三島由紀夫を何冊か読んだ。
以下は簡単な感想メモ。




盗賊 三島由紀夫


上流階級の恋愛や交遊のお話。


興味深く読んだ。


文章は格調高くて、名文だと思う。


ただ、前半はさほど面白くない。


明秀が自殺しようとする気持ちが今一つよく分からなかった。


清子とお互いの自殺願望を知り、接近する中盤辺りからが面白い。


最後は必然だし、きれいに終わったんだけど、何でこうなっちゃうのかと思わなくもない。


読者である私は置いてきぼりにされたまま、話だけ先に進んで行ってしまった印象だった。


あと、このちんまりした話と格調高くて大仰な文体が合ってない気がした。


どうも違和感が消えない。ちぐはぐとした感じ。


これは、以前に著者の他の作品を読んだ時にも同じ感想を書いた気がする。





禁色 三島由紀夫


「仮面の告白」に続くホモ話。「仮面の告白」より更にエスカレートしてる。


奇書、だと思う。


しかし、話自体は結構面白い。


次第に引き込まれる。 


「仮面の告白」の当時より、作者がストーリーテラーとして進化してるってことか。


だとしたら、進化は良いことだけど方向性が間違ってるような気がしなくもない。笑


文章は格調高く、さすが文豪という感じ。


登場人物の描写も鋭くて、唸らされる。


その辺はさすが文豪だと思う。


それにしても…こんな内容を、よくこんな大仰な文章で小説にしたものだ。


いや、下世話な文章にしてしまったらそれこそ下品で駄目か。


それにしてもなあ…これが世間では文学で通っているとは。


“世の愛妻家はホモ(男を愛する人たち、と表現されているが)”って部分にはひっくり返った。


時代的に、本作は所謂“BL”の元祖になるんだろうか。知らんけど。


俊輔が悠一を「あの青年の倫理は要するに『何もしない』ということだった」(167ページ)と評している。


ここを読んで、なぜか俳優の東出昌大が頭に浮かんでしまった。


モラルのない人ってイメージがあるのかもしれない。


あるいは、『コンフィデンスマンJP』のボクチャン役で木偶の坊なイメージがあるせいかも。


実際のところは分からないが。


小説全体で思ったのは、美輪明宏で映像化したらよく似合うだろうってこと。これは当然か。





鏡子の家 三島由紀夫


鏡子の家に集まる若い男女の話。


裏表紙の紹介を読んだら面白そうで、何より「禁色」より健全な内容なので期待して読み始めたんだけど、これがつまらない。


(新潮文庫 令和4年(2022年)9月20日版を読みました)


何だこれは、と思っていたら150ページぐらいからようやく面白くなってきた。


登場人物が多めなので分かりにくかったのだけれど、この辺から各キャラが認識出来てくる。


275ページ。

画家の夏雄が絵画を購入してくれそうな実業家に対して“話すべき言い方”が面白かった。


芸術的な素養は無くても、大金を払って絵画を購入しようとする人だから、


“”誰にでも芸術的感覚があるわけはないし(中略)芸術家でもない人がそんなものを持っていたって宝の持ち腐れです”


“自分の仕事に(中略)熱中と努力の果てにつかむ(中略)そこにこそ芸術家と本当に共通するものがある”


“芸術の核心がおわかりです”


なんて言われたらやっぱり嬉しいんだろう。


“いいえ。あなたには(芸術的素養が)大ありですよ”

なんて、“空しいお世辞”を言われるより説得力がある。


“彼らは本質的に芸術家になりたくはない。しかもできるだけ芸術家に似たいのだ”


“(中略)説得の調子は、その両方の欲求を満足させる”



356ページ。

金貸しの秋田清美が収(おさむ)を買うのは陳腐な展開だと思った。


ただ、清美が自分の仕事のせいで心中や自殺者が出ていることを、自然の代行で、社会的善行と考えているのは興味深かった。


あっなるほど、とちょっと驚いた。


ひどい言い草なのは間違いないけど、物は言い様だ。


また、清美が死についてしきりに語るのはいわゆる“文学”っぽいと思った。


その後の2人は「健全」さから離れて、三島作品らしい(これまで読んできた、健全ではない(笑)イメージ)展開になる。


作者が我慢できなくなったのかも知れない?と思った。


最初に、本書が「禁色」より「健全」と書いたけど、性別を超えた愛情や死、特に自殺を美化するような描写は時々出てくる。


三島由紀夫はまだ数冊読んだだけで予備知識もあまりないんだけど、この2つはこれまで読んだどの作品にも漂っている。


本書は群衆劇みたいに何人か主役級の人物が登場する。


いずれも興味深い。


画家の夏雄は今一つだったけど。


お金持ちでなくなった鏡子、拳を駄目にしたボクサーの峻吉など、収が死んだ後はいかにもな展開が続く。


正直、ストーリーは陳腐だと思う。


子供というよりは思春期の、中二病的な感じ。


そのストーリーを、物凄い文章力で描いている。


「騒々しい沈黙」(516ページ)なんて表現は面白い。


あと、巻末の柚木麻子という作家の解説が面白かった。





潮騒 三島由紀夫


映画は以前に観ていた。


何度も映画化されている内の、三浦友和・山口百恵のやつ。とても良かった。


映画は大方原作通りだったようで、展開はほぼ同じだった。


原作も面白かった。


田舎の島に住む、漁師の少年・新治と海女の少女・初江が繰り広げる青い恋の話。


これまで読んだ作品と違って、LGBTQな人は出てこない。


反社会的な展開もない。健全なお話。


健全じゃないところを強いて挙げれば、女性の胸の話がだらだら書いてあったりするぐらい。


そして、話の展開はとてもベタ。


2人の交際は初江の親に反対されるけど、新治の頑張りでついに認めさせる。


これって本当に三島作品か?と思った。


私の知ってる三島とは全然違う。


文体は確かに三島なんだけど。


読みながら、ここまでは映画と同じ展開だったけどこの先もそうなのか、小説ではこの辺から変わったキャラが出てくるんじゃないか、変態行為があったり死んだりするんだろ、と思っていたが、そんなことは無いまま清々しくハッピーエンドを迎えてしまった。


愕然とする。なんだこれは。


三島由紀夫の小説って、こんなんじゃないだろ?


一体、何があったのか。


ひょっとしたら、実話ベースなのか。


三島由紀夫のオリジナルとは思えない。笑


あるいは、最初から映画会社とのタイアップとかで一般受けする内容を依頼されていたりして、性癖(笑)を抑えて書いたのか。


とにかく、これまで読んできた三島作品とは異質だった。


ただ、三島作品らしい個性は確かにないんだけど、出来が悪いわけではなくて、むしろ読みやすいしストーリーも良くて、個人的にはとても面白かった。


他の変態作品(失礼!)より本作が面白いとは、我ながら平凡な読み手だとは思うけど。笑


でも実際、一般的な普通の小説として読んだらこれは良い話だと思う。


三島らしくないって私が変に考えすぎただけで。


アイドル(吉永小百合、山口百恵、他)を使って何度も映画化してるのが何よりの証拠だろう。


巻末の解説を読んだら疑問は氷解した。

(私は解説を先に読まない派なので)


古代ギリシャで2~3世紀に書かれた「ダフニスとクロエ」という恋愛物語を下敷きにしているそうだ。


実話ベースではないまでも、元になる話があったと知って、ものすごく納得した。





金閣寺 三島由紀夫


たぶん、三島由紀夫で一番有名な小説。


金閣寺の修行僧でする主人公が、その美しさに焼いてしまおうとする話。


実際にあった「金閣寺放火事件」(1950年(昭和25年))を題材にしている。


ただ、事件は創作のきっかけに過ぎず、史実の小説化という訳ではないので内容はかなり違うそうだ。


昔、文学史の時間だったと思うけど、授業かテキストで読んだかで知った時には金閣寺に放火する話がなぜ文学作になるのかさっぱり分からなかった。


しかし、何冊か三島作品に触れた上で本作を読むと、このモラルの欠けた主人公がいかにも三島らしく思える。


「潮騒」は例外として、これまで読んだ中では三島は異常な作品の方が面白い。


本作も、主人公の考えは異常で何やってんだと思うけど、内容は面白い。


文章はいつも素晴らしいから、あとはネタ次第ってことか。


ただ、これを名作と呼んで良いのか、そもそもなぜ世間の評価ぎ高いのかはよく分からない。