尖る | 群衆コラム

群衆コラム

耳目を惹きつけて止まない話題の数々。
僭越ながらお届けいたします。

「MERU」という映画を見てきた

ヒマラヤのメルー中央峰。

その登攀を記録したドキュメンタリー映画である。



この映画のことを聞いたときには

もう近場での上映は終わっていたので、

わざわざ横浜まで行った。



横浜の映画館。

横浜は都会だから、

立派な映画館を勝手に想像していたが、

実際はじつに地味な映画館だった。

前を2回も通ったのに気づかなかったほどである。

やっと気がついて入ろうとしたら、

入り口に男の人が立っていて、

「19時からの上映なので18時50分にならないと入れません」

という。

スクリーンがひとつしかなく、

まだ前の回の上映中だかららしい。



チケット売り場から5歩歩いたら

もう客席のある部屋の扉に手が届く。

トイレは客席の一番後ろについていて、

男性用だと便器が3つ並んでいるが、

真ん中に一人立つと

両端の便器は実質使えなくなるほど狭い。

ひと言でいえば、

「ザ・昭和の映画館」なのである。



こういう映画館はわたしの住む街にもあった。

でも10年前に閉館し、いまは駐車場になっている。

その駐車場が驚くほど狭くて、

いかに小さな映画館だったのか

いまさらながら思い知らされる。



わたしの街で滅びた映画館が

横浜ではまだ生き延びていて、

しかも尖ったチョイスの映画をやっている。



メルー中央峰は「シャークス・フィン」と呼ばれる。

まさにサメの背びれのように尖った岩壁である。

そんなところに命がけで登りたい人も尖っているし、

そんな人たちの映画を見に来る人も

どちらかといえば尖っていると思う。

そして、そんな映画を上映するのは

尖った昭和の映画館。



映画「MERU」のキャッチフレーズは

「理由がないから、夢がある」。

もう二度と来ないかもしれないけれど、

来た甲斐はあった。