ヨーグルトが健康に及ぼす効果に就いては古今東西色々研究され、実際に立証もされている様だが、効果は摂取を継続することによって現れるらしい。ということは毎日摂取することが望ましいということになるのだが、コストセーブするためには自家培養するのが最も経済的だ。そういう極めて安直な考えからヨーグルトメーカーを調達して日夜ヨーグルトの発酵を試みたのだが、
既に100代目を超えており、カップにすると千カップ分のヨーグルトを1個のカップから培養しているので、経済性は抜群だ。
拙宅では写真のヨーグルトメーカーを使用している。近場のリサイクルショップで買った新古品で、タイマーも温度調節も何もついていない最もシンプルなものであり、定価で買っても恐らく2000円程度のものだろう。写真を見ると時間を示す表にダイヤルの様なものが見えるが、これは単に製造開始時刻をセットするだけのもので、タイマーではない。
このメーカーを使って発酵させる方法は、スーパーやコンビニで売っている内容量112gのヨーグルトカップを1リットルタイプの牛乳パックに入れてかき混ぜ、ヨーグルトメーカーに入れて数時間加熱。出来上がったヨーグルトの一部を「タネ」として再び別の牛乳パックで培養させるという方法なのだが、品質の歩留まり的には、これが意外と難しい。押しなべて2~3本目の発酵から牛乳が固まらなくなったり、固まったとしても大量の乳清が同時発生し、まるで湯の中にフニャフニャな豆腐が浮いている様な品質となってしまうのだ。
しかし何度か繰り返していると発酵でのプロセス条件によって出来不出来があることが分かってきた。つまり試行錯誤すれば歩留まりの良い製造方法が見出せそうだということになり、製造のプロセスを徹底的に管理し、カットアンドトライによって安定な歩留まり方法を模索してみた。その結果から、発酵に当たって重要なカギは温度と時間、そしてなるべく空気に触れさせないようにするということだということが分かった。これらのエッセンスをまとめておこう。
差し当って最も重要な要素の一つである「嫌気性」に就いて記述する。
細菌には好気性と嫌気性の二種類がある。
- 【好気性:】 生育に酸素を必要とする生物。体内に、酸素によって生成される有害な過酸化水素等を分解するカタラーゼ酵素を持っている。
- 【嫌気性:】 生育に酸素を必要としない生物。
この嫌気性には更に二つの種類がある。
- . 通性嫌気性: 酸素があるときには好気性呼吸を行ない、酸素が無い場合には嫌気性呼吸による発酵にてエネルギーを得られる様に代謝を切り替える。つまり、酸素があってもなくても良いということだ。ヨーグルトのブルガリア菌やサーモフィラス菌などはこの通性嫌気性菌である。
- 偏性嫌気性: 酸素があると死滅する生物。ヨーグルトのビフィズス菌などはこの偏性嫌気性だ。現在、拙宅で発酵に使用している菌は、コンビニなどで売られているLG21のカップ。ピロリ菌駆除に効果があると言われるこのLG21ヨーグルトは、乳酸菌のひとつ「LG21」(ラクトバチルス族・ガッセリー21菌)と、ブルガリア菌とサーモフィラス菌という乳酸菌が混合されたものだが、LG21菌は偏性嫌気性の乳酸菌なので酸素に当たると死滅してしまう。一方、混合されているブルガリア菌とサーモフィラス菌は通性嫌気性。このブルガリア菌とサーモフィラス菌を一緒に混ぜると、サーモフィラス菌がブルガリア菌の生育に必要な蟻酸が生成され、それによってブルガリア菌が増殖し、ブルガリア菌によってサーモフィラス菌も増殖するという相乗効果システムが構築されるそうだ。
拙宅ではこのLG21を用い、すでに代を重ねること100代を超えているが、発酵しているのは当初の偏性嫌気性LG21ではなく、通性嫌気性乳酸菌であるブルガリア菌とサーモフィラス菌であると考えられるが、それでもヨーグルトとしてはヨーグルトであり、風味などは当初のものと比べて遜色のない品質のものが生産され続けている。
さて、拙宅でのカットアンドトライの結果として安定生産が確立された方法を紹介する。
1.牛乳
発酵に用いる牛乳は低脂肪や成分調整牛乳ではなく、生乳100%無調整の牛乳を使用する。ヨーグルト菌は事のほか、他の細菌に弱いらしいので、雑菌が繁殖していない新鮮な牛乳を使用することが大切だ。ヨーグルト発酵に用いる場合には、滅菌度の低い低温殺菌タイプではなく、通常の高温殺菌処理牛乳を用いる。
文献によっては、容器などを煮沸消毒する必要があると書かれているものも散見されるが、そこまで神経質になる必要はない。
2.温度
とにかく素人が家で作ろうというのだから、温度管理は市販されているヨーグルトメーカーに頼るのが一番だ。機種によってはカスピ海ヨーグルト対応の低温管理と通常の高音管理の二種類が選べるヨーグルトメーカーもあるが、拙宅では高音管理しかできない一番安価なものだ。専用カップで培養するものと、牛乳パックをそのまま入れるものとがあるが、拙宅で使用している機種は牛乳パックをそのまま入れるタイプのメーカーで、この方が容器を洗う手間が無くて済む。
この機種でパック内部の温度上昇を計測してみたのが次の図。ただしこれはヨーグルト製造の過程ではなく、水道水を用いて計ったものだ。大体45℃ぐらいが上昇点となっている。ヨーグルト生成過程では、経時によって液体からゲル状に変化するので、対流が緩慢になるなど水とは異なる特性になると考えられるが、ここでは大まかな温度変動を見る目的だけなので、この程度の計測としてある。
3.攪拌
ヨーグルトメーカーに入れて加熱する前に、よく攪拌することが大切。ただし菌が嫌気性であることを鑑み、攪拌によって空気が入らないようにする。また、加熱始めたら自然体流に任せ、その後は攪拌しなくてよい。
4.培養時間
拙宅のヨーグルトメーカーにはタイマーが付いていないので、電気量販店などで販売されている1000円程度のタイマーを付けた。それでもタイマー付きのヨーグルトメーカーよりも安く構成できる。
発酵時間に就いては4時間、4時間半、5時間、5時間半、6時間、6時間半、7時間という幾つかの時間で試行してみた。これ等の結果、最適な時間は6時間であった。それ以下だと固まりが緩く、それ以上だと発酵が進みすぎて酸味が強くなる。
5.冷却
タイマーが停止した後、30分~1時間ぐらい自然放熱させてから冷蔵庫へ格納する。自然放熱させなくても問題はないが、暖かいものを冷蔵庫に入れると庫内温度が上昇してしまうので、若干自然放熱させるとよい。
6.タネの採取
ヨーグルトの乳酸菌の多くは、先に述べた通性嫌気性だ。このことを理解しておくと、培養する時になるべく空気に触れないことが重要だと理解できる。これ等の事から、タネとなる菌は出来上がったヨーグルトのうち、中央部分の空気に触れていないところから採取する。出来上がったヨーグルトを見ると、上の方が中や下よりも固まり具合がいいので、当初、そこをタネに使用してみたのだが長続きしなかった。理由は空気に触れているためだろうと考えられる。採取量は元の容器であったカップ1個分で十分。但し少なすぎると1リットルの牛乳では発酵しきれなくなる。
7.タネの保管
種を保管するには樹脂の蓋で密閉出来るガラスの入れ物が良い。プラスチック製の入れ物でもよいかもしれないが、洗う時に傷が付いてそこに雑菌が残っていたりする可能性もあるのでガラスの方がよい。拙宅で用いている容器は100均で調達したこの容器。冷蔵庫に保管していても発酵は進むため、凍結しない範囲で、なるべく温度の低いところに保管する。
これで完了だ。
あとはこのプロセスを繰り返せばよい。先にも述べたが、この方法で既に100代目となっていて、色も味も見た目も一代目と比べて何ら遜色はない。
こうやって製造した自家製ヨーグルトに、これまた自家製のブラックベリージャムをトッピングすると、これが美味なのだ。