ゴールデンウィーク後半は少し時間に余裕があったので、買っておいて読めていなかった津村記久子さんの長編『水車小屋のネネ』を読破しました。

私は比較的読むのが速いほうなのですが、この作品は5時間くらいかけてじっくり読みました。

 

津村記久子さんは1978年大阪生まれの作家さんで、私が彼女の作品を最初に読んだのは、2009年の芥川賞受賞作『ポトスライムの船』でした。

大学を出て就職した職場でのパワハラにより、体調を崩して仕事をやめ、工場のラインで働く主人公。シングルマザーの母親と暮らす彼女の家に、大学時代の友人が、夫のDVから逃れて小学生の娘と居候する。大きな事件が起こるでもなく、華やかさのない設定ですが、就職氷河期を経験した私には共感できる話で、今も時々読み返しています。

 

最近作『水車小屋のネネ』も少し似たテーマです。

働くとは何か、親に問題のある子ども、息苦しさを抱えた若者、誰かの役に立ちたいと思うこと。

 

第1話の舞台は1981年。18歳の理佐は、小学3年生の妹の律を連れて家を出ます。知らない土地で、住み込みで「蕎麦屋の店員と鳥の世話」という仕事を始めます。シングルマザーとして姉妹を育ててくれた母親ですが、その婚約者という男が、妹に虐待めいたことをしたためです。短大に入学するはずだった理佐の入学金は、男の事業のために使われてしまいました。

”ネネ”は蕎麦粉を挽く水車小屋に住むヨウムという鳥で、頭がとてもよく、音楽や人間との会話が好きです。ヨウムは50年も生きることがあるそうです。姉妹は、蕎麦屋や集落の人に見守られながら、母親には頼らずに成長していきます。

 

第2話は1991年。18歳になった律は、大学に行くようにとの周囲の勧めを断り、地元の農産物を扱う会社に就職します。ピアニストを目指していたけれど家庭の事情であきらめ、村の水力発電所にやってきた青年・聡は、姉妹とネネとの交流により生きる気力を取り戻します。

 

第3話は2001年。聡と理佐は結婚しています。自身の貯金と周囲の支援で大学に進学し、再び就職した律は、大学を出たことで報酬が変わることを実感しました。律は、水車小屋で出会った15歳の少年ケンジに勉強を教え、彼は希望の工業高校に合格します。ケンジも家庭に問題を抱えていましたが、その後努力をして自分の道を切り開いていきます。

 

第4話、2011年。東日本大震災発生。「この辺は震度4、もっと揺れた」という記載があり、近隣にブラジル人が働く自動車工場、とあるので舞台は群馬?長野あたりか?と思われます。ここで「水車小屋」「水力発電所」という小説のモチーフが、東日本大震災の原発問題に通じていたのか、と気付かされます。電気工事の会社に就職したケンジは震災復興のため、東北へ旅立ちます。「誰かの役に立ちたいって思うことは~(中略)~自分に道みたいなものを示してくれたし、幸せなことだと思います」というケンジの言葉が、多分この小説の大切なテーマです。

 

エピローグ、2021年。妻と二人の子どもを連れたケンジが、蕎麦屋跡地のカフェに帰省します。水車小屋のネネは、老いていたけれど元気で、律も笑顔でケンジを迎えました。

 

というような内容です。

そこそこ時間もかかりますし、中学受験にはほぼ関係ない話ですが、久しぶりに読書の楽しみを満喫しました照れ

 

ちなみに津村さんの連作小説『この世にたやすい仕事はない』は、2023年の「啓文堂書店が選ぶ文庫大賞」を受賞しています。この小説の最後の話は、なんというか、凄みがあります。

人はなぜ働くのか、深く深く、考えさせられます。小学生の娘には、まだ早いな。新入社員にぜひ読んでほしい一冊です。