のような、か細い祭り囃子が聞こえてくる。 市場はまだ遠い。   

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  • 15 Jul
    • 七月十五日 嵐嵐がくるという。雨戸をたて、家中のそこかしこに蝋燭を置き、念のため風呂桶に水をためる。準備万端整ったところで、茶の間に腰をおろすが、する事がない。暗いし、蒸し暑いし、退屈である。なんだか息苦しくなってきて、たまらずに縁側の硝子戸をあけ、少しだけ雨戸をあけてみた。薄めた水色と鼠色を混ぜ合わせたような雲が、押し合いへし合いしながら、やってくる。突風が吹くたびに、雲は一斉に渦をまき、くるりくるりとまわりはじめる。まるで風ぐるまのようで、見ていると目がまわる。竹に絡んだ朝顔も、さすがに今日はつぼんでいる。天気や気分によって、閉じたり開いたりするらしい。賢いのか、横着なのか、よく分からない花である。そういえば、今朝から獏を見ていない。どこかに隠れているのだろうか。嵐が苦手なのだろうか。なんだか寂しくなってきて、こいびとの声を聞こうと受話器を握る。が、呼び出し音もしないうちに、女の声が聞こえてくる。只今電話がつながりにくくなっています。音声テープかと思って、黙って耳を傾けていると、もしもし?と、女が問いかけてくる。あ、あの。電話は。「只今、つながりにくくなっています」同じことを繰りかえすだけの女に、ほんの少し腹が立ち、つっけんどんに聞きかえす。じゃあ、いつになったら、つながりますか。さぁ。さぁ?やけに遅いのよねぇ、この嵐。急に物憂い声になって、女が答える。さっさと行ってくれないと、こっちも商売あがったりよ。あがったりよ、の「よ」が、やけに色っぽい。つい聞き惚れていると、大きな溜息とともに、受話器から生温い風が洩れてきた。驚いて、受話器の穴を見つめるうちに、ぷつりと音がして電話が切れる。それっきり、じー、とも、つー、とも言わないで、ただ押し黙るばかりである。細く開いた雨戸の向う、縦長の空をからすが一羽飛んでいく。風に流されながらも懸命に、どこかを目指しているらしい。きっと家に帰るのだろう。七つの子が待っているから。よるべない嵐の日は、暗くて、蒸し暑くて、すうすうと寂しい。---------------- 8×キリトリセン ---------------- 旅のあいだの、うそ日記。さかのぼって、ぽつぽつ更新いたしました。さかのぼって、読んでいただければ幸いです。

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  • 08 Jul
    • たなばた

      七月七日 雨のち曇り 旅から戻ると、朝顔が咲いていた。 さみどりの蔓は、鉢に挿した竹ひごでは飽きたらず、 かたわらに繁る丈高い笹を這いあがり、ぽつぽつと青い花を咲かせている。 じきに日暮れという時刻であるのに、いっこうに萎む気配もない。 しばし茫然と眺めていると、裏木戸からこいびとがやってきて、 咲きましたね、と、しごく満足そうに言う。 よかった、七夕に間に合って。 そういえば、笹に咲く青い花は、どこか七夕飾りのようでもある。 あいにくの空模様ではあるけれど、これはこれでなかなかのもの。 そう思い、花のひとつひとつに目を懲らすと、 ひときわ大きな花の中で、獏が寝ていた。 筒のような窪みにすっぽりと収まって、さやさやと風に揺れている。 縁側でこいびととふたり、素麺をすする。 彼の地で太うどんを買ったはずなのだが、 帰ってきたら極細の素麺になっていたのだった。 あちらとこちらでは、何かが違っているらしい。 きっと彼の地は、今宵も晴れているのだろう。 ---------------- 8×キリトリセン ---------------- んー。旅のあいだの「うそ日記」をアップしてから、と思ったのだけど、日付がどんどんずれていくので、先に「七夕」を(汗)旅うそ日記、は、また後からアップするかも、です。写真は、旅先の琴平で撮ったもの。いや、しかし。せかいせいふく、って。  

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    • 久しぶりに、街に泊まる。朝食を食べに行こうと、部屋を出ると、ホテルの廊下の向うから、ワゴンがしずしずとやってきた。シーツやタオルを山と積んだワゴンである。あまりにのろい進み具合に、思わず足をとめ見入っていると、ワゴンを押していた制服姿の女のヒトが、すれ違いざまに、「ごきげんよう」と、ゆったり微笑む。その物言いが、やけに気高く優雅なので、つい、深々とお辞儀をかえす。さげた視線で、そのヒトの足もとを見ると、白衣に似た制服の裾から、品の良いレースのペチコートがのぞいていた。最上階のブッフェ・レストランに行き、窓際の席に座る。山の中に、美しい洋館が見える。まるでお城のようである。いったいどんな方が住まわれているのやら、と思いながら、朝がゆをすすり、隣の席のご婦人たちのお喋りを、聞くともなく聞きながら、しらすを食べる。ねぇねぇ、さっき廊下にいたの、お姫さまでしょ。そうそう、パートなんだそうよ。室内清掃の。あれで時給はおいくらかしら。ははぁ、と、胸の中で合点する。先程の女性は、お姫さまであったのか。どうりで優雅だったはずである。隣のご婦人がなおも続ける。近ごろはお城住まいも大変よね。それにしても、リストラだなんて。ほんと、まさか王子さまが、ねぇ。お、王子さまが?なるほど、それでお姫さまがホテルのパートに。リストラされた王子さまは、いったいどうしているのだろう。今までが今までだけに、次の職を探すのは至難の業ではなかろうか。ハローワークに通ったりもされているのか。狭い部屋で皆と並んで、講習など受けるのだろうか。剣は持っているのだろうか。王冠はかぶったままなのか。あれこれ思いめぐらしながら、もそもそと玉子焼をつつき、味噌汁をのむ。お城が、青々とした緑に埋もれている。 

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    • 奈落

      芝居小屋に行く。芝居ではなく、小屋を見にいったのである。最古の小屋だというが、いまだに現役であるせいか、そこかしこに気配がする。ざわめきだとか、笑い声だとか、ほうっという溜息だとか、そういうものが何かの拍子に、ふとこぼれ出てくるのである。暖簾の影や、花道の節目や、舞台の奈落の透き間から、ふっと現われては、すっと消える。消えたあとの静けさが濃い。呆けたように立ち尽くすあたしに、案内のおじさんが手招きをする。猪首の、がっしりと肉のついたおじさんである。舞台裏の階段をおりていくおじさんのあとを追っていくと、一段おりるごとに空気が変わり、ひやりひやりと寒くなる。おりた先は、舞台の真下、奈落の底であるという。奈落の底とは、果てなきもののように思っていたが、それは勝手な思いこみであったのか。薄闇の中、足元の簀の子を見つめながら考えていると、先をゆく猪首のおじさんが、振り向いて言った。底なし、だよ。振り向いたおじさんは、首だけでなく顔もからだも猪で、思わず悲鳴をあげそうになったのだが、それよりも「底なし」という言葉に気を取られていたもので、すんでのところで声を抑えることができたのだった。毛深い猪の、そこだけ薄桃色の平たい鼻を見つめたまま、神妙にこくこくと頷いて、頷きながらも、もしや、と思う。もしやここで動揺の素振りなどを見せたなら、気分を害した猪は猪突猛進、あたしはどすんと転がって、奈落の底にまっさかさま。そんなことになるのでは。とは言え、こんなところに置き去りにされるのはまっぴらだ。胸の中で、くわばらくわばらと唱えつつ、猪の後を追う。あたふたと階段をあがり、あがったとたん礼を言って頭をさげ、くるりとまわれ右をして、あたふたと小屋を出た。50歩ほど行ってから、まぶしすぎる光の中で振り向くと、戸口で見送るその人は、猪首のおじさんに戻っていた。あれはいったい何だったのか。悪い夢でも見たのだろうか。獏を連れてこなかったことを、少しだけ悔やむ。

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  • 07 Jul
    • うどん屋

      うどん屋で、カシノキさんに会う。こんな旅先で会うとはなんと奇遇なことか、と驚くが、カシノキさんは、そんな気がしていました、と事もなく言う。今朝、夢でお告げがありましたから。お告げが? と聞きかえすが、カシノキさんは、ふふっと笑うだけである。どなたのお告げが? と尚も問いかけると、ふいに伏し目がちになり、あたりを憚るようにして、こそりと呟く。うどんの神様。呟いたとたん、バネ仕掛けのようにひゅんっと椅子から立ちあがり、それではまたいつかどこかでビールなどを呑みませうそのときまでごきげんよう、と、口早に言いつのり、小走りで店を出て行った。湯気の立つ釜揚げうどんをすすりながら、うどんの神様について考える。やはり、色白であるのだろうか。肌はもちもちとして、からだは長く、たいそう腰が強いのだろうか。それにしても、さすが巡礼の地である。ここには八百万(やおよろず)の神様がいるらしい。もしかすると、獏の神様などもおられるのではあるまいか。日盛りの、発光するかのような白い光が、柔肌のうどんのごとく、ひと筋長く射しこんでいる。    

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  • 04 Jul
    • かまどうま

      六月二十六日 はれこんぴらさんに行く。785段の石段の248段目で呼び止められるが、声の主が見あたらない。首をひねりながら、傍らの土産物屋をのぞいてみると、薄暗がりの中に老婆がいた。丸椅子の上で器用に正座をし、居眠りをしている。あの、今、呼びました? と、訊いてみるが、いっこうに起きる気配がない。首をひねりつつ、尚ものぼっていくと、596段目でまた名を呼ぶ声がする。立ち止まり、流れる汗をぬぐいながら脇の土産物屋を見ると、またも老婆が丸椅子の上で眠っていた。248段目の土産物屋で居眠りをしていた老婆と、瓜ふたつである。双子だろうか、と思いつつ、声をかけるがやはり返事はない。ようやく本宮に辿りつき、やれやれと汗をふきながら眼下の町を見渡していると、いつのまにか隣に老婆がいた。たった今目覚めたばかりのような顔で、ぼんやりと言う。あやういところで。は? あやうくカマドウマを踏むところ。カマド?ウマ。ほら、248段目と596段目で。なるほど、それで呼び止められたのか、と合点する。これも、こんぴらさんの思し召し。ありがたい、ありがたい、と、呟く老婆と共に手を合わせ、ありがたい、ありがたい、と、頭を垂れた。じっくりと拝み、頭をあげると、すでに老婆は消えていた。もしもカマドウマを踏んでいたら、いったい何がどうなったのか。それより、カマドウマって何だっけ。帰ったら獏に訊いてみよう、と思いつつ、金八百円也の、鬱金色染めのお守りを頂いた。帰ろうとして、ふいにまた呼ばれたような気がして振り向くと、西日に照らされた御堂が、鬱金色に輝いていた。あたしの手も足も、白いシャツも、みんな鬱金色に染まっている。ありがたい、ありがたい、と呟きながら、785段の石段をおりていく。

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  • 03 Jul
    • 南国

      六月二十五日 はれ空港を出ると、椰子の木が茂っていた。なるほど南国である。暑い。迎えが来ているはずなので、きょろきょろしていると、青い半被を着たアリクイがやってきた。あたしの前に立ち、トランプを扇のようにするりと広げる。どうぞ、と、うながすので、しかたなく一枚引いた。「獏のエース」見ればたしかに、白いトランプの真ん中に、ぽつんと小さな獏が描かれている。どことなく、寂しげな獏である。「お待ちしておりました。どうぞこちらに」あたしのボストンバッグを手に、ずんずん歩いていくアリクイのあとを追いながら、そう言えば、アリクイと獏はよく似ているな、親戚であろうか、と、ふと思う。空よりも青い半被が、目に眩しい。

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  • 24 Jun
    • 書き置き

      先日生まれたばかりのあさがおの葉がいつのまにか生い茂り、 団扇ほどの大きさになったので、一枚ちぎってはたはたと扇ぐ。 そよぐ風が、青い。 どうやら青い花が咲くらしい。 あさがおの蔓先がうらめしげに揺れていたが知らぬふりをして、 文机の前に正座をし、葉に書き置きをしたためる。 旅に出ます。 青い葉に青いインクで書いたので、なにやらあぶり出しのようでもある。 何が書いてあるのかさっぱり分からないが、 どうせ読む人などいないのだから、よしとする。 探さないでください。 そう書き足してペンを置くと、「日本の名随筆集14・夢」の上に寝そべっていた獏が片目をあけ、書き置きをちらと見た。 眺めてすぐに寝返りをうち、背を向ける。 小さな背中を見せたまま、へたくそ、と言う。 留守居をさせられると知り、拗ねているのだ。 納戸から旅行鞄を引っぱりだして開けてみると、びっしりと蜘蛛の巣が張っていた。 端からほどいて糸巻きに巻いていくが、いくらたぐっても蜘蛛の巣はなくならない。 巻き取ったそばから、新たな糸がふわふわと生まれてくるのだ。 まるで綿菓子のようだと思い、ためしにひと筋舐めてみると、案の定甘かった。 ここのところ毎晩10時まで鳴っていた雷が、今夜は聞こえない。 細かな雨が、ひそひそと降るばかりである。 割り箸にからめた綿菓子を、漠とふたりでひっそりと食べる。 ---------------- 8×キリトリセン ---------------- ということで、ほんとに旅に出ます(笑)といっても3泊4日の短い旅ですが。たぶん、旅先から↓「トルニタリナイコト」 か「ケイタイ日記」 かのどちらかに、写真とかをアップするとは思いますが。あ。あと、新たにレビューブログ始めました(そんなに増やしてどうするんだ・笑)。遊びにきてね。「ためつすがめつ」http://mimedia.blog78.fc2.com/ではでは、行って参ります。  

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  • 20 Jun
    • うしろ

      六月十八日 曇りのち雨のち晴れのち雷 珍しく、こいびとが泊まっていくという。 枕が変わると眠れないたちだというのに、今日は眠れそうだというのである。 それはそれは、と、笑みを浮かべつつ、獏のことを打ち明けるべきか否か迷う。 獏ごときで驚くような男ではないと思うものの、 こいびと以外の者を家に入れ共棲みしていることが、どこか後ろめたくもあり、 隙を見てさりげなく洗面所に行き、獏を探す。 が、見あたらない。 うがい用のコップの中にも、吊るしたタオルの裏側にも、姿がない。 あたふたと戸棚をあけたり足拭きマットをめくったりしていると、 いつのまにか背後にこいびとが立っていて、ひやっとする。 後ろをとられたところで、後ろ暗いことなどないのだから、何をひやひやしているのだか。 後ろ指さされるようなことなどしていないのに、このうろたえぶりは何なのか。 洗面所の鏡越しに、こいびとが言う。「なんだか」 なんだか「後ろ」が賑やかですな、と、ひそやかに笑う。 ではお先に。おやすみなさい。 え、まだ八時なのに。 いや、今夜はやけに眠たくて。 入れ違いに、獏が来る。 小さな足で直立歩行しながら、とことこと洗面所に入ってくる。 こいびとはよほど眠いのか、足もとの獏に気づくことなく、すたすたと寝室に入っていく。 ふぁぁ、と、こいびとのあくびが聞こえ、伝染ったかのように獏が思いきりあくびをする。 赤い小さな舌が、ちらと見えた。 すぅすぅと寝息をたてるこいびとの横で、本を読む。 遠く、雷鳴が聞こえている。

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  • 18 Jun
    • 双葉

      六月十七日 はれ こいびとが来る。 おみやげ。 特大西瓜ほどの、やけに大きな植木鉢をさしだして、あさがお、と短く言う。 両腕で抱えるようにして鉢を受け取り、 こんもりと山のように膨らんだ赤土をしばし眺める。 が、それらしきものはどこにもない。 双葉どころか、芽も出ていない。 まもなく。 まもなく? こいびとは頷いて、今日が予定日、と厳かに言う。 潮が満ちてきているから、もう、まもなく。 濡れ縁の下、沓脱石の横に鉢を置き、如雨露でじゃあじゃあと水を撒く。 と、ぽっこり丸い腹のような赤土のてっぺんが、豆粒大にぷくりと膨らむ。 でべそ。 思わずそう呟くと、まるでそれが合図であるかのように、 土がぴんっとはじき飛び、すっくと青いものが立ち上がった。 いきなりの双葉である。 う、生まれた。 驚いてのけぞるあたしの横で、こいびとがのんびりと言う。 生まれましたなぁ。 目を細め、ひとり頷くこいびとを横目で見ると、 その向うで、同じように頷いている者がある。 豚の蚊遣りの中、ちんまりと座った獏が、 こくこくと小さな頭を揺らしながら、青いあさがおの芽を見ている。 ふと、獏の生まれが気にかかる。 いったいどこでどうしてどうなって、今ここにいるのだか。 天高く、とんびが輪を描いている。

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