部屋の中の冬山 | 群衆コラム

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耳目を惹きつけて止まない話題の数々。
僭越ながらお届けいたします。

寒さ対策として、雨戸を閉めていた。

それはどうもあまり意味のないことだったらしい。

冷気は雨戸があっても

関係なく入ってくると何かで読んで、

たしかにそうかもしれないと思い当たった。



この冬は毎日雨戸を閉めて寝ているが、

考えてみると特別よかったことはない。

なんかきっちり生活している感じがする。

それはよかった。

でも、気分的なものだ。

部屋は暖かくなっていない。

朝、寒くて目が覚めるのはずっと同じだった。



雨戸を閉めるのは悪いことではない。

しかし、寒さ対策は期待できない。

新しく仕掛けを考えないと、

寒くて起きる朝が続いてしまう。

われながら寒さとの相性が悪い。

冬の高い山には登れないなとたびたび思う。



もう我慢してもしょうがない。

カーテンの内側、つまりサッシとカーテンの間に

ビニールの断熱カーテンを入れることにした。

この技は前から知っていたが、

あまり使いたくなかった。

カーテンがビニールというのが

嫌だったからである。

プールのシャワーの入り口についているカーテンや、

冷凍食品を作る工場の入り口に

張ってあるようなカーテンを連想してしまう。



しかし、四の五の言ってはいられない。

暖かくなるのだったらやってみる価値はある。

寒さは切実な問題である。

大げさにいえば、

命をちょっとくらい削っているかもしれない。

なにしろ冬の山みたいに寒いのだから。

これもまた、大げさに言っている。



前に住んでいた家は

いまの家どころではなく寒かったけれど、

寒さ対策はほとんどしていなかった。

寒い地方だしこんなもんでしょう、

と思っていた。

思い込みの力はおそろしい。

みんな寒さに耐えている。

だから自分も耐えられる。

見えない仲間と手を取り合って

厳しい冬を乗り越えてきた、つもりだった。



しかし、快適な生活があるとわかってしまった。

寒さをともに耐える仲間もいなかった。

毎朝、凍った扉にタックルしていたのは

わたしだけだった。

もういいや。

ビニールのカーテンを張ってやった。



翌朝は寒さでなくて、アラームで目が覚めた。

こんなに簡単なら、早くやればよかった。

カーテンの威力とはそんなにすごいものなのか。

それを確かめたくて、

わたしはビニールのカーテンをめくった。

ガラスの引き戸が、

内側から凍り付いていた。

あの冬山はどこかに行ったわけでなく、

ガラスから10センチの空間に封じ込められていた。

ああそうか。

寒さは追い出すことも防ぐことも

できないものなのだな、と思った。

ただ春を待つ。