…しかし世界を圧倒している意味でいうならば、医療品が断トツなのである。
そのシンボルが世界最大の製薬メーカー「ファイザー製薬」である。年間売上6兆円、うち純利益1兆円、なんと利益率17%というお化け企業こそが、アメリカ産業のボスなのである。他にも売上高3.5兆円で世界第3位の「メルク」など、上位トップテンのうち5社がランクイン、世界の医薬品市場80兆円(2006)の約半分以上をアメリカ企業が叩き出している。アメリカは医療分野で、文字通り最強なのである。
世界の半分の医療ビジネスを牛耳っていながら、なぜ年間78万人も医原病でなくなり、4600万人が無保険状態になっているのか、不思議な気がしてこよう。
逆なのだ。アメリカが世界最強の医療ビジネスを展開しているために、これだけの人が亡くなり、これほど多くの人が、まっとうな医療を受けられなくなってしまったのだ。
アメリカの医療品メーカーが躍進してきたのは新薬の開発スピードにある。世界のライバル企業に比べ、アメリカ企業は「治験」のスピードが圧倒的に速いのだ。
アメリカでは新薬開発の臨床試験に協力する人が非常に多く、あっという間にデータが揃ってFDA(アメリカ食品医薬品局)の認可を受け、いち早く世界で販売を開始する。この開発スピードを支えているのが、そう、4600万人の無保険者たちなのである。
構造は簡単だ。4600万人にのぼる無保険状態の人が病気や怪我をした場合、当たり前だが、普通の病院では治療拒否を受けるし、正規の料金はバカ高い。なにせ医者の「言い値」なのだ。
無保険状態の人が病院で医者に診察してもらうには、正真正銘、病状を悪化させてぶっ倒れるか、もしくは死にかけるしかないのが実情なのである。
そこまで追い詰められているから「治験」が効いてくる。
治験とは医薬品開発、新しい医療器具の実験、さらに新しい治療法を考案した医師の研究に協力することだ。医薬品メーカー、医療器具メーカー、大学医学部の研究チームに協力するなら、ちゃんとした病院で治療して、医療費をタダにして、内容によっては「協力謝礼」を支払ってやる、そう、病気で苦しんでいる人に「悪魔の囁き」をするわけだ。
悪魔の囁き、と書いた。あながち間違いではない。新薬開発、新器具開発、新治療法開発は、はっきりいえば「人体実験」だからである。…
『人殺し医療』
から抜粋。