ー運動障害、感覚障害、神経因性膀胱なら、
脊髄損傷でも起きます。
ーしかし、脳神経まひ、高次脳機能障害は、脊髄損傷で起きず、
脳損傷でないと起きません。


ー石橋先生の神経診断学は半世紀に築かれたもので、
当初は「身体性機能障害」まででした。
ー解剖学と照らし合わせ、精密に築いてきたのです。


受傷の現実は複雑ですが、
神経診断学によって、病気をつかまえるのです。
ーひきつづき、多発性脳神経まひの諸相です。


第2の3 視神経、動眼神経、滑車神経、外転神経の障害
 これらは「視力、視野、眼球運動に関係する脳神経であるが、軽度外傷性脳損傷においては、脳が大脳皮質にある投射中枢からこれらの脳神経核を経て末梢効果器に至るまでの広い範囲で障害が起こることから、眼症状の発現には、広く、大脳半球の前頭眼野、頭頂眼野、後頭葉の視覚野、後頭連合野とこれらの脳神経を結ぶ神経線維および介在する神経核が関与しており軽度外傷性脳損傷の眼症状は複雑である。
 そのため、軽度外傷性脳損傷の被災者を診察すると、視力低下、視野狭窄、視野欠損、眼球の運動障害、眼瞼(がんけん)下垂、複視、遠近感がなくなり外界がゆがんで見える調節機能障害、視野が極端に狭くなったと感じる求心性視野狭窄等、様々な訴えが確認される。人ごみの中を怖くて歩けない、テレビの動画に眼が追いついてゆけなくなりテレビを見なくなった、そばを通る人が目に入るとめまいがして倒れてしまうという眼球運動皮質性調節機能障害という切実な訴えも存在する」(乙21・18頁)。


 原告には滑動性眼球運動異常があり、神経眼科で調節障害と診断されている。


第2の4 三叉神経の障害
「三叉神経の麻痺については、顔面や角膜の知覚を調べたり、左右の咀嚼力の検査で咬筋の麻痺をチェックし、麻痺の有無を判定する。知覚障害については、軽度外傷性脳損傷の被災者からは、顔の感じが左右で少し違うという程度の訴えであることが多い。また、軽度外傷性脳損傷の被災者のなかには、顔面の温痛覚は鈍麻しているのに、触覚が温存されている例が稀にある。


ー三叉神経障害で角膜の知覚が鈍麻してくるために、患者の目のそばに虫が近づいても瞬目することが遅れて目の中に虫が入って困ると訴えることがある。角膜反射は、求心路は三叉神経であるが、遠心路は顔面神経であることから、顔面神経麻痺も関係してくる。


ー咬筋麻痺については、三叉神経運動核は、左右の大脳の二重支配を受けるために両側麻痺でない限り片側性脳障害ではほとんど麻痺を認めないとされるが、実際は片側性核上性麻痺では傷害の反対側にヨリ強く麻痺の影響が出て、奥歯で食べ物を噛んでも、噛む力が弱くうまく噛めない。


ー軽度外傷性脳損傷では、顔面半側の知覚麻痺がしばしばみられる」(乙21・20ないし21頁)。


 原告は右顔面の痛覚も触覚も低下し、右側の角膜反射が消失し、右側の咬筋が麻痺する。(つづく)