現在、千葉県の幕張ではCEATECという展示会が開催されている。このCEATECは、主にデジタル家電を中心とする年一度の展示会で、各社の最新機器が一同に介するという展示会でもあり、各マスコミでも大いに報道される大規模な展示会だ。
その展示会の会場に出展しているJEITA(一般社団法人、電子情報技術産業協会)のブースにて、東京大学大学院情報理工学系研究科の廣瀬通孝教授のプレゼンテーションステージがあった。元々はVR(バーチャルリアリティ)研究の権威だが、今回の演題は「ポストTVを担うVR」というタイトル。
講演要旨は、
「わが国におけるTV放送が始まって約60年である。TVは今なお我々の生活の中において大きな存在感を有している。一方、VRに代表されるコンピュータをベースとしたインタラクティブな映像メディアは、その没入感においてTVをはるかに凌駕すると同時に、インタラクティブであるという点においても、次元を異にする。VRは、TVというコンピュータなき時代に誕生したメディアを超えることができるのだろうか。本講演では、VR技術のいまとこれからについて紹介する。」
というもの。
教授の年齢が小生と全く同じということもあり、何か特別な親近感も感じられたが、終始にこやかな口調での講演は大変分かりやすく、一時間の講演が極めて短く感じた。こういう教授の下で勉学できる学生は羨ましいと痛切した次第でもある。
論旨は、今後の映像機器はどう展開していくべきか、というひとつのアドバイスのプレゼンテーションだったのだが、小生、昨今のテレビ製品が「競合に負けないために新しく開発しちゃったもんだから、売らなくちゃならない」とか、「価格下落を防ぐために、新機能を開発した」とか、とにかく消費者が必ずしも望んではいない様々なハードウェア的機能が追加されて今日に至っているテレビ受像機、早い話、消費者不在のまま技術革新のみで製品化が進んでいるという現状に疑問を感じていたのだが、それに対するひとつの解として大変興味深い話だった。小生も、これまでそうしたテレビの新機能技術に携わってきたので、なおさらでもある。
現代は、少なくとも我国に於いては人口という母数が減少している上に若年層がテレビを見なくなっているという、
つまり、現代は「テレビを見る人口がどんどん減ってきている」という現状を無視できない状態にある。
人口問題はテレビメーカーに責任はないが、若年層のテレビ離れは、同じメーカーによるモバイル機器開発が大いに影響を与えているともいえよう。彼等が動画を見ないということでは決してない。手軽に動画を必要に応じて必要なだけ、いつでもどこでも見れる環境になってきているのだから、わざわざテレビの前に座る必要がなくなったということなのだ。
つまり、これまでテレビが出来なかったインタラクティブ性をモバイル機器が実現するようになったともいえよう。これは映像機器としてのひとつの解でもある。逆に言うと、茶の間やリビングの中央に設置されたテレビが出来るインタラクティブ性など、若年層には何の魅力もないということになるのだろう。
さて、この講演の中で興味深いアプローチのひとつに、
「心理学的効果」をテレビ技術に導入する
という提案だった。
面白い実験結果の紹介があった。それは、画面にマウスのポインタを表示しておいてマウスを横にずらしたときに、ある境を越えるとマウスポインタが画面上で停止するというプログラムになっていると、被験者はマウスが停止した時、マウスを持つ手に無意識に力が入るのだそうだ。つまり映像から得られた情報が行動に出るという結果を表しているという。
こういう例はたくさんあるとのことだったが、映像から得た情報によって心理的に行動へ影響を及ぼすということ、考えてみれば自然なことなのだが、VRの世界に於いて心理学的な分析結果のソフトウェア(コンテンツ)への反映は未解決な気がする。これは技術者によるハードウェアの開発よりも、プロデューサによるコンテンツ制作に問題があるのではないだろうか。
もちろん、高度な仕組みをリアルタイムで信号処理するハードウェア技術は大変重要ではあるが、解像度や画素応答性といった画像描写技術はその時の最新技術を使うとしても、それらを十分に活用できるソフトウェアとしてのコンテンツがどうも貧弱な気がするのだ。
今後、コンテンツ制作者は心理学を取り入れて消費者嗜好に沿ったコンテンツを制作すること、またハードウェア技術者はそのコンテンツをリアルタイム処理できる技術を開発することが必要であり、今、まさにそういったコラボレーションが必要な時期になっていると思う。
ところで、この講演の中で教授は
「日本は観光資源国だ」と語った。
なるほどと思う。
日本には天然資源がないから「ものつくり」に専念すべき云々というが、観光資源は山の様にある。考えてみれば他国、国によっては観光資源だけで成り立っている国もあるわけだから、この資源を活用しない手はない。しかも「ものつくり」能力には長けているわけだから、資源を活用するような「ものつくり」は、元手のかからない産業として成り立つ気がする。
教授が参考例として見せた一つの事例は、街角に立ってスマホなりタブレットをかざすと、カメラで捉えたチェックポイントをトリガーとしてその地点から見た古(いにしえ)の時代の景色が画面上に描画されるというバーチャルリアリティだった。これなど、既に映像機器はモバイル化しているという現状を鑑みれば、お茶の間で古い街角を眺めるよりも、よほどインパクトがありそうだ。
先日、このブログで今は暗渠化している藍染川を追った小旅行を紹介したが、もしもこういったアプリやコンテンツがあれば、そんな散歩も楽しいものになる、そんな気がした。
