泉鏡花を知っていますか。
1873年11月4日に石川県金沢市で生まれた日本文学者で、明日で生誕150年になります。
尾崎紅葉に師事し、『義血侠血』『外科室』などの観念小説で文壇にデビューしました。『義血侠血』は「滝の白糸」のタイトルで新派の舞台にもなったように、初期の鏡花作品は戯曲や芝居がかった作品が多いです。
『外科室』のあらすじ紹介すると…(手元に本がないので適当です)
時は明治。男と女が植物園ですれ違い、目が合って、恋に落ちる。でも、会話したり、手紙をやりとりしたりする訳ではなく、もちろん手も握ったりもしない。それっきりなーんもない。ずっとお互いの心の中にあるだけ。
10年ぐらいして、男は外科医に、女は伯爵夫人になっている。女は肺かどこかの手術で、男の執刀を受けることになる。なぜか、頑なに麻酔を拒む女。
「私には、誰にも言えない秘密があります。麻酔で、うわ言を言うことがあると聞きます。それは困るので、麻酔なしで手術をしてください」。看護婦や家族は、もちろん止める。しかし外科医は承諾する。外科室で赤い血が流しながら、麻酔無しの手術に耐える女。
「痛いですか?」「いいえ、あなただから。でも、あなたは私を知りますまい」。
突然、女はメスを自分の胸に突きつける。
外科医は答える。「忘れません」。
女は微笑んで、死ぬ。外科医も、そのあと命を絶った。
みたいな話です...
現代っ子には意味分からんでしょ。
今なら、最初に会った時に気になったんなら「連絡先ぐらい聞けよ」と思うし、手術の時も「死ぬなよ!駆け落ちして、場末の闇医者と食堂のパートとかでも、なんとか生きていけるだろ!」と思います…でもこれが明治時代の日本。
鏡花が1900年に発表した『高野聖』は高い評価を得ます。以降、幻想小説、怪奇小説のような独特な文学で、その地位を確固たるものにします。幽玄、夢うつつな感じの、不思議な世界観です。
本人は神経質な人っぽいです。
「泉鏡花 潔癖症」でググるといろんなびっくりエピソードが出てきます。
私の知る日本文学の中で、この人の作品の「美女」が一番美しいと思っています。
もちろん文章だから、想像でしかないのですが。
夏目漱石『虞美人草』の藤尾さんとか、『草枕』の那美さんとかは強めの美人なんだろうと思うし、谷崎潤一郎の描く女性もとても妖艶なイメージです。
でも泉鏡花の描く美女には「この世のものではないような」、超越した美しさを感じます。
泉鏡花を一冊も読んだことがない人は、ぜひ『高野聖』だけでも読んでみてください。私は『眉かくしの霊』も好きです。おそらく、彼の描く美しい女性のモデルは若くして亡くなった自分の母親なので、「この世のものではない」儚い感じが出るのだと思います。もちろん、女性の描写だけでなく、森羅万象全てを語る日本語が、リズミカルで本当に美しい。
90年代に坂東玉三郎さんが『天守物語』を舞台化・映画化しています。天守に棲む魔性の姫を玉三郎さんが、妹姫を宮沢りえさんが演じていて、かなり“化生の者”っぽくていいです。
玉三郎さんは『高野聖』のヒロインも舞台で演じていらっしゃるけれど、川での行水シーンは、やっぱり女性のカラダがいいなぁ。映画で女性が演じるなら誰がいいかしら。若い頃の岩下志麻とか?もう少しボリュームがあって、神聖で優しくて怖い感じの女優さんがいるといいですね。
金沢生まれの鏡花ですが、東京では神楽坂に居を構えていました。のちに妻となる人は、神楽坂の芸妓さんでした。この恋愛は師匠の尾崎紅葉に猛反対され、後年『婦系図(おんなけいず)』という長編作品のモチーフにもなりました。
潔癖症なのに情熱家な、泉鏡花のご紹介でした。

