…あるメーカーが新しい坑がん剤を開発していたとしよう。治験に持ち込むのは、動物実験が終わった段階で、人間にも効果があるかどうか、臨床実験を行い、フェイズ1とフェイズ2を経てFDAの認可を受けるというのが、一般的な新薬開発の流れとなる。
フェイズ1、フェイズ2の臨床実験は「治療」が目的ではない。単に「薬の使い方」のマニュアルを作っているだけなのだ。
人間に使って効果があるかどうかは建前にすぎない。フェイズ1の実験目的は薬量の適正値を知ること。わかりやすく言えば、どのくらい薬を使うと「危険」なのか、患者の体を使って試すのである。最初は小量から始めて、どんどん投与量を増やし「致死量」と「副作用で廃人になる量」を確認するのがフェイズ1なのである。
フェイズ1で使用薬量の目安、基準が判別すれば、次は実用化を想定した使用方法のマニュアル化に取り組む。治験者の数を大量に増やし、体重差、性差、年齢差、人種差、病状の度合い差など、あらゆるケースを想定しながら、その差による使用量を確認していく。これがフェイズ2なのだ。
どこまでが「ヤバいか」、何をすれば「マズいか」、どれが危険信号なのか、ケースバイケースを把握するために医師たちは「危険」な領域にチャレンジする。
ヤバいかな、あ、大丈夫か、じゃあ、もうちょっと増やすか、間隔はどうか? 連続使用回数は何回なんだろう…。
当然、このフェイズ2では、かなりの犠牲者が出る。抗がん剤のような強力な副作用を持つ薬の場合、軽く100人オーダーで死者が出る。そして医薬品メーカーの臨床試験に協力した医師たちは、こういうのだ。
「今後、副作用で死者を出さないためには、このフェイズ2で、あらゆるリスクを潰す必要がある。尊い犠牲が医薬の未来を切り開く」、と。だが、その本音はこうだ。「ビンボー人は、金持ちが使う薬のために命を差し出せ!」
◆なぜ4600万人もの無保険者がいたのか
フェイズ2が終了すればFDA(食品薬品局)の認可がおりる。ここで読者に、ぜひ、知っておいてほしいのは「薬効」が認められて認可されたわけではないということだ。ぶっちゃけ、薬効ゼロでもフェイズ2が終わっていれば認可を受ける。FDAの認可基準は、「安全」な使用方法が確認できているか、どうかだけなのだ。…
『人殺し医療』
から抜粋。