12)わが社CRMコーディネーター田中潮
◎CRMの勘違い?
私はマーケティングのシステム営業とアドバイザーを行っている現場スタッフなのですが、ここではそんな私が現場で経験した話を中心にお話しさせて頂きたいと思います。
最近、CRMという言葉が流行り言葉のように使われているが、実際、私もセミナーでCRMについて講演すると「凄く勉強しているな」と感心させられる参加者
が多いと実感しています。ちなみにCRMとはCustomer Relationship Managementの略で、直訳すれば顧客関係性の維持・向上の為の管理といったところです。
このCRMの中で最も大切なキーワードが「M」つまりマネージメントという概念だと私は思っています。
しかしながら私が営業する上でお会いする経営者の中で、「顧客をマネージメントする」という考え方に躊躇する方々が意外に多いのに気が付きました。
ある有名な和菓子製造・販売会社の経営者はこう言いました「お客様を区別すると、店頭で対応に困る」。
つまりは、それぞれのセグメントの顧客に異なったサービスを展開した場合、あからさまな顧客差別化プログラムを店頭で展開する分けにはいかないというのです。
いかにも日本的な発想だと妙に感心しました。
和を重んじる日本人にとってCS(Customer Satisfaction)という考え方は顧客に対し均一的で区別する事がなく、とても受け入れ易い概念であるが、顧客をマネージメントするCRMの概念は簡単には受け入れられない様です。
賢明な方であれば上記のCRMに対する反論はFSP(Frequent Shoppers Program)と勘違いしているのでなないか、とお気づきの事と思います。
そう、確かに私達がお会いする方々の中で、CRMとFSPを混同して考えているなと思われるケースが実際に多くあるのです。
CRMは非常に幅の広い概念なので定義付けが難しいですが、「お得意様だけに特別なサービスを・・・」というのは一般にFSPです。
CRMとは、そんなFSPも包括したものでFSPとイコールではありません。
そういう私も確かに、CRM関連のツールを営業としてお客様に伝える際に、口癖の様に「デシル分析」「3:7の法則」「併売分析」・・・等などマーケティングの基礎用語を連発してしまいますが、CRMを具現化した話しをする際に自然とFSPに以降している事が多く、反省する事しきりなのです。
さて、そんな小難しいCRMが何故これほど各企業の関心を寄せているのか?それは、価格戦略・商品戦略を一通りやり尽くした感のある中で、これからを生き抜いて行くには何か特別な付加価値を提供していかなければならないという必死の思いからだといます。
それをCRMに見出している事は間違いないでしょう。
しかし、CRMを実践しているといっている企業を見てみると主体が「商品」になっているケースが多い様に感じます。
CRMを実践する上で、客観的に判断する材料としての売上・顧客データは必須だが、それらが揃っており尚且つ活用されている企業の現場を覗いてみると、所謂
アップセル・クロスセルなどのセリングを行っているケースが多い様です。
しかしながら商品思考によるセリングばかりを続けていくと、アプローチが単純化するだけでなく、お客様に飽きられてしまいます。
一番呆れたのは、私が30万円近くもするカーナビを購入した次の月に「カーナビフェア」のDMが送られてきた事です。そんなに買い換えられません・・・。
しかも、大枚をはたいて購入したのに「せめてその月位はお得意様扱いして欲しい」という顧客心理を見事に裏切られ残念な気持ちになりました。
私は小売業の経験もあるので、お店でCRMを行う事の難しさは良く分かっているつもりですが、本部主導で売る商品や販促企画を指示されるのは、明らかにロスが多いと思います。
上記の例で考えると、(絞っているのか絞っていないのか良く分かりませんが)「カーオディオ類を良く買うお客様に関連商品のご案内を・・・」というクロスセルを行った結果、上記の様な販売促進手段となったと思われます。
オーディオを買った人にカーナビを(クロスセル)、輸入物の鰻を買った人に国産鰻を(アップセル)、など私達が良く触れるセリングだが、これらはそうそう何度
も使える手段ではなく、直ぐに手詰まりになってしまう傾向にあります。
次第にレスポンス率が悪くなり、頭を悩ませていませんか?
ではどうするか?
顧客思考によるセリングを展開すると販売促進の幅が随分広がります。
例えば、スナック菓子を良く買うお客様にジュースをお勧めとは分かり易いクロスセルですが、顧客主体で考えてみると結果は変わるかもしれません。
スナック菓子を購入しているお客様でも主婦と学生ではその購入動機が大きく違います。
極端な話しですが、スナック菓子を購入しているのが主婦であれば、その生活背景上、お勧めはお味噌であっても成り立つ訳です。
言葉だけでは分かりにくいかもしれませんが、顧客データを蓄積しているのであれば、是非一度試してみてください。
商品分析だけでなくそれを購入している顧客にも目を向けて分析していくとなすべき事がたくさん見つかります。
◆ デシル分析の罠?
さて、では顧客分析の定番であるデシル分析はどうでしょうか?
「わが社は(商品分析だけでなく)顧客にも目を向けたCRMを行っている」と誇らしげに経営者から告げられるケースは実は意外に多いのです。
デシル分析で良く聞く「3:7の法則」ですが、要はそのお店全体の売上の70%は、売上上位30%の(全体からすれば一部の)お客様からもたらされるという法則です。確かに私が分析に携わったどの企業でもこの法則に近い数値を示しています。
そこで行われているのは、「上位のお客様への特別なプログラム」つまりは先述したFSPです。
これ自体は勿論否定するどころか、むしろ推奨したいと思います。
では、これが何故「罠」と大げさに書き立てるかというと、これも先ほどの商品主体のセリングと同じく、これだけでは先細りになってしまうのです。
離脱率を分析してみると、(お得意様と言えども)必ず一定期間で離脱していっているのが判るはずです。
では、加えて何が必要かといえば、「育成型セリング」だと考えます。
例えば、全体では女性が少ないお店だが、デシル上位30%のお得意様の中では女性の比率が高いケースを考えてみます。
「何故、お得意様では女性が多いのか?」から始まり、年代分析、地区分析と分析をドリルダウンしていく事でその生活背景が見えてくるでしょう。
次に、(最初はお店に対する売上金額という貢献度から絞り込みましたが)上記セグメントから絞り込んでみます。つまり同じ性別・同じ年代・同じ地区にお住まいのお客様から絞込み、そのご利用金額状況を見てみます。
当然、ご利用金額が少ないお客様と多いお客様がいらっしゃるはずです。
これから先は仮説ですが、ご利用金額が少ないお客様に対しては、「同じ属性を持つ上位客と同じ志向を持っている」として顧客育成プログラムを導入する事も考えられます。
◆ なぜ顧客のデータベース化が必要か?
さて、CRMの話しを続けて来ましたが、CRMはお店とお客様との関係性を維持・向上していく為の仕組みの事です。
では何故、顧客データが必要なのでしょうか?
ここから先は私の経験談です。実は九州各県のケーキ屋さんのオーナー数十人に飛び込みや紹介で営業した時の話です。
まず、ケーキ屋さんの店舗の規模を想像してみて下さい。皆さんの予測通りですが、オーナーつまり経営者に顧客管理・分析・CRMの話しをしたところ、ことごとくこういう答えが返ってきました。「そんな事をしなくても私の頭の中に入っているよ」「見ての通りの規模だから仕組みは必要ないです」と。来店するお客様の数も、1店舗あたり平均して7~8千人で、1万人を超える繁盛店はそれほど多くはありませんでした。
では次にこんな質問をしてみました。「ではお客様はどんな方が多いですか?」答えは口を揃えてこうでした「殆ど女性だよ、男性は少ないね」。
何となく予測はしていたのですが、私は大の甘党という事もあり、それが本当であるか早速調べてみました。
例えば総務省が出している家計調査という国民の消費支出をデータ化したものがあるのですが、それで調べてみると意外にも男性35歳以上の勤労者世代の洋菓子消費ニーズは高いのです。全体的には女性の方が多いのですが、「男性は殆どいない」というのは勘違いです。
ケーキ屋さんに限ってみれば、お店の作りや集客企画が(オーナーが殆ど女性しか見ていないので)女性向きになっているというだけの話です。
コンビニの生菓子コーナー購入の70%は男性サラリーマンであるというデータは最近話題になりました。(実は私もそうなんです。しかも毎日の様に。)
「男性が入りにくい、おやつ代わりの1~2個の購入はためらいがある・・・」等などの理由で専門店は男性にとって利用しにくい環境です。
一方、3月に入るとケーキ屋さんも忙しくなります。人事異動期に伴う贈答品としての焼き菓子のニーズです。焼き菓子は利益率も高く伸ばして行きたいと言う
オーナーは多かったのですが、それに対するアプローチは先述の様に不十分です。もう少し、男性サラリーマンの声にも耳を傾けてくれたら有り難いのですが・・・。
何が言いたいのかというと、決して現状の見た目だけでは判断できない要素が企業にとってたくさんあると言う事です。
また、店舗で対応しているスタッフにとっては、シフト制などの理由で時間帯・曜日別で一部のお客様の顔しか見ていない事もあります。
フェイス トゥ フェイスで考える事も必要ですが、顧客データは来店して下さっているお客様全体の顧客心理そのものです。
月一度で構いませんので、経営者と現場スタッフとで顧客データを一緒になって見てみてください。良く来てくれているお客様、ある日突然いなくなったお客様、
それぞれに理由があります。意外な発見もあります。お店の強い所・弱い所が見えてきます。それをスタッフ全員で共有する事が重要なのだと私は考えます。
◆ 分析してみて初めて判る事
見た目だけでは「勘」による判断になってしまいます。正しいお客様の「顔」をデータで覗く事で、正しいCRMが実現するだけでなく、スタッフの方々と経営者とで情報共有ができ、ボトムアップでの企画会議はモチベーション向上にもつながります。
例えば、ある和菓子製造販売のお店にコンサルに入っている話です。
そこは当初から顧客データベースを構築し、CRMを実践している企業でした。「誰が・何をお店に期待して来るのか・どんな対応をすべきか」を個々のお客様の
レベルで把握しているのです。嘘みたいですが本当の話です。
経営者は非常に研究熱心で、今後のビジョンも明確に持っています。しかし、その経営者はトップダウンでは現場の理解が不十分になるので、あえて細かな指示は
出さず、従業員の気付きを期待したいと考えていました。
「CRMによりお客様を守る事は徹底して行ってきた。だが新規でお客様に来て頂く事も大切で、今後は両輪で走って行きたい」そう考えたその経営者は、従業員
の(これまで以上の)レベルアップが必要だと判断したのです。ですから、分析やマーケティングなど、経営者が得意としている文化を従業員に伝えるという目的
で月一回ミーティングを開く事にしました。最初は、私の顧客分析から入ったのですが、様々な事が分かりました。売上が特定月に集中している為、それを安定
させる為には、若年層へのアプローチが必要な事。その為にはこれからの接客の中でどんな情報を集める必要があるのか、その情報が集まると何が出来るのか、
などの情報が経営者と従業員で意識共有が出来ていったのです。
これまで薄々感じていた事を「データとして見る」事で、何が足りていて・何が足りないか、が明確になります。だから何をすべきかも明確になります。
このお店では、最終的には従業員の心理情報も社内アンケートとして収集しました。結果、リーダーの選出や商品開発、販促手法など様々な場面で活かされている
事となりました。
◆ コンサルの意味
コンサルや分析とは、ある種、勘により判断していた事柄に客観性を持たせる為に必要なものではないかと最近考えます。
実は答えはお客様と、接する従業員が知っている事なのですが、それが行動に結びついていないだけなのです。
若しくは社長からの指示待ち体質になっていて、自分たちで考える事を止めてしまったのかもしれません。
あるスポーツクラブでの話です。
そのお店の顧客分析によると、20代前後の新規入会客の離脱率が極めて多いのが判りました。一方、お得意様の年代層は40代前後です。結果、年配者層向けとして、プロ意識を持ったスタッフを抱え、大手には出来ない親切なケアができる店を売りに展開していたのです。
ここまでは良いのですが、そのお店が出しているチラシに目を向けると、非常にカジュアルで赤を前面に押し出した賑やか・フレッシュなイメージに違和感を覚えました。アットホームなチラシにする為に意図的であるとの事でした。しかし、アットホームなチラシからはプロフェッショナルなお店を連想するのは困難でした。
また、チラシのコンセプトからすると店舗の構えが凝っていて、アットホームで入りやすい雰囲気というよりも、非常にお洒落なお店という感じです。
この様な問題点は、スタッフの方々も気付いていた様ですが、コンサルとして第三者が介入し、客観的に現場スタッフと議論を重ねる事で潜在的な意識が顕在化
した事例でしょう。たった数回の打ち合わせですが、たくさんのなすべき事が発見できたのは大きな収穫でした。
◆ 「勝ち組」と「負け組」の違い
結局CRM的な「勝ち組」と「負け組」の違いとは、先述した様に客観的なデータに基づいた行動がなされているかどうかだと思います。
最終的には、フェイス トゥ フェイスというアナログになるのですが、客観的な判断による仮説と検証を繰り返して、販促やサービスの精度を上げていくには
やはりデータは必要です。それが小さなケーキ屋さんであっても、です。データを見て、(客観的に)当たり前の事を当たり前のごとく、日々積み重ねている企業
はこの状況下でも伸びています。
顧客分析やマーケティングによって導き出される結論は、決して特別なものではありません。
ただ、なすべき当たり前の事に、経営者のみならず従業員全員が気付いて、確信を持ってそれに当たれるかどうかだと考えます。
◆ あるお店のチラシのお話
当たり前になすべき事がなされていない事例をあげてみます。
北海道のあるドラッグストアの分析をしてみました。
このお店は複数店舗展開している企業なのですが、まずは「絞り.com」(弊社の顧客分析ソフトです)で店舗別の会員分析をしてみました。
普通なら商品分析から入るのでしょうが、あえて顧客に焦点をあててみました。
すると、大変面白い分析結果となりました。
その企業の主要顧客は全体・お得意様共に50~60代以上の比較的高齢者層が非常に多いお店でしたが、興味深いのは、とある1店だけ20~30代の若年者層
が圧倒的に多いお店があったのです。
全体的には高齢者層が多いので、チラシは大人用オムツや健康食品が表を飾っている内容でした。しかも経費削減の為、チラシは5店舗共通との事です。
これでは、その若者が多い店舗には内容が合わない事は一目瞭然です。当たり前のことですね。
実は、この分析はとある印刷会社さんと一緒に分析したのですが、この分析の結果、表には高齢者向け・裏には若者向けのチラシを作り、店によって折り面を変え
る事でコスト面と販促効果を両立させる提案をその企業にする運びとなったのです。
来店者層は現場の従業員に聞けば判る事ですが、それが行動に結びついていなかった事例と言えます。
◆ チラシ効果分析
次に、そのお店のチラシ効果の分析をしてみました。5日間のフェア用のチラシだったのですが、内容は目玉商品が20品目程度だったと記憶していますが、
チラシ表全面にズラッと並んでいる壮観で迫力あるものでした。「何か安そうっ!」とワクワク感に溢れる一見すると良いチラシです。
しかし、そのフェア5日間の顧客分析をしてみたところ、このチラシには大きな間違いがあることに気が付きました。
まず、5日間の会員の売上状況を見てみたのですが、フェア初日の売上が極端に高く、残る4日間は通常日とさほど変わらない売上にまで落ち込んでいる点が
気になりました。日替わり商品や在庫限りなどの数量限定商品などは特に設定していなかったので、違和感が拭えませんでした。
そこで、今回のフェアのメインである目玉商品の購買傾向を分析してみる事にしたのです。
「ある目玉商品を購入しているお客様が、同時に他に何を購入されているのか?」いわゆる併売分析ですね。これにより全てが判る訳ではありませんが、フェア目的で来店されたお客様の消費ニーズ・心理が見えてきます。すると結果は燦々たるものでした。目玉商品を購入しているお客様の同時購入品目リストを見てみると、その殆どが目玉商品ばかりで、利益率の高い通常商品は通常日と全くと言って良いほど売れ行きが変わっていなかったのです。しかも、お得意様よりもデシル
ランクが低い(失礼な言い方ですが)方ほどその傾向が高いという内容でした。
要は、フェアの告知の仕方が「目玉商品」に特化しすぎていた為に、いわゆるバーゲンハンターの餌食になってしまっていた様です。酷いケースでは、「お1人様
1個限り」という目玉商品を同じ日に何度も出入りして数個購入している方も多くいらっしゃいました。
これでは、目玉商品の購入という目的を初日に達成したお客様にとって、残る4日間に再度店舗を利用する動機がありません。
顧客データを活用すればこんな事はすぐに判るのです。
対策として、目玉商品を日替わりにして分割するとか、目玉商品にしたい商品の(通常日での)購買傾向を分析し、併売傾向が高い商品を目玉商品の近くに「広告の品」としてレイアウトする等すれば、客単価アップや利益率アップが図れるはずです。
◆ チラシの必要性
量販店の世界では、チラシは以前から比べると配布数を減らす企業が増えてきましたが、相変わらず有効な手段として活用されています。
ある九州のスーパーさんでこんな事例がありました。
まず、デシル分析からお得意様をピックアップし、その住所データから地図ソフトに出力し分布図を作成します。
実際には各地区でのシェアなども見たりしていたのですが、簡単に言うとお得意様が多くいらっしゃる地区は、貴店にとっての重要な足場となる商圏という事に
なります。他の店の影響が少ない守るべきエリアですね。
逆にお得意様が極端に少ないエリアは競合他社の影響が強いとか、交通の便などの地理的要素が強く貴店に来店しにくい地区と推測されます。この点については、貴店の販促活動状況にも絡んでくるので、一概には言えませんが、それを踏まえてエリア分析を行うと明確に見えてくると思います。
何故お得意様なのか、というとまずは貴店のファンであるデシル上位客の来店動向を見る方がその地区における貴店に対する「評価」が明確に判断できるからだと
私は考えます。
この様な状況が判れば皆さんはどうしますか?例えば、シェアが低い地区には、顧客を特定したDM戦略に切り替えるとか、シェアが高い地区にはチラシ戦略を
続行して高い来店頻度を保つとか、販促のコントロールが出来るかと思います。
そのお店も同様の手法で、チラシの配布枚数をデータで検証しながら除々に枚数を減らし、最終的には何割もの販促費をカットしても売上を維持する好結果を得る
事ができたのだそうです。
何となく不安だから・怖いからといってチラシを打ち続けている企業に、私が営業しても良く出会います。
◆ イベント化の発想
ではDM戦略はどうなっているでしょうか?
実際、理想的状況でDMを活用しているお店に出会う事は殆どありません。絨毯爆撃の様に全顧客に同じDMを送っているケースが圧倒的に多いです。
しかし、それで良いのかと問いかけると、皆さんが「それでは駄目だ」と認めるのです。
本来、DMとはお客様とお店とをつなぐ「お手紙的発想」で活用されるべきツールです。その点がチラシとは違うのに、「上得意様向け」といって全員に同じDM
を送ったのでは、活用の仕方としてはチラシと大差ないですよね。
これまで「主体を顧客においた分析を」と述べてきましたが、そうすることでどんな発想が生まれるか?
例えば、会員カードの有効期限の案内DMを送るとします。どんなDMを送りますか?
一般的には、というかそれが殆どなのですが「そろそろ有効期限が・・・」という内容ですね。それが良く行くお店であれば充分なのですが、たまにしか行かない
お店では来店の動機としては弱いでしょう。例えば、「出逢い記念日」として「あなたと私どもが出逢ってもう直ぐ1年になります。つきましてはささやかでは
御座いますが・・・」などとイベント化してみてはどうでしょうか?少なくとも有効期限の案内よりはインパクトがありますし、何か特別な感じがして来店の動機
にもつながり易いと思います。
他にも、会員の入会申込書に生年月日を記入して頂いておいて、お客様の誕生日に何もアプローチしていないお店が多い事に驚きます。理由はその殆どが分かって
いるけど「忙しい・人が足りない」です。分かっているならツールを使うとか何かしらの対策をすれば、ごく簡単に実現できる事なのですがね。
先述したある和菓子製造・販売のお店で顧客分析を行ってみました。デシル上位のお得意様と言えど、そのお店に出会った初年度から2年目、2年目から3年目と
その数は半減している事が判りました。要は、放っておけば離脱、つまり「顧客は突然いなくなる」のです。ですから上記の様に、お客様の動向に応じたイベント
を企画しDMにて告知する事でその離脱率を少しでも下げようと現在、努力しています。「忙しいから」というのは考え方の志向がお店や商品、つまり自分たちが
主体になっているからで、それを顧客に持っていけばその忙しさの原因追求や解決方法などが自ずと見えてきます。この事は経営者だけでは無理です。全員が顧客
志向になって考え協力しあいながら考える事で見えてくる解決策だと思います。そういう意味からも経営者を交えた月1回のミーティングは有効に働いています。
◆販促はお客様と店との心のキャッチボール。
先ほどのDMの話しの続きですが、企業規模の大小問わず、販促とりわけDM戦略を見ればそのお店の体質や志向が見えてくる気がします。
レストランや洋・和菓子店に来店されたお客様が、「誕生日を書く」「記念日を書く」などの行為に対して、お店がレスポンスを返さないというのはよくよく考える
と大変失礼ですよね。私だって、少なくとも誕生日を記入するという事は「1年に1度の事だから特別なイベントがあるのかな?」と期待に胸を膨らませています。
結果、殆どのお店から裏切られる事になるのですが・・・。お店がお客様の行為に反応しなければ、お客様の反応もまた期待出来ないというのは、当たり前の話
です。
しつこいですが、志向が顧客に向いていればその顧客心理が分かるはずです。分かれば、現場スタッフは、お客様のその期待に応えようと努力してくれます。
お客様の行動に、お店がレスポンスを返す。お客様は感動し、再びお店にレスポンスを返す。販促とは本来こういったキャッチボールの様なものではないでしょう
か。これを繰り返す事で、コミュニケーションが形成されていくのだと考えます。
◆ MROI
MROIとはとある先生から学んだ事なのですが、Marketing Return On Investmentの略です。CRMやFSP全般に必要なマーケティングについての費用対効果という意味です。
上記に注意して、とある居酒屋さんで分析してみました。複数店舗展開している企業だったのですが店長の考え方にバラつきがあり、店舗により毎月の入会会員数
が多い店や少ない店、それに連動して売上も月により変動的でした。攻める(新規入会を徹底する)タイプと、守る(既存客を守る)タイプと、個性が強かったの
でしょうか。しかし、共通して言えるのはDMを出すとその月の売上は一定して伸びているというものでした。
そこで、DMについての効果分析をしてみました。ROIについては様々な切り口があるのですが、その際にまず行ったのは「無駄がないか?」でした。
例えば、5回DMを出しても一回も反応がなかった(売上がなかった)お客様には、緊急時以外のDMは送付しないというルールを設定したとします。その内容
で分析した結果、その居酒屋さんでは概算ではありますが、約70万円のDM代をカットできるという分析結果が出たのです。ではその70万円をどうするか?
そのお店ではデシル上位30%のお得意様で最近来店しなくなった方(要は離脱客ですね)へのクーポン券付きDMを出した結果、その内の20%が帰ってきた
という実績が既にありました。元々はお得意様だった訳ですから、20%の再来店率というのは大きいですね。コストをかけるだけの価値はあるかと思います。
この様に、前月の離脱客が多ければその呼び戻に、店舗によって新規入会者が少なければそこにコストを充てる、等その時々に充てるべき要素に必要なだけコスト
を投入するといったMROIを意識した活動を行えば、費用対効果はグングン上がっていくと思います。
◆ 従業員の気付き
顧客分析とは、販促だけでなく志向を顧客に向ける効果画ある事はこれまで述べてきました。さらにモチベーションが上がる事も同様です。
あるエステ・SPA業を営んでいるお店での話しです。
「絞り.com」を導入したてだったのですが、そこでは、チラシ・DMだけでなく、様々なメディアを使った販促活動を行っていらっしゃいました。顧客データも名前や住所などの基本情報だけでなく、入会の動機・経路や生年月日など豊富に入手できていたのです。しかし、活用が出来ていなかったとの理由で、わが社がお手伝いさせて頂く事になりました。
そこで判ったのは、お得意様は20代の若い方が多いという事です。この点は現場スタッフの方は感覚として理解していた様です。
では、入会のきっかけとなった経路を、今度はデシルランク関係なく全体で行ってみました。そのお店では、様々な雑誌や新聞などへの掲載や折込チラシを使った
告知をしていたのですが、最も入会経路として多かったのは30代の主婦層が良く見る雑誌への掲載を見たという結果が出たのです。
聞けば、その雑誌は購読者数が多いという理由で販促に力を入れていたのだそうです。ですから自然にそこからの集客数は上がります。
ここでその従業員は、デシル上位のお得意様の年代と、販促に力を入れているそのメディアでの年代にズレがある事に自ら気付きました。
「どの媒体を使うべきか?」など、トップダウンではなくボトムアップでの販促企画提案という積極性が芽生えた事例です。
◆ これから必要な育成型マーケティング(トヨタや車名は実名を出していますが、必要であれば伏せます)
さて、志向を顧客に持っていかないと先細りになると先に述べました。また、デシル分析で陥りやすい罠としてお得意様の囲い込みにだけ走るのも同様だと。
そこでセグメントという発想で、まだご利用金額が低いお客様に対して、同じ属性を持つ上位客のニーズを当てはめてランクアップを図る育成型のCRMをお奨め
しました。
ここで余談になりますが、トヨタにも同じ様な成功事例があります。
トヨタは、50代以上のご年配者にとっては絶大な信頼を得た自動車メーカーであります。一方、数年前まで若者にとっては「最も嫌いな自動車メーカー」として
ランクインしていた統計データが発表されていたのです。
「カローラから始まり、ビスタ、マークⅡ、そしていつかはクラウン・・・」というメーカー主導で形成された市場が「多様化」という現象で、若者の個々のニーズ
を満たす事ができなくなったと言えるでしょう。結果、「保守的」というブランドイメージが定着し、若者にはそれが耐えられなかった様です。
ある雑誌で、当時の幹部が「このままではクライアントと一緒に我々も棺桶にはいってしまう」(ご年配者の方々、大変な非礼をお許し下さい)と危機感を感じたと
いう記事を読みました。メーカー主導で形成された市場の購買力が無くなった時に、トヨタのシェアも激減してしまう恐れがあったという事です。
そんな思いから、トヨタはWiLL Vi(幌馬車の様な変わった車です)やヴィッツなど、これまでに無く革新的で斬新なデザインを採用した車や、プリウスの様な
新世代をイメージさせる車の開発を急いだのだと思います。
WiLLとは複数のメーカーが集まって、当時若者向けのブランドとして展開していました。WiLL Viについては、私は個人的に数を売る為の車ではなく、若者に
対するイメージアップの為の車として登場させたのでなはいかと考えています。
また、当時までは自動車マーケットについて、「安全性やエコロジーなどは商品力にはならない」と定説化されていたのに対し、プリウスの(あまりに早い)登場は
その定説を大きく覆す形となりました。
この様な取り組みの結果、先ほどの統計から数年後には若者にとって「最も好きなメーカー」に逆転したのです。育成型のマーケティングが徹底しているのでしょう。
この話しをすると大抵の方が、「それは大企業だからできる事だ」とのご指摘を受けます。
では私の個人的な話で、この様な事がありました。これならどうでしょうか?
あるカーグッズ販売店での話しです。
当時、私は大学生でした。両親に借金しやっとの思いで念願のマイカーを手に入れたのですが、中古車ゆえにタイヤが相当磨耗していました。そこで、そのお店に
タイヤを見に行ったのですが、当時の私にとってタイヤはあまりに高額で、安くて良いものを・・・と何度も何度も店に通っておりました。
私は少ないながらも小売業の経験があるので分かるのですが、1日営業していると数十万円の買い物をして下さるお客様は何人もいらっしゃいます。ところが、当時
の私にとって4本セットで数万円でも大変な買い物です。忙しい店員にとってはあまり嬉しくない客であった事でしょう。(このあたりの店側とお客様との意識の
乖離が実はCRMを阻害している大きな要因なのだと思うのですが。)
何度お店に通ったかも忘れてしまいましたが、結果、クレジットで何とか安いタイヤを購入する事にしました。今思えば、セットで数万円の買い物はお店にとっては
接客にかかった工数を考えると赤字であったろうな、と考えます。しかし、次の月に販売担当であった店長から手書きでこんなDMが送られてきました。
「あなたが選んだタイヤは、雨の日に強く、きっと安全に運転できる事でしょう。選択は間違っていなかったと思います。どうぞこれからも安全運転で・・・」
という内容で、キャンペーンの案内でも最近流行りのクーポンが付いている訳でもありませんでした。しかし、私はあまりに感動して涙を流してしまったほどです。
ちなみにこのお店は全国チェーンのお店です。そのお店からこの様な扱いを受けた事があまり嬉しくて、一発でファンになってしまったのです。それからは、私は
社会人になってもその店長が転職されるまでその方からしか購入しませんでした。
当時学生であった私の購買力を考えると、その行為は無駄に思えるかもしれませんが、そのお客様が社会人になったら当店を・私を気に入って下さる様に、との
育成型発想がなければ出来ない事だと思います。
これならどうでしょうか。凄く良く出来すぎたCRMストーリーですが、実話です。
◆これまでのヒット商品を振り返る
一昨年から大流行している、カテキンが多く含まれており飲み続けると体脂肪が減るというお茶である。皆さんもご存知の事と思います。
競合商品は、飲むと血糖値が減るというお茶だが、当初350mlで180円という価格設定は業界的に(今風に言えば)「ありえない!」設定であったらしいのです。
しかし、そのメーカーがマーケティングした結果、30~40代のサラリーマンにとって気になるのは「血糖値」ではなく「体脂肪」というものでした。調査結果
だけをみれば「当然じゃないか」と思いますが、しかしながら他のどのメーカーもそこに着眼していなかったのです。
結果、高価格というデメリットよりも、「体脂肪減」という付加価値をサラリーマンは評価し、ご存知の空前のヒット商品となりました。何を隠そう、コストには
大変シビアなわが社の社長も、その付加価値に投資し続けています・・・。
また、ある缶コーヒーのヒット作も同様です。メーカーの調査結果によると缶コーヒーを消費しているのは大半がサラリーマンであるのと結果でした。この点は
業界の定説らしく、どのメーカーでも把握していたはずです。しかし、そのメーカーはニーズだけでなく利用背景にまで着眼したのです。
「どんな時に、缶コーヒーを飲みますか?」皆さんはどうでしょうか?
結果は、通勤中にバスや電車を待つ時や、会社に着いて準備している(PC立ち上げなど)時、などの具体的シーンが明らかになってきました。
そこで、「朝」というシーンに合わせた商品名、CMも朝という時間帯よろしく好感度が高いタレントを起用し内容も会社員向けにする、などの徹底振りのお蔭で、
スマッシュヒットとなったのです。
最近良く見る高級カップ麺ですが、これも以前は200円前後のインスタントカップ麺は業界としては懐疑的であった様です。
それまでの調査によると、カップ麺を購入している方の多くが、(足りないので)おにぎり等をセットで購入しているという結果がでました。ですから、200円の
カップ麺におにぎり等を加えると、コンビニ弁当の価格帯に限りなく近づいていくので勝てないとの意見が大半であったらしいのです。
ここからは逆転の発想です。であれば、カップ麺だけで満足できる商品を作れば200円でも高価格ではなくなる、として(それまで麺にこだわった商品はありましたが)具にこだわった商品を作り、これまたヒット作となりました。
他にも色々あります。アイスクリームの場合、消費している多くの女性から「大きすぎる」「しつこすぎる」との顧客の声が寄せられた為、アッサリめで小ぶりの
カップアイスを開発したら売れたとか。
◆最後に
色々と私なりにCRMや販促について語ってきましたが、いかがでしょうか。どの成功事例も結果を聞けば大した内容ではありませんし、どの経営者に伺っても
「そんな事は分かっている」とお答えになります。しかし、企業を組織化すればする程、それぞれの仕事が専門的になり過ぎて、セクション間での意思の疎通が
上手く行えなくなったり、またトップダウンによる決定が多くなり過ぎて現場の「考える力」が弱くなったり、結果「商品・お店志向」になったりと、様々な理由で
「当たり前の事」が「当たり前の様に」出来なくなってしまったお店があまりに多い様な気がします。
折角、日々の業務の中で蓄積されている売上・顧客情報なのですから、是非、一度活用してみて下さい。本当に色々な事が判明します。ただ、商品分析ではなく、
顧客分析をしてみて下さい。あくまで主体は「人」です。先述のヒット商品も全ての答えは「消費者とその声」にありました。
CRMに企業規模は関係ないと思います。今後、皆さんのCRM実践のお役に立つことができれば幸いです。