縄文海進と海退  - 奥東京湾の海水位変動 | プロムナード

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先日、埼玉県蓮田市にある郷土資料館に行ったのだが、縄文海進について時代的にとても詳しい図説があったので、それを基に関東平野の海進についてまとめてみた。

海進とは気候温暖化によって海面の高さが上昇し、海岸が内陸まで押し寄せてくる現象のことで、地質時代でいう第四紀のうち比較的最近起きた大きな海進としては縄文海進、またの名を有楽町海進が知られており、関東地方にある博物館や郷土資料館では、縄文時代の説明書きでよく見られる。

縄文海進は英語で「Jomon Marine Transgression」といい、最終氷期最盛期(LGM:Last Glacial Maximum)の終了後、約6000年前ごろの縄文草創期~前期に起きた海進である。層序年代で言うと、第四紀完新世のノースグリッピアンの時期だ。埼玉県では、この縄文海進の最盛期の貝塚として最奥部の篠山貝塚を始め、黒浜、大針、木津内、本郷、関山、幸田、水子といった貝塚が知られている。
各地質時代を下に示す。
因みにチバニアンというのは、日本語にすると「千葉時代」という世界共通の名称(予定)。いくつかの審査を経て、小生はこれに決まると信じている。

 

 

海進に対し、逆に海岸線が後退していくことは海退というが、海進から海退へと変化する変遷は、産出する珪藻類の化石が海水性から淡水性へと変わっていくことを観察することによって推察が可能だ。また、当時の海岸線に就いては遺跡として出現する貝塚の所在地によっても推測が可能だが、自然のままのマガキ礁の確認は貝塚にも増して海岸線を見極める極めて有効な手段である。なぜなら、マガキ礁は汽水域に形成されやすいことから海岸線の位置を示すと考えらえる上、礁となっているために死後移動があったとは考え難いからだ。

この海進海退のメカニズムは、単に気候の温暖化に伴って大陸にある氷床、例えば南極にある氷やアルプスにある氷河の様な巨大な氷の塊が融解し、海へと注ぎ込むことによって海面の水位が上がるということだけではなく、氷床が消滅することによって、マグマに浮かんでいる状態にある大陸の重量的な均衡バランスも関わってくるので、解析は大変複雑である。また、温暖化による海水の膨張も関係してくる。因みに、2000年から2010年の海面上昇率は、この海水膨張と陸上からの淡水流入(主に南極から)によって1~2㎜/年とされている。


色々な資料によると、海水位に就いては大体次の様になる。

  1.8万年前~2万年前    -100m
  1万年前               -40m
  7500~7000年前        -10m
  6500~5500年前         +4m
  5000年前               +2m


    
次の図は、郷土資料館に掲示されていた6500年前から4000年前までの海進海退の様子の一部を年代別に比較したものだ。

 

これを見ると、5500年前から5250年前までの250年の間の海退が大きく、群馬県板倉まで奥東京湾が食い込んでいたことがわかる。

 

海進に就いては参考文献があるが、海退についてはあまり見かけない。そこで海退の状態について調べてみることにした。

 

 

ちなみに、群馬県板倉ではこの様な貝塚が発見されているらしい(寺西貝塚:板倉町文化財資料館)。これは最も海進が進んで奥東京湾が群馬県まで食い込んでいた6000年前頃の貝塚だと思われる。

 

 

5500年前から5250年前までの250年間の間に、実際にどの程度海面が低くなったのかを調べるため、群馬県板倉から埼玉県春日部までの断面図を基にグラフ化してみた。

 

断面図に就いては、埼玉大学教育学部人文地理学 谷謙二研究室によるWeb断面図を用いた。

 

 

このA点が群馬県板倉、B点が埼玉県春日部である。

 

 

この図に海退推移を書き込むと次のようになった。実際の海岸線の場所がかなりラフなので誤差も大きいとは思うが、大体の傾向はつかめると思う。

 

 

まとめ:

6000年前から5500年前までの500年間で海面は1mさがり、5km後退。

5500年前から5250年前までの250年間で海面は5mさがり、13km後退。

5250年前から5000年前までの250年間で海面は1mさがり、7km後退。

 

これを見ると、5500年前から5250年前の250年間の海退はその前後の250年に比べると10倍も海退速度が早く、海面は5m低くなったことがわかる。

 

通常、気温上昇が生じると陸上にある氷床が溶解して海へ流れ込むので、早い速度で海面が上昇するが、逆に気温の降下が生じた場合は、降雪などによる氷床の形成に長い時間を要するため、海退速度は遅いとされている。しかし、この奥東京湾の海退を見る限りでは、ずいぶん早い速度で海退が進んだように見えるのが興味深い。

 

参考文献:

井関 弘太郎 沖積平野、東京大学出版会

日本第四紀学会 日本の第四紀研究

日本第四紀学会 地球史が語る近未来の環境

 

展示資料:

板倉町文化財資料館

埼玉県立歴史博物館

さいたま市立博物館

蓮田市郷土資料館

伊奈町郷土資料館