『もしこのアンブロッカーで詰まりが解消されない場合、最悪トイレは排管
含め全とっかえになっちゃいますねぇ・・・』
業務と食材の買い出しを終えて帰宅、車から戦利品を取り出して勝手口の
鍵を開けようとした刹那、扉の下から大量の水が流れ出しているのに
気付く。状況に認識が追い付かないまま、リビング入り口に設置した
扉の鍵を開ける。その間、床という床が水浸しになっていた
リビングでは、出掛ける前からかけっぱなしにしていたDVDを見ながら
笑っているおかぁちゃん。一体何があったのかを訊ねたが、当然まともな
返答が返って来るわけでもなく「それより腹減った」
台所に行くと、奥にあるトイレから水が延々と流れている音に気付く
外開きの扉を開けると、2畳敷きでおよそ30㎝ぐらいの水量が一気に
流れ出てきた。どうやら扉の隙間から出てきた水が一階を水びだしに
したようだ。同時にかなり立派な固形物がプカプカ浮いていたので、泳ぎ
回っては困るので手づかみでビニールに入れ、二階のトイレに流しに行く
ついでにネットで検索し、今も延々流れているトイレのタンク脇にある
止水弁をドライバーで閉じた。同時に二階から持って来たラバーカップで
しばらくトイレと格闘するものの、一向につまりが解消される気がしない
諦めて、当時CMでおなじみの業者さんに連絡
食事の用意をしながら、一階の水をバケツとウエス、ちり取りで
掻き出す。空腹で不機嫌オーラを出しているおかぁちゃんを尻目に
なるべく刺激しないよう、おかぁちゃんの回りの水も拭き上げる
尿意を催したようで急に立ち上がりトイレに行こうとするのを制止し
二階のトイレに誘導する
「なんでここ濡れてんの?」おかぁちゃんが不思議そうに聞いてきた
「なんか雨が降ったみたい」そう答えた
「あっそう。晴れるといいね」とおかぁちゃん
『起こるべくして起こる事はすべて起こる。起こる事に決して怒らない』
そう心に決めていたので、半ば楽しむ気持ちで状況に向き合っていた姿勢が
ここに来て活かされてんな、と自分を褒める
「怒って、窘めて、反省して、向上する」養育プロセスであればこのような
フローが成立可能だが、おかぁちゃんには後半の2つが欠如している。つまり
幾ら怒って窘めたところで、エネルギーの無駄な消費以外のなにものでもない
かつて、おとうちゃんの介護をおかぁちゃんと二人で担っていた時に
焦燥感やらストレスから感情が爆発した経験があった。積み重なった
フラストレーションが一気に怒りとして噴出した時、僕はおなかを壊した
血便が続きしばらく酷い肌荒れに悩まされ、奥歯も3本ほど抜けた
その経験がおかぁちゃんの介護に生きている
一階に戻って食事の用意をしていると、業者さんがやってきた。今までの
経緯と対応状況を説明すると、一旦車に戻って、巨大な注射器のような
ポンプを持って来た。そして最初のセリフに至る
ラバーカップと違って一気に2トン近い水圧でパイプの詰まりを解消
させるようで、それで詰まりが解消されれば良いが、古い排管が
破損する恐れや、便器が破損する事もあり、その場合は・・・
まだ足腰がしっかりしているとはいえ、そのまま徘徊に結びつく
可能性を考慮すると、一階に設えた間仕切りの鍵付きドアを開放
して二階のトイレにおかぁちゃんの生活導線を繋ぐわけにはいかない
ゴボッ、ゴボッ、と鈍い音がして、ポンプから勢いよく圧力が流し込まれる
幸いな事に、破損もなく水は勢いよく流れ、めでたく開通の運びとなった
『介護施設とかではよく色々なものを流しては詰まる事があります』
水分を吸収して膨張するような素材が用いられているケア用品が、詰まりを
引き起こすようだ。うちには拭きやすさを優先してトイレに流せるシートを
使っていたが、それがまるまる1パック消えているのに気付く。原因が
ハッキリした。残った予備のシートは棚の上にあげておこう
「誰ぇー!?」食事しているおかぁちゃんが怒鳴った。業者さんに説明
すると『大変ですね。私も父が認知症でした』と一言。こういった事案に
慣れている事を窺わせる。業者さんがお帰りになったあと、水びだしの
床掃除を再開する。勝手口付近に置いていた、Amazonから届いた
スニーカーの箱や資源収集の雑誌や書籍がぐっしょり濡れていた。全ての
片づけと明日の下ごしらえを終え、相変わらず楽しそうに笑っている
おかぁちゃんとテレビを見た。内容は入って来なかったが、ここに至る
現状がなんだか面白く思えて笑った。自嘲でもなんでもなく
「さて、今月の水道代、いくらかかるんだろ?」
それが唯一気掛かりだった。でもまぁ、おかぁちゃんに大事がなかった
だけ、よしとしましょうかね
おかぁちゃんの足腰がしっかりとして盛んに動き回れていた最初の3年間
まだまだイベントは続くのであった