おかぁちゃんの介護を始めて5年目、睡眠時間が毎日2時間弱の
状況と、糞尿と日々の汚れで継続的な在宅介護に限界が来たので
デイサービスを利用する事に
デイは一晩預かって頂ける事も有り、部屋の掃除とたまりまくった
洗濯物や買い出し、タッパに煮つけ料理の作り置きをしつつ
日常の業務もこなせるようになり、何とか暮らしとして目途が
立った頃
いつものように着替えをさせ、元気な時にプレゼントで買ってあげた
シャネルのバッグにデイのお着替えを入れ、櫛と歯ブラシ、連絡ノート
を用意し、奇麗な洋服に着替えさせてデイの送迎車を待つために
玄関先に待機していた時の事
”トラサルディ”のロゴのような銀色の犬が付いた奇麗な杖を持ち、腰の
曲がったおじぃちゃん(というには身なりが整い過ぎてはいた)が
玄関先で座って項垂れているおかぁちゃんと私の前に通りかかり
軽く会釈を交わした後に
『お母さんとお出かけですか?』
私「いえ、デイサービスの送迎車を待っているところです」
『それはそれは、大変ですね。ご苦労様です』
私「いえいえ、愛情と感謝を一杯もらってここまで一緒に居てくれた
母に、少しでも良い想い出を持たせられれば、という思いでいますので
今もとても幸せなんですよ。むしろ、寂しがりな私に付き合って
もらっているようで、母には申し訳ない気持ちにすらなります」
その頃にはもう私自身が、おかぁちゃんを土に還すまで、良い想い出を
いっぱい持たせる事で恩返しをしたいという思いだったので、おじいちゃん
にはとても素直な感想として、そう述べた。相変わらずおかぁちゃんは
玄関先に腰かけて項垂れている
するとそのおじいちゃんは、手に持った杖を脇に抱えると、目の覚めるような
美しい直立の姿勢を取って、項垂れているおかぁちゃんの前に立ち、覇気に
満ち溢れた声量で、深々とお辞儀をしながら
『私は、このような素晴らしい子孫を育て、この世に残して頂いたあなたに
心より感謝を申し上げます!』
あまりに美しく神々しい光景と響き渡る声に刹那、涙が滝のように溢れた
次におじいちゃんは、涙を拭う私に向き直り、またもお辞儀をしながら
『私は、美しく崇高な気概でお母さんと向き合っておられるあなたに心より
感謝致します! 人間としてあなたたちに感謝致します!』
あまりの光景と情報量に圧倒され、ただただ会釈する事しか出来ず、心と
身体が震え、慟哭が止まらず、何度も何度も体内に響き渡るおじいちゃんの
言葉が、細胞一つ一つに染みわたり、身体がとても軽くなり、周囲総てが輝いた
ようなまぶしさに包まれ、気が付くとおじいちゃんの姿はなく、目の前には
相変わらず項垂れたままのおかあちゃん
急いで走り曲がり角を見渡してもそれらしい姿は確認できず
今思い返すと、あのおじいちゃんは「ご先祖様」が顕現した存在なのかも
と考えたり。まぁ、生きていれば不思議な事にも出会うものですね
・元気だった頃にはスポーツクラブに行ったり、好きな温泉巡りに
行ったりと大活躍したバッグ。最後まで、おかぁちゃんに寄り添って
くれてありがとうね
