続き


書いといてアレだけどちょっといたたまれない話ばっかり真顔




4月20日


寝たのも遅かったのに、朝早くに起床。


純麗ちゃんはもうお出かけしてていなかった。


ごめんねと、話してくれてありがとうが来てた武田くんへのLINEを返す。


“私が勝手に勘違いしちゃっただけだから”


多分、俺が悪かったんだから謝らないでって返信が来るのを期待してたんだと思う。


でも返ってきたのは、


“そんなこと言わせちゃってごめんね”


だった。


あーー。


ほんっとーにただの勘違いだったんだ。


武田くん的には友達だったんだ。


両想いなんかじゃなかったんだ。


ベットの中でボーッとしていると、愛梨ちゃんが部屋にやってくる。


「やっほー」


部屋に入ってきて純麗ちゃんのベットに寝転がる。


(あー、純麗ちゃん、ベットに人上げて大丈夫な人かなぁ…)


注意する気力もない。


そういえば、愛梨ちゃんには冷たい態度を取っちゃったんだよな…。


「愛梨ちゃん、ごめんね…」


「ん?何が?」


「ん……。」


何が?

いい人がいるって話をしなかったこと?

冷たい態度を取っちゃったこと?

一から全部話そうか?

でも、何からどう説明しようか。


「んーーー……」


「なんかよくわかんないけどいいよ!」


あーー。泣きそ。


「……ありがと」


黙って隣にいてくれる愛梨ちゃんに感謝しながら、色んな考えが頭の中をぐるぐる。


てか、私別に告白した訳でもないのに。

武田くん的には、私はただの友達だったわけで。

彼女いることを責められる道理なくない?

なんで申し訳なさそうにしているんだろうか。

それはやっぱり、向こうにも下心があったから?


でも、本人から直接聞いたわけじゃない。


話さなきゃ分からない。


“散歩でもロビーででも、今からちょっと話したい”


昨日だって結局、なんにも話せてないし。


“もちろん。2人で?砂子も呼んだほうがいい?”


“2人で”


愛梨ちゃんに、ちょっとお話したい人がいるから行ってくるね、と言って部屋を出る。


「来てくれてありがとう」


「ううん、話す時間くれてありがとう」


2人で、ひたすら話を聞きながら散歩。


最初なんで散歩誘ってくれたの?

友達として仲良くなりたかった。


彼女いること、言う気はあったんだよね?

うん。でも仲良くなるにつれてタイミングが分からなくなった。


いつ言う気だったの?

土日には言わなきゃって思ってた。


私に恋愛感情はなかった?

なかったとは言いきれない。いいなって思ったりもした。


私が武田くんの立場だったら、私のことを勘違いして痛いヤツとか思ったと思う。

それはない。俺もそっちの立場なら勘違いした。俺が悪く思うことは絶対にない。


……うん。全部聞いた。

ほんと?全部?

……嘘。まだ出てくるかも。

いつでも聞いて。なんでも答える。

ありがとう。もう、友達だよね!

うん、友達。…ありがとうね

ううん。


気まずさをなくそうと思って、男子数人誘ってコストコ一緒に行く?って聞いたけど、もう男子だけで予定があるみたいだった。


なら、明日一緒に遊ぼっかってなる。


そんなことを言いながらホテルに戻ってくる。


ホテルの前の喫煙所を見て、思い出して聞いてみる。


「会う時にコソコソしてたのはなんで?友達なら堂々と会うよねって思ってた」


「……たしかに。…男と女だし、見られたら色々言われて迷惑かけるかなって思った」


もう部屋に帰れるのに、なんだか話が尽きなくてただ立ち止まって会話をする。


「研修が終わったらさ、どうするつもりだった?」


武田くんが言う。

今考えたら、これってなんて残酷な質問。


私と武田くんは配属先がすごく遠くに離れてる。

もし付き合えていたとしても、遠距離恋愛になっていたわけで。


「…今まで通りLINEできたら楽しいかなとかって。でも、何も考えてなかったな…」


「そっか。…研修中、ほとんど俺と一緒にいたじゃん?ムダな時間だった?」


「……。…ううん。ムダじゃない。楽しかったよ」


「でも、もっと色んな人と仲良くなれてたかもよ」


「それでも楽しかったからムダじゃない。武田くんを通して仲良くなった人もいたし」


その後もなんとなくまだ話を聞きたくて。


もうちょっと歩く?ってなった。


2人で話してたらやっぱり楽しいねって。


だって、こんなに話がつきない。


「一人で考えるだけだったら色々邪推しちゃって人間不信になりそうだった。やっぱり話して良かった」


スピーチの内容考えたから聞いて?と言って聞いてもらった。


もともと人見知りで友達も少なくてスピーチなんて絶対怖くてできなかったけど、研修で色んな人と仲良くなれたからできました、みたいな話。


「めちゃめちゃいいと思う。俺涙でてきた」


「ほんと?いい?信じるよ?」


「うん。俺が保証する」


「こんなになんでも本音話せた人初めて。一緒にいてすごく楽しい」


「俺も」


…うん。友達になれる。

恋愛感情抜きにしたって、一緒にいたら楽しい。

めちゃめちゃ話が合う。波長が合う。

唯一無二の、友達になれそうだ。


そこからも色んな話をして。


「…勘違いさせちゃったって言ったけど、あながち勘違いじゃなかったよ」


「…そうなの?…じゃあ、思い当たることも、全部そういうことだったって思っていい?」


「うん」


「私の気持ち、気付いてたよね?」


「…うーん。…毎日一緒にいてくれるから、もしかしたらとは思ってた」


気付けば1時間半くらい立ってた。


「やっぱり俺の目は正しかった!」


「…良い子だった?」


「うん。もーほんとにめちゃめちゃ良い子!」


「そんなことないよ。昨日もね、悪い子だから3階の部屋に行ってお酒飲んでたんだよ」


「そんなの悪いうちに入らない!」


ホテルに帰ると切建くんが喫煙所にいて。


「明日遊びに行くんだけど一緒に来る?」


「おう、行くいく!」


2人で部屋まで帰る時、あと誰を誘おうかとなって。


「砂子くん誘う?もう気まずくないってとこ見せつけよ!」


「そうだね」


女子は全員断られたので、4人で行くことになった。


部屋に帰る。


1人になったらなんだか、涙が止まらなくなって。


めちゃめちゃ泣いたけど、愛梨ちゃんを待たせてるし早く行かなきゃと思って。


泣き止む前に、愛梨ちゃんの部屋に行った。


そこにはみっちーもいて、多分私の目は真っ赤だったけど、2人とも触れないでいてくれた。


3人で外に出てバス停まで歩く。


「武田くんとどうなったの?爆笑


みっちーが聞いてくる。


「あーー、のね…、彼女いた」


「えーー!!は?まじ?キモ!!」


その後は武田くんが2人にボコボコに言われてた…キョロキョロ


武田くんとのLINEでは、見に行こうと思ってた映画を見て、カラオケに行こうかって話になった。


バスではみんな無言。


私は何も考えずに外を見てた。


コストコでは、あまり話さないみっちー、よく行くから説明をしてくる愛梨ちゃん、忘れたくてひたすら感想を言ってる私。

なかなかカオスな状態だったと思う…真顔


帰ってきて、飲みまで1時間くらいあったので各自部屋でのんびり。


私は寝ようと思ってたけど、なんとなく眠れずベッドでぼんやり。


そのまま時間になって愛梨ちゃんにLINE。


すると全然既読がつかない。


やっとついたと思ったら、自習室で勉強してた模様。えらっびっくり


みっちーは部屋をノックしたけど無反応。

多分寝てる。

ちなみにひなたちゃんは帰省中らしい。


愛梨ちゃんと合流すると、すごく泣きそうな顔をしてる。


「どうかしたの?」


「うん…。ユーロくんにね、さっき電話したんだけど…。なんか声低くて返事も薄くてさ。嫌われたのかもー!えーん


「え、なんで?なんかしたの?」


「自習室行ってて待ち合わせの時間遅れたからかなあ赤ちゃんぴえん


「えー!それだけでぇ!?」


「どうしよう、行くのすごい怖い!」


怖がる愛梨ちゃんの前に立って私が部屋をノック。


そこにはもうみんな来てて、ユーロ、シンバ、市村くん、前田くん、栗原くんがいた。


話してみるとユーロは全然普通通り。


愛梨ちゃんと2人でアイコンタクトしてたら、どうしたの?と突っ込まれて。


「ユーロくんさっき電話でめっちゃ冷たかったから。嫌われたのかと思った赤ちゃんぴえん


「え?電話?」


「あ、それ俺だよにっこり


突然の前田くん。


「えー!人違ったの!?それは気付こうよ!!」


とはいえ、電話の対応一本でこんなに不安になっちゃって。


愛梨ちゃんも、ユーロのこと気にしてるじゃないか。


そこからは、コストコで買ってきたものを食べて、飲んで。


みっちーはほんとに寝ていたようで、途中から参加。


「で、武ちゃんとどうなったの?」


「え、だからー…。いい感じーって思ってたら彼女がいたからヘコんでるの」


「え、あんなに仲良さそうだったのにさー。武ちゃんやばくない?なんか言われた?」


「思わせぶりなことしてごめんねって言われた」


「あーー…」


なぜかみんなの前で恋愛相談。


みんな納得してるけど、思わせぶりすぎどころじゃなかったからね?


「でも気まずいの嫌だから、明日4人で映画行くことにした」


そのまま、次はユーロの話になって。


「ユーロくん好きな人いるの?」


愛梨ちゃんに聞かれて、みんなでタジタジ。


多分、今いるメンバーは愛梨ちゃん以外みんな知ってる。


みんなでニヤニヤしながら二人を見てて、愛梨ちゃんはきょとんとしてる。


多分何となく察しはついてると思うけど。


“スマブラしてるよ。おいでー”


結構前に、笠原くんからLINEがきてた。


“ごめんよー”


とだけ返して、また飲む。


途中でミッキーがやってきて、シンバと栗原くんと朝まで街の方へ行くらしい。


(あれ?栗原くん、明日純麗ちゃんと遊びに行くんじゃないの?)


その後、残ったメンバーで海を見に行こうという話になった。


私、愛梨ちゃん、みっちー、ユーロ、市村くん、前田くん。


酔い覚ましも兼ねて散歩。


何となく4人で、愛梨ちゃんとユーロをいい感じにしようという共通認識を持ちながら。


着いた先は、武田くんと来た長い橋だった。


「武ちゃんといっぱい散歩したんでしょ?ここは来た?」


「うん、来た」


前田くんに聞かれて、私の返答に市村くんはヘコんでた。


椅子に座って、適当な理由をつけて4人で席を立つ。


愛梨ちゃんとユーロを残して4人で歩く。


向こう岸に公園が見えて、次はそこに行こうかなんてお話。


「あっちには行ったの?」


「うん、行ったねー」


「うわ、全部行ってんじゃん」


「…そうだねー」


前田くんとおしゃべりして、武田くんとの思い出が蘇ってヘコむ…。


時間をおいて2人の元に帰るけど、特に何も起きてないっぽい…えー


そしてまた6人で向こう岸まで歩く。


相変わらず、愛梨ちゃんとユーロをくっつけようとしたまま。


「愛梨もさぁ、絶対気付いてるよね」


「ね!気付いてないフリしてるよね!」


なんて市村くんとお話しながら。


着いた公園は、武田くんと初めて散歩で来た場所。


(あーー…)


感傷に浸ってしまう。


そのまま何も無くただ歩いて、コンビニへ。


前田くんは喉の具合が悪くて先に帰った。


5人でホテルの前を通ると、3階の全開の窓からめちゃめちゃ騒ぎ声が聞こえてきた。


男子の笑い声と、純麗ちゃんの声。


多分、スマブラで大盛り上がりしてる。


5人でユーロの部屋に帰って、ゴミの山を見て絶望。


愛梨ちゃんとユーロが、コンビニに捨てに行こうということで部屋をでる。


みっちーと市村くんと3人になって、ソファに横並びで沈黙。


「ねっむ」


「眠いねー」


「…帰る?」


「帰っちゃうかー」


「2人っきりにしてやるかー」


ということで、帰宅。


純麗ちゃん帰ってきたみたいだし、話いっぱい聞いてもらおう。


そう思って部屋に帰ると、純麗ちゃんはいなかった。


“男子の部屋でスマブラしてるよー。来る?”


LINEがきてた。


多分笠原くんが誘ってくれたやつかな。


遊んで忘れたいはずなのに、なんだか全然そんな気になれなかった。


お誘いは断って、とりあえずお風呂に入る。


その間に純麗ちゃん帰ってくるでしょ。


…と思ったけど、全然帰ってこなかった。


お風呂から上がると、市村くんから電話がきてた。


“どうしたのー?”


と返す。


“明日まじで映画行くの?”


“行くよ!気まずくなりたくない”


“行って欲しくなかった”


“恋愛感情抜きにしても話すの楽しかったから友達として仲良くなりたい。恋愛相談みたいになってごめんね”


“じゃあ応援に回るわ!”


“ほんと?ありがと!”


“普通に好きだったから悔しいけどね”


“ありがとね”


ここで終わっておけばよかったものを。


話し相手がいなくて寂しかったし

好きって言ってくれて嬉しかったし

今までの言動も実は喜んでたし


“純麗ちゃんまだ帰ってきてないんだけど電話してもいい?”


市村くんから電話してきてくれて。


普通の会話。


なんだか心地よかった。


「俺めっちゃ好きだったんだよー?」


「…うん。なんとなく気付いてたよ」


「え!?なんで!?俺そんなに分かりやすかった?」


30分くらい話が尽きなくて。


「俺ら2人ともフラれちゃったね」


「…そうだね」


「…会いたい」


「……うん」


「俺が行く?こっち来る?」


「…ん。行く」


岡崎くんは帰省中らしい。


また3階まで降りて、市村くんの部屋に入った。


「まじで風呂入ってる!はや!」


「でしょ!」


「俺、誘おうって思ってたから風呂入ってない…おねだり


「え、私を?」


「うん。だから電話したのに…おねだり


何だこの可愛い生き物。


ベットに2人で座ってお話。


「映画行くの?」


「うん。まだ気持ちの整理ついてないし。明日遊んでみてどうなるかなーって。やっぱりまだ好きってなるかもしれないし、友達になれるかもしれないし、嫌いって思うかもしれない」


「嫌いにはならないよ!武ちゃんいい人だからね」


「…そっかあ」


私の話ばかり聞いてもらって、ちょっと申し訳なくなった。


「彼女、メンヘラなんでしょ?どんな感じなの?」


「え?俺の話?」


「うん。聞きたい」


市村くんのお話も聞いて。


「彼女今までどれくらいいたの?」


「えー。長く付き合ったのは…2人?」


「長くないのも入れたら?」


「えーっと、短かったのは4人くらい」


「へー」


そして、2人でスマホゲーム。


「愛梨ちゃんとユーロどうなったかなあ…」


なんてお話。


しばらく遊んで、もう3時もすぎてて。


「やべ。ユーロからLINEきてる」


どうやら純麗ちゃんが尾瀬くんと、私を探してユーロの部屋に来たらしい。


「知らないフリしとこー口笛


私も、純麗ちゃんにLINE。


“探さないで下さい”


「純麗ちゃんと尾瀬くんもいい感じになってるのかなー?」


「そうだと思うよー?じゃなきゃ2人で出歩いたりしないよ」


なんてお話もした。


「…ここで寝るの?」


「うん。眠い」


「俺風呂入ってこようかな」


「入んなくていいよ。寝よ」


壁際で小さくなって寝ようとしていると、市村くんが覆いかぶさってきて。


ファーストキス。


「…いやだった?」


「ううん、嫌じゃないよ」


そして、もう1回。


「はじめて?」


私の横に寝転がって聞いてくる。


「…うん。はじめて」


そこからは濃厚なのを。


市村くんはすごく興奮してて、私はなぜか冷静だった。


(どうなってもいいや)


そんなことを思った。


「いいの?」


「うん」


「ほんとにいいの?」


「いいよ」


「…ほんとに?」


「…」


(そういえば、私生理になってるんだったな…)


「…言いたくない?」


「……」


市村くんは何もせずにただ隣にいてくれた。


「頭浮かして?腕枕」


市村くんに包まれて、眠ろうとする。


でも、全然眠れなかった。


市村くんは微動だにせず、ただ寄り添ってくれる。


(寝相いいんだな…)


ただただ、目を瞑る。


「…起こした?」


「…ううん、起きてた」


途中、そんな会話があった。


(手、握りたいな…)


そう思ったけど、握れる関係じゃない。


そうして目を瞑ってたらいつの間にか寝てた。




4月21日


気付くと朝になってたけど、市村くんは変わらず腕枕のまま抱きしめてくれてた。


そのままぼーっとして、時計を見ると6時過ぎだった。


その時に市村くんを起こしてしまって。


「帰る?」


「…うん」


「…映画、いくの?」


「行くよ」


市村くんは、ギューッと私を抱きしめてくれる。


「行かせたくない…!」


私は、無言のまま抱き締め返した。


そのまま何分か経って、部屋に帰る。


部屋の扉を開けると、いつもと違う匂いがした。


私はなんだか具合がすごく悪くて。


トイレに引きこもった。


その時に、部屋のドアが閉まる音がした。


すぐにトイレを出て、純麗ちゃんを確認。


「純麗ちゃん?」


「…ん?」


寝てたのか?


今のはなんの音だったんだ?


気になったけど、具合が悪かったので無視。


ベッドに横になっても寝れない。

トイレに行っても何もない。

とりあえずシャワーを浴びた。


幾分か具合の悪さが無くなって、そのままベッドで寝た。


また朝起きて、純麗ちゃんの横に座る。


「…まじで、最低なことを、してしまった…」


声を振り絞って言う。


「昨日、探してくれたんでしょ?…ごめんね。市村くんの部屋に行ってた…」


すると、純麗ちゃんはポロポロと泣き出して。


「…私もね、尾瀬くんと…。彼女いるのに何してんだろ…」


「…そっか。…好きなの?」


「彼女いるから、フタしてたけど…」


純麗ちゃんがポツリポツリと言葉をだす。


「…好き…」


消え入りそうな声で言われる。


「…あー…。そっか…。そうだったんだ…」


もうなんだか、2人で涙が止まらなくなった。


2人で泣いて、私は約束してた時間になって、慌てて涙をふいて部屋を出る。


そして、武田くん、砂子くん、切建くんと映画へ。


私は4人で仲良く話したかったけど、なぜか武田くんとやたら2人になった。


お昼ご飯の席も隣、映画の席も隣。

歩いている時もずっと2人。

なんで?


映画では、あまりに寝不足過ぎてうとうと。


ちょうど目を瞑っていた時に、武田くんに肩を叩かれる。


「寝てんじゃん!」


「う…」


「トイレ行ってくるね」


「うん」


見られました。恥ずかしい。


映画が終わって、3人にいじられる。


(市村くんの部屋に行ってたから眠い、なんて言えん!!)


この後どうする?となって、カラオケに行こうかーとなる。


田中くんと菊池くんと佐藤くんも誘うらしい。


女子は誰もつかまらず…。


純麗ちゃんは尾瀬くんと自習室で自習してるらしい。

帰ったら話を聞かなきゃ。


「あ、あれ、例の公園じゃん」


砂子くんが言う。


例の公園。

純麗ちゃんと4人で、無言の時間を過ごした公園。


(…え?切建くんもいるのにその話する?)


「気まずいかもしれないけど俺らまじでいじるからね??」


切建くんも続く。


(…あれ?知ってるの?)


「切建くんにも言ったの?」


「うん。いつものあのメンバーには言った」


いつものあのメンバー。

多分、これからカラオケに行くメンバーかな。

みんなで遊びに行くって言ってたのに連れ出したから、説明しとかなきゃだよね。


そして7人でカラオケへ。


「男子ばっかだけど大丈夫?」


武田くんに心配される。


「全然大丈夫。むしろ私邪魔じゃない?」


「邪魔じゃないよ!みんなサインはB聞きたくて集まったんだよ」


……え?なんで?


カラオケに着くと、私の隣に武田くんが座らされる。


「俺らはガッツリいじるからね!」


正直その方が楽だなあ。

友達として割り切れるし。

変に気使われたくないし。


カラオケにはコンビニで買ったお酒を持ち込んで。


その時に、武田くんはまた私のお酒を飲んだ。


(あー、あの時も、下心なんてなかったんだな…)


周りにいじられて、2人でとびら開けてを歌おうとする。


私は別に平気だったけど、周りは冗談だったようでタジタジ。


「これ最後結婚するけど大丈夫?」


セリフ言うだけだろ。気にせんわ。


「俺ね、多分この子産んだわ」


なんでそんな話になったんだか、切建くんにそんなことを言われる。


「えー?何月生まれ?数ヶ月でパパになったんだねー!」


なんてお話をした。


正直、このカラオケは過去一楽しかった。


打ち解けたみんなと歌で盛り上がって。

全員で合いの手を入れまくって。

私の歌でもみんなが盛り上げてくれて。


途中で雨が降り始めたらしく、武田くんは傘を買いに行った。


「一本にみんなで入る?笑」


「いいね!そん時は真ん中だよ?」


「え、私が?」


「濡れたら困るからね」


「それは皆でしょ!おしくらまんじゅうみたいにして歩くかあー」


なんて話してたのに、外に出ると私と武田くんの相合傘。


あーーー、はいはい。

こういうことできちゃう人なんですねーー。


寒いねって話をしたら、武田くんが、濡らしたくないって脱いでた上着を私にかけようとする。


「濡らしたくないんでしょ?いいよ!」


「いや、そんなのいい」


私が濡れる方が困る、なんて言う。


なんでそんなに大事にしてくれるわけ??


(あー、今までのも、ほんとに、友達として大事に思ってくれてただけだったんだなーー)


口論の末、武田くんの上着を羽織って2人で歩く。


5人は何故か傘もささずに私達を置いて遥か前を歩いてた。


「まだ寒い?」


「うーん、寒い…」


「じゃあ、必殺技使ってもいい?」


「いいよ、なにー?」


肩をギュッと抱き寄せられ、擦られる。


頭真っ白。


「どう?寒くない?」


「…うん、寒くなくなった!もう大丈夫!」


て言って離れる。


でも、傘からはみ出ないようにしてくれてるのか、触れてはないけど腰の辺りにずっと武田くんの手があった。


(これが武田くんの友達の距離感かあ…)


今までのはほんっとーに勘違いだったんだなあと実感。


一旦解散して、ロビーで武田くんと切建くんと集合。


月曜日は朝礼がなく、火曜日になった私のスピーチの作戦会議をするため。


切建くんに、武田くんにした話と同じ話をして。


「うん、めっちゃいいと思うわ。これ俺らいる?」


なんて言ってくれる。


「あとは、この話に入る前にいかに面白くするかだよね」


と言って、2人が肉付けしてくれる。


会議終わりに、切建くんが、私たち二人のことについて話してて。


「俺も彼女と別れたばっかだから偉そうなこと言えないけど」


みたいなお話をしてくれた。


「あーー、俺も彼女と別れようかなーー」


なんて、武田くんが言う。


(……え?)


聞こえないふりをしちゃったけど、どういうこと??


彼女より、私と付き合うことを選んでくれるってこと??


そのまま部屋に帰って、純麗ちゃんに話を聞いてもらって、純麗ちゃんの話も聞いて。


尾瀬くんは、彼女と別れる気はないらしい。


純麗ちゃんはボロボロ泣いてて、それを見て私も泣きそうになって。


でもその話を聞いたら、別れようかな、なんて言っていた武田くんに期待してしまう。


今日の言動も、ただ私が好きだからやってたのかもしれない。


(いや、もう友達だ…)




4月22日


バスで別のホテルまで行って、お偉いさんが大勢いるところで会社の説明会みたいなの。


また乗るバスだけが決められてて、みっちーと最後尾を歩く。


乗り込むともう座席がほぼなくて、坂口くんの隣にみっちーを座らせて、私はその隣で補助席に。


反対隣にはシンバがいて、その隣に前田くんが。

シンバの前には市村くんがいて、明や栗原くん達仲良しでかたまってた。


どこの情報で伝わっていたのか、みっちーが坂口くんを推しているということで、シンバと前田くんと3人で囃し立てる。


「いけ!話しかけろ!」


「……え、なんて話しかければいい??」


「スマホで何見てんのーって!」


お互い口下手すぎてすぐに会話が終わってしまう2人を応援。


弾んできたなーということで寝ようとしていると、シンバが私のやっている対戦ゲームをし始めた。市村くんと部屋でやったゲーム。


「え、私もやってるよ」


「まじで?対戦しようぜ!」


前田くんや後ろに座ってたユーロもやっていたようで、みんなで盛り上がる。


その後は、やっぱり私と武田くんの話になって。


「あれからどうなん?」


相合傘して、肩を抱き寄せられて…って話をする。


「それはね、ナメられてると思うわ」


シンバは真剣に相談に乗ってくれて。


でも市村くんが、栗原くんとゲームをしながらこっちを気にしてたので、早々に切り上げた。


結局、一睡もしないまま現場に到着。


みっちーに、坂口くんとどうだったか聞くと、話してる内に冷めたらしいキョロキョロ


絶っっっ対に寝るなという指示のもと、決められた席に座る。


ユーロ、市村くん、私、岡崎くんの順。


市村くんの真後ろは武田くんだった。


「眠そー!寝てたら起こしてあげる」


「ほんと?お願い!市村くんは眠くないの?」


「え、俺も眠い」


「だめじゃん!じゃあ一緒に寝るかー」


なんて市村くんとお話する。


説明会が始まって、眠くてカクカクしていると、市村くんがつついて起こしてくれる。


眠気覚ましのためか、ノートに絵を描いて、絵しりとりまでしてくれた。


(あー、可愛いなー)


お昼になってお弁当が配られて、私はまた残して市村くんに食べてもらう。


「ユーロって愛梨ちゃんとどうなったの?」


「あー、なんかもういいらしいよ」


「え!?どういうこと!?」


「よくわかんない」


その後はユーロも一緒に3人でゲーム。


一度、トイレで席を立つと、武田くんも後からついてきて。


「今日夜何するの?」


「純麗ちゃんとコインランドリー行く予定!」


「そうなんだ。俺らも行こうかな」


「一緒に行こっかー」


席に帰ってきて一人でボーッとしていると、市村くんがユーロと話している声が。


「もう今彼女に別れようって言った。もうスマホ見ない!電源切った!こわっ!」


…聞こえないふり。


ずっと別れられなかったのに、今このタイミングでなんで…。


私のことが、あるからだろうか。


説明会の後には懇親会があり、私は市村くんとユーロと同じ班だった。あとは別の職の知らない人。


はじめは一人で食べてたけど、途中からは市村くんが話しかけてくれて、一緒に食べ物を取りに行って一緒に食べて。


そのまま解散になって、市村くんとバスに乗り込んで隣に座る。


たわいもない話をして、2人で笑う。


途中で胡中くんがマイクを繋いで、話したりカラオケをしたり一発ギャグをしたり他の人に振ったり。


市村くんの声が聞こえにくくなった。


「…あの日さ、ほんとに初めてだったの?」


「うん、初めてだったよ」


あの日、でいつのことかすぐ分かる。


市村くんはすごく気にしてくれてたみたい。


たくさんお話をして、ごめんね、と謝られて、ごめんね、と返す。


弱ってるところにつけいってごめんね

寂しさを埋めるために利用してごめんね

そんな意味合いだと思う。


応援する、と言ってくれた市村くんに、感謝しかない。


「さっき言ってた武ちゃんとの話ってなんだったの?」


雨の中肩を…って話をまたする。


「悪い風に言ったらね?キープなのかなって思っちゃうよ俺は?わかんないけどね?」


真剣に考えて答えてくれる。


「ありがとう。ほんとーに良い奴だなあー」


「やめて、それが一番傷つく」


それからも色んな話をした。


一緒に散歩をした日、本当は2人で橋を渡るつもりだったとか

市村くんからの好意に気付いてたから気遣ってたとか

武田くんへの感情が迷子だとか

実はあの日、私を起こさないようにめちゃめちゃ気を使ってたとか


「俺いびきうるさいからさ、寝たら絶対迷惑かけると思ってめっちゃ頑張ってたんだよ?」


もう、良い奴すぎてどうしよう。

絶対に、もっといい人と幸せになって欲しい。


「起こした?って聞いたじゃん?あん時ちょっと寝ちゃってて、ハッて目が覚めたときに動いてたから、俺のいびきで起こしちゃったのかと思った」


だって。なんて健気なの。可愛すぎるよね。


「俺はおはようとかそんなLINEくれるだけでももう、一日頑張れちゃうくらい喜ぶよ?」


なんて言ってくれる。

絶対LINEしよ。


あー、隣座って良かったな。


部屋に帰って、待ち合わせて純麗ちゃん、武田くん、切建くんとコインランドリーまで歩く。


近場のコインランドリーは全部埋まってて、遠くのコインランドリーまで歩いた。


その間、ほとんどの時間は私と武田くんが隣で歩いてて。


…やっぱり、話してて一番楽しい友達かもしれない。


洗濯待ちは、隣のコンビニに行って、残りはコインランドリーの中で遊ぶ。


小さい子向けのおもちゃで武田くんと2人ではしゃいで。


純麗ちゃんと切建くんはスマホやテレビを見ながらたまにお話してた。


帰り道はまた武田くんと2人でお話しながら歩く。


(あー、やっぱり楽しいな)


ホテルに着くと、もう門限の10時になりそうだった。


「俺と、悪いことしませんか」


「悪いこと?」


「今から散歩に行こ。こないだめっちゃ夜景の綺麗なとこ見つけた!」


「いいねー!悪い子になっちゃおうかなー」


夜景になんて誘われたら、期待しちゃう。


(何か、あるのかもしれない…)


一度部屋に帰って荷物を置いて、外に出る。


外の喫煙所に、あまり話したことの無い顔がいた。


インフルエンザで当分の間休んでいた松村くん。

名前だけは聞いたことがあった辻くん。


「うい」


「うい!どこ行くの?」


「え、わかんない…」


「え!わかんないって何!?不思議ちゃんすぎるでしょ!!」


「いや、違う違う!散歩!」


ちょっとお話してる間に武田くんがやってくる。


そのまま、2人で散歩。


またたわいもない話をして歩いて、夜景を一緒に見る。


夜景を見ながら、何かあるのかもー!なんて期待してたけど、特に何も無かった。


ひたすら2人で夜景を見ながら、お喋り。


その帰り道。


「…何かさ、俺に怒りたいことある?」


「怒りたいこと?……んー…。…わかんない」


「…そっか…」


怒ってほしいんだろうか。


でもまず、何から?


彼女いるのに2人の散歩に誘うなとか

私のお酒飲むなとか

なんで名前で呼んだんだとか

なんで夜景なんて誘ったんだとか


だけどどれも、その時の私にとっては怒る理由になんてならなかった。


「……好きなタイプとかさ、どんな人?」


「…え?」


……なんでそんな質問?


「んー、一緒にいて、楽しい人」


「俺、ゲームできないからなあー」


…どういうこと?


「……嫉妬してる?」


「……俺が言えた立場じゃないけど…」


私が市村くん達とゲームしてたのを、後ろから見て思ってたんだろうか。


……こんなの、喜んでしまう。


「…怒ってること、あった」


「なに?」


「昨日、傘の中で、近かった」


「……そうだよね。ごめんね」


そこからホテルに帰るまで、武田くんについてひたすら話を聞いた。


彼女とは長いから、もう会いたいとも思わなくなった。

でも、いるのが当たり前すぎて別れるなんて考えられない。

研修では毎日私といたから、帰ってからどう思うか分からない。


「帰ったら、ちゃんと話す」


「……研修が終わってから?」


「うん。……遅い?」


首を縦に振る。


(遅すぎるよ…)


帰り道は、話すより無言の時間が多かった気がする。


「俺ってクズでしょ?」


「…うん。最低だ」


いつもみたいに、そんなことないよ、なんて言えなかった。


「……私もね、クズなところがあって」


思い切って、切り出した。


「……土曜日にね、すごく、ヘコんでたから……。会いたいって言ってくれたから、… 市村くんの部屋に、行った…」


「……行っただけ?」


「…ううん。お話して、ゲームして、……。ちゅうして、寝た」


「……そっか」


「クズでしょ?」


「ううん。それは俺のせいだし……。あんまり、気にして欲しくないかも」


ちょうど、ホテルに帰ってきた。


もうちょっと歩くこうって武田くんが言ってくれる。


「お話もゲームも楽しかったし、抱きしめてくれて安心もしたけど…、全然心が動かなかったから、私はやっぱり武田くんが好きなんだなって思った」


そこからはあんまり、何を話したんだったか覚えてないけど。


(手、繋ぎたい)


そればっかり頭にあった。


何分も経って、お話が一段落して、声に出してみる。


「手!繋いでもいい?」


「…え?…いいの?」


「うん。繋ぎたい」


ギュッと、手を握る。


ずーっと思っていたことが、やっと叶って。


幸せで胸がいっぱいだった。


「今どんな気持ち?」


「んー?ふふ、幸せ」


そこからは、あの時本当はこんなことを思ってた、という答え合わせが始まって。


「なんで俺の事いいなって思ってくれたの?」


「え?んー…」


恥ずかしくて、武田くんの顔を見つめてみる。


武田くんは不思議そうに私を見てて。


「ふふふ。一目惚れした」


「え!?俺そんなにかっこよくないよ?」


「んー…。顔だけじゃなくて、雰囲気とか、色々」


なんとなく、2人で公園を探して歩く。


「私ね、恋愛とかできないんだろうなーって思ってたの」


「そうなの?なんで?」


「LINEとかめんどくさいし、土日遊びに出るのも嫌だし。でもね、武田くんとは、LINEは楽しいし土日ももっと遊びたいし、全然だった」


公園を見つけて、手を繋いだまま椅子に座る。


しばらくお喋りをしてたけど、連日寝不足だし、時間も1時を過ぎてたし、眠くて眠くて、それが武田くんにも伝わってて。


「寝てもいいよ」


なんて言って肩をかしてくれる。


私は素直に肩をかりて、目を瞑った。


武田くんは私の頬を撫でてて。


(…キス、されるかも)


でも、時々顔を上げて目を見つめてみても何もなくて。


(また、期待しちゃった)


「今は?どんな気持ち?」


同じ質問。


でも、感じてることはずっと一緒。


「…幸せ」


「俺も。……もう、今のことだけ考えよ!」


そう言われて、武田くんの顔を見る。


そこで、キスをされて。


「…上書き」


なんて言う。


「目、覚めた?」


「…うん。覚めた…」


そこからはまた、ただ無言で寄り添いあってた。


「市村とは、寝ただけ?」


「うん。寝ただけ」


「…そっか」


そろそろ帰ろっかとなった。


公園を出て歩いていると、武田くんが立ち止まって私の手を引っ張って。


「ぎゅうー」


抱きしめられた。


びっくりして、どうしたらいいか分からなくて、背中に腕を回してみる。


しばらく抱きしめ合って、またホテルまでの道を歩く。


「切符買いに行った時ね、次の日一緒に遊べないかなーって思ってた」


「…俺も思ってた。でも言える立場じゃないから…」


研修の次の日、2人で遊ぼっかとなって。


「どこに泊まる?」


「ん……」


ホテル!なんて言えないおねだり


キスだって上書きしてくれたし、腕枕も上書きしてくれないかな…。


「ネカフェとか泊まったことない」


「そうなの?ネカフェいいじゃん!でも寝るとこじゃないよ?」


「え!寝れない?」


「寝れなくは無いけど…」


「じゃあ、ホテル…」


「2つ部屋取る?」


「1つ!」


「いいの?」


「…嫌?」


「俺はいいけど…」


私が決めることだと言われる。


「武田くんが決めることじゃない?」


彼女いるんだし。


「いやいや、俺が決めるものじゃないよ」


「…一緒に寝たい」


「……なら、予約するよ?いいの?」


「うん。お願いします!」


ほんとに他意はなかったんだけど。

今考えたら、なんて大胆な発言キョロキョロ


ここ、初めて散歩した時に歩いたねーなんて話しながら、ホテルに帰る。


「明日のスピーチ、頑張ってね」


いつも通り、エレベーターで別れる。


市村くんから、今日は話してくれてありがとうというLINEが来てて、私も話せてよかったと返してから寝た。




4月23日


朝起きて、市村くんから返ってきてたLINEを見る。


“そんなに遅くまで勉強してたの?”


…説明、しなければ。


市村くんにはもう、嘘とか隠し事とか、したくないな。


“武田くんとお散歩してた。嫌じゃなかったら、その話もまた聞いて欲しい”


“なんでも聞くよ!”


“ありがとう!面と向かって話したい”


私が市村くんを巻き込んでしまったし。


LINEで済ませるのは絶対ダメだと思った。


お昼に話そうとなって、朝ご飯を食べに食堂へ。


「今日朝礼当番じゃん!頑張ってね!」


切建くん達に言われて、一層やる気が出てくる。


研修会場に行って、私の朝礼で一日が始まる。


スピーチは、考えてたことがトんでボロボロだったけど、終わると皆が褒めてくれた。


「まじでよかったよー!」

「感動した!」


……本当に思ってるのか??


市村くんはまた、前の時みたいにたくさん話しかけてくれて。


私がウトウトしてたら、ノートを渡してきてユーロと3人で絵しりとりもしてくれた。


お昼ご飯を食べに行く時に、市村くんとお話しながら歩いて。


「武ちゃんとどうなったの?」


「付き合うとかでは無いけど、帰ったら彼女と話すって。だからもう大丈夫。市村くんにはごめんねとありがとうを伝えたくて」


「そっか!良かったね、おめでとう!」


「…ごめんね、ありがとう」


その後は雑談しながら食堂まで行って、お昼ご飯を食べた。


研修が終わり夜ご飯の後は、武田くんと駅まで行って新幹線の切符の日にちを変えてもらった。


なんとなく、駅までの道とホテルの近場では手を繋げなくて。


ちょっと遠くまで歩いて、どちらからともなく手を繋ぐ。


何も言ってはないけど、多分お互い公園を探しながら歩いてた。


大きい公園に着くけど、雨が降っていたのかベンチが濡れてて座れそうになかった。


俺がベンチに座るからその上に座る?なんて言うけど、それってどんな状態になるの?凝視


そのまま、帰ろっかーとなって公園を出ようとする。


すると、前を歩いていた武田くんが急に立ち止まって振り返り、抱きしめてくれた。


キスされて、また抱きしめられて。


「安心する?」


「…うん」


本当は安心なんかしてない。


ドキドキバクバクで、どうしたらいいか分からない。


でも、市村くんに抱きしめられて安心した、というのを聞いての発言なんだろうな、と思うと、肯定するしかなくなってしまった。


しばらくして、またキスされて、舌が入ってきて。


いつの間にか、武田くんの唇が私の首筋の辺りにあった。


(漫画で、見てたやつだ…)


でも、すぐに離れてまた歩き出す。


今度は、手を繋ぐんじゃなくて武田くんが私の肩を抱いてる。


(たまに見る、バカップルじゃん…)


なんでもない話をしながら。

道路工事中の人達の真横を通っても変わらず。

大きい道路に出てもそのまま。


(彼女とも、こうやってデートしてるのかな…)


そんなことを、思ってしまった。


「このまんまと手繋ぐの、どっちがいい?」


「んー…。……手繋ぐの」


即決だったけど、迷ってるフリをしてみた。


また手を繋いで歩く。


「一つ、聞いてもいい?」


「なに?」


「帰って彼女と話すまでは、どうなるか分からない?」


ずっと気になってたことを、思い切って聞いてみる。


「ん………。…うん…」


「そっか。わかった」


「ごめんね」


「うん」


そこからは、私が無理矢理話を変えてホテルまで帰った。


こればっかりは、私じゃどうしようもない。


武田くんを、待つしかない。




続く