「M.バタフライ」の思い出 | 東京散歩 * Allons Nous Promener aux Milieux de Tokyo

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こんにちは!
Milieux de la Cultureです。

先日の本ブログでは、帝国劇場のミュージカル「ミス・サイゴン」について書きましたが、その最後で「M・バタフライ」について少し触れました。
今日はその「M・バタフライ」について。

「M・バタフライ」はディヴィッド・ヘンリー・ウォンによって書かれた戯曲です。1988年にトニー賞も受賞しました。

この戯曲は、1986年に判決が下された、外交官として中国に赴任したフランス人男性とその“恋人”であった中国人京劇歌手が起こしたスパイ事件からヒントを得て書かれたものです。

この事件にはおまけがありました。
フランス人男性が恋した中国人京劇歌手は、実は男性だったのです。
しかし彼は20年間も恋人のことを「女性」だと思い込んでいました。

というのも、フランス人男性は、彼女の裸を一度も見たことがなかったんだそうです。20年も恋人関係を続けてきて、そのことに疑問を持たなかったのか、と問われた彼は、次のように述べたんだそうです。

「彼女はとても慎しみ深いと思っていました。ああいうのが中国の習慣だと思ったのです。」

アジアの女性はおとなしく従順で、慎み深くて…。
ピンカートンが「蝶々さん」に対して抱いた東洋の女性に対するステレオタイプにそっくりです。
ディヴィッド・ヘンリー・ウォンが、このスパイ事件をモチーフにした戯曲に、プッチーニのオペラ「マダム・バタフライ(蝶々夫人)」をもじって「M・バタフライ」と名づけたのはそのためです。

ところでこの「M・バタフライ」、実は1990年に劇団四季によって上演されています。
下は当時のパンフレット、右は『M・バタフライ』の訳書です。

M・バタフライ


訳書のほうは装丁が変わったようですが、もう絶版のようですね。
1995年にはジョン・ローン主演で映画化もされましたが、こちらもDVD化はされていないとのことです。

M.バタフライ

お芝居フリークでもない私がどうしてこのパンフレットを持っているのかというと。

私は、この1990年の劇団四季の公演を見たからなのです。
まだ子どもでしたが、叔母が付き合いかなにかで手に入れたチケットが一枚あまっているから、ということで、どんなお芝居かも知らず、もちろん「劇団四季」のことも全く知らずに見に行ったのがこのお芝居です。
思い返せば、子ども向けのお芝居を除けば、きちんとしたお芝居を見に行ったのは、これが最初でした。

このお芝居でキーパーソンとなる京劇歌手―女性を装っていた男性ですが―を演じたのが、今回の「ミス・サイゴン」で残念ながら降板となった市村正親氏でした。

M・バタフライ


しかも今になって気がついたのですが、このお芝居の舞台装置・衣装を手がけたのは、今は亡き石岡瑛子氏だったとのこと
市村氏がまとった艶やかな衣装も、彼女の手によるものだったんですね。

M・バタフライ


もう20年以上前に見たお芝居で、予備知識もないまま見たので、舞台の細かなことはあまり覚えていませんが、「実は男だった!」というストーリー展開にびっくりしたことは覚えています。

唯一記憶に残っている舞台のシーンといえば、京劇歌手が「自分は男だ」と証明するところで、かつての恋人の前で丸裸になるシーン。

ここで市村氏が観客に背を向けて素っ裸になったのです。
子どもだった私の目にも、きゅっと引き締まった市村氏のお尻が今なおやきついています

この戯曲の秀逸なところは、西洋/男性が東洋/女性に向けるまなざしの暴力を、パロディという手法でシニカルに表現している点です。
今でこそ、エスノセントリズムなものには世界中からチェックが入るようになりましたし、LGBTの活動もあちこちで見られるようになりましたが、1980年代後半という、まだまだ西洋中心主義・男性中心主義がまかりとっていた日本で、原作が出されてまもなく日本でも上演されていたことにいまさらながら驚きます。

でもそのメッセージを受け取った人がどれぐらいいるのか、となると…。
ちょっと複雑ですね。

なお、ここで書いたような話は学術的にも検討されています。
ご関心のある方は、以下をお読みになることをお勧めします

オリエンタリズムとジェンダー―「蝶々夫人」の系譜

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