sora



六月十四日 (ところにより雨)

雨雲がついてくる。

遅い昼休み、窓の外が晴れていると思って外に出ると、
とたんに雨がぽつぽつ落ちてくる。
蕎麦屋に入ると、唐突に雨はやみ、
季節の蕎麦定食―アメフラシの酢の物付き―を食べている間には、
薄日が射しはじめた。
食べ終えて、がらがらと引き戸をあけると、たちまち曇る。
しとしとと、篠突く雨が降ってくる。

訝しく思い、見あげてみると、
二メートル四方ほどの鼠色の雲が、もやもやと浮かんでいた。
傘をさして歩きだすと、雲もすいっと動き出す。
歩みをとめると、雲も留まる。
ためしに本屋の軒下に飛び込んで、
週刊誌を立読みするふりをしてみたが、
雲はじっと待っている。

軒を出て、さっと駆け出し、こんどは市場に西側から入り込み、
縦横無尽の細い路地をあみだくじをたどるように歩きまわり、
南南東へと出てみると、姿がない。
しめしめ、と思いつつ、忍び足で歩きだすと、
彼方から雲が、あたふたと空を翔てくる。

思わず立ち尽くすあたしの頭上で急停車し、
汗をほとばしらせるかのように、雨粒をおとす。
すっかり呆れて見あげていると、その視線に気づいたのか、
雲は肩をすぼめるように、ほんの少し細くなり、
ぽっと仄かに赤味をおびた。
失態を恥じているのかと思ったが、
いつのまにか日暮れの時間になっていたのだった。
遠くの空のみが晴れて、かすかに夕焼けがにじんでいる。
観念して雲とともに家路につく。


洗面所に行くと、
一昨日から住みついている、親指の大きさほどの獏が、
うがい用の蒼いコップの中で寝入っていた。
しかたなく、手杓子で遠慮がちにうがいをする。